総l攻撃開始前
12 総攻撃開始前
日時は12月23日午後9時頃、あの魔神に挑む者達の各陣営は総攻撃の為の準備に追われていた。
この恐怖の軍団ことエキスグラメーションの先鋒部隊は、みんなはしゃぐような黄色い声で賑やかだ。
少女達や武器を持たせて戦えるように訓練された子供達がその先鋒を務めるのだ。
その後続に女達の部隊、そして最後に男達が攻め込むように配置される。
本来守るべき者が最初に戦うその異常な軍形、正気の者が見れば目を疑っただろう、
この軍団の総参謀を務める群青の悪魔は笑いを浮かべてその布陣の完成を見つめる。
それに腕を組んで見つめるのは無表情な顔の王、そして何か言いたげに群青の悪魔を見る。
「貴方様が最初に切り込みたいと考える気持ちはわかりますがそれは容赦していただきたい、兵には兵をもってあたらせるのが兵法の定石、王が自ら先陣を切るなど大昔の豪傑話、まして一騎当千がいると知れれば士気の低下が生じてしまう、貴方様は英雄でなく支配者なのです。だから支配した者は全て貴方様の腕であり足でもある。まして敵にはたいした豪傑もいないでしょうから、あの蹂躙の悪魔はこちらには来ないと読んでいますゆえ、だからこの兵法で進める限り軍は前進いたします」
自分が暴れられないことに不快を感じる石崎だが、この朴の言うように雑魚をいくら殺しても楽しくないのは確かにそうだ。
しかしあの陣形にはあまり納得できない、
「でもよ、あんな役に立ちそうにないガキや女を1番に戦わせるのは何の魂胆だ?わざと足手まといを最初に殺させようというのか?弾よけのつもりか?それとも敵を単にびっくりさせるための奇策か?」
そんな質問ををあらかじめ想定していたみたいに群青の悪魔は淡々と語りだす。
「弾よけとびっくりさせる奇策であることは当たっておりますが、しかし足手まといというのはちょっと違いますな、あの先鋒の者達にはかの兵士から奪った守護石を持たせております。あの憎しみの感情の想念の結晶たる石を、そしてその憎む心が強いほどその力は増加する。あの基地の司令官が貴方様の剣戟を防げたのもその力ゆえで御座いましょう、しかし女子供を憎める者はいますまい、だから引き金を引く指はためらい重くなる。必然にその憎しみはそれを強いた者に向かうでしょう、そこが我らの付け入る隙、あの魔神が兵士に与えし石は欠陥品ゆえ守備力のみにしか力を持たない、だから憎しみの感情は放てないのです。しかし我らは契約書の力で憎む者を攻撃するに力を与えました。そして憎しみに憎しみがぶつかり合う、より憎しみが強い方が勝つは必然、そしてその憎しみをより強力にするために用意されたのが絆の呪い、あの女子供の中に守護石を持たぬ者もいるのです。目の前でその絆で繋がれた者が殺害されたら人の心はどうなりますかな?もしそれが守ってやりたいと願う者であったなら、愛している者なら、大丈夫、貴方様に憎しみを向ける者は我が軍団にはおりません、その為の契約書ゆえ、その憎しみをぶつけられるのは魔神の軍団、目には目を歯には歯をという事です。それで城跡まで進撃してそこを占拠いたしましょう、多分そこからが最大の激戦地になりますゆえに、わが軍の他には南方からは組織が、東方からは悪魔の頭領が、そして北方からは死者の軍団が進撃して来ますゆえ、だから最初に陣を張った方がよいのです。我らの出番はそこから先、あの虹に道を作るだけ、その為の大量破壊兵器は用意してあります。ここの地下にあったものですが利用しない手はないですゆえ」
その聞かされたそんな悪魔の戦術に石崎は笑みを作ると、
「その憎しみって奴は強い方がいいんだな?あの連中の中で1番その絆が太い存在っているか?」
無表情に戻って無感情にそう尋ねる。
「元アイドルと称する娘、そんな皆を励まし歌い勇気を与えていた存在がいます。皆は彼女の事を好いております。だから守りたい者の筆頭かと…」
石崎のそんな意図に気づいた群青の悪魔は笑顔になってそう答える。
「憎しみって奴は最初から強い方がいいな…」
「御意」
そう返事して群青の悪魔の姿が消える。
銃を手にする少女達の部隊を前にして車椅子の少女が檄を飛ばそうとするが、
「えっと…チョーって言ったらだめだから?…」
しかしその最初からつまずいて慌てて手にしたメモを棒読みし始める。
「えっと…世界に破滅をもたらす魔神はタワーにいる。だから私達は奴らの…え、何これ、何て書いてあるの?」
でもそのメモを読めず焦って後ろを振り返る。
そしてそれに答えようとする希久恵を慌てて手で制する。
「チョー待って!あんたがしゃべったら最初に謝るから威厳もくそも無くなる。だから黙っいて、て感じ、ああもううざい、ちょっと誰か代わりに読んでよって感じ」
そんな焦る良伊子からメモを受け取る少女がいる。
「わたしが代わりに読んでもいい?」
その隊長を示すびっくりマーク2つをアイドルのような衣装に付ける少女は微笑んで尋ねる。
「えっと、あんたは確か第2小隊の隊長の元アイドルの白石睦美、て感じか?あんたならうってつけって感じ、いいわ、この王様の命令の激っていうのを換わりに読んでって感じ、チョーうざいから」
そして微笑む睦美は手にしたメモをさっと読みながら、
「今でもアイドルのつもりなんだけど…まだ事務所を首になったわけじゃないから…」
そう答えてそしてメモを良伊子に返すとよく通る大きな澄んだ声で、
「世界に破滅をもたらす魔神はタワーにいる。だから私達はその破滅を止めるために立ち上がり、そして魔神を倒し平和な世界を取り戻さなければならない、その為に我らは王の先鋒となって魔人に立ち向かう勇敢なる矛先になる。その最初に魔神に挑む事を誇りにして、そしてその勇敢な姿を後ろで震える男たちに見せつけるのよ、私達は彼らを奮い立たせる鞭になり、そしてその可憐な姿で戦場の花となるのよ、それを摘み取ろうとする者を傷つける刺をもつ戦場の花に、そして最後に天使となる。この世界に平和をもたらす勇者を導くために、この私達戦場の花達に勝利を、そして私達の王に勝利の力を!」
最後に叫ぶように演説して手を振り上げる睦美に少女達も手や銃を振り上げ歓声で答える。
2人の眼帯の魔女はその光景をあっけにとられたように見つめる。
そして見つめ合って互いに首を振る。
互いにあんなにカッコいいことは自分には出来ないと思ったから…
とにかくその演説に感激した希久恵は睦美に歩み寄ると握手を求める。
「ごめんなさい、あなたすごいわ、私も感動しちゃった。なんか頑張るぞって気持になって、だから貴女も頑張ってね」
しかし手を差し出された睦美はびっくりして後ずさる。
その四天王と呼ばれる組織の大幹部がいきなりなぜか謝ってから手を差し出して来たのだから当然の反応だろう、そしてこの少女は美形でクールなあの少女達のあこがれの王様の妹なのだ。
しかし気を取り直すと睦美は差し出された手を握り返す。
辺りに拍手と歓声が鳴り響く、
「ありがとうございます。私もがんばります」
その元アイドル?は笑顔で希久恵にそう答える。
しかし希久恵は自分の顔を見ていない、その視線は胸元を見つめている。
その視線に気づいた睦美は見つめられるペンダントを手にして微笑む、
「ああ、これはお父さんからもらったの、お守りの石なんだって、だから大切にしているのよ」
そう言われて希久恵は初めて我にかえったような表情に戻ると、
「ごめんなさい、綺麗な石ね、ピンクストーン?桃色の石…奇麗な色…あの美世さんの石より薄い桃色…なら絶望が貴女を…わかったわ、その舞台は既に用意されているのね…」
呟くようにそう告げる。
その言葉に怪訝な表情を浮かべる睦美は、
「えっと?…何の事だかよくわからないけど、この石が気に入ったの?でもこれはお父さんの形見になっちゃたから、だからあげられないんだけど…」
そう言ってペンダントを隠すように握る。
「ごめんなさい、欲しいなんて思わないわ、そんな事は出来ないし、それは貴女の物よ、そうね大切なお守り、だから貴女はこの戦いで死なないわ、それが幸運なのか不運なのかはわからないけど…でも大丈夫、きっと貴女は救われる」
そう告げると希久恵はびっくりマークを1つ取り出して睦美に手渡す。
「ごめんなさい、貴女は自動的に昇格よ、小隊長じゃなく大隊長を任命するわ、そして私達に代わって戦場の花部隊を指揮してね、貴女にはその資格がある。この花達の中で1番奇麗に咲き誇る花よ、この四天王の権限でそれを命じます」
なぜかよくわからない理由でいきなり昇格した睦美はそのマークを受け取りながらまたびっくりする。
その様子をじっと無言で見ていた良伊子が総参謀に手渡されていた指令書を差し出して睦美に手渡しながら、
「チョーラッキーって感じ、昇格おめでとうって感じ、あんたあたしよりうまくできそうだし、それに人望もあるしって感じかな?とにかく四天王様の命令よ、チョー頑張ってねって感じ」
そう言って求めるように拍手し始める。
それに釣られて拍手が起こりそして辺りは歓声に包まれる。
そして新たな司令官の許に駆け寄る少女達、口々に賛辞を述べる。
そして少し離れた場所に移動してその様子を見つめる2人の魔女、
その口元は2人共が嘲笑を浮かべている。
そして仲間が増える事に期待するその2人の右目は怪しい光に煌いている。
そこにスクーターに乗った少年が走り寄る。
「総参謀からの新しい指令書です。この作戦開始時に速やかに行動せよと書いてあります。これは重要な作戦ですのでこの指令書は読んだあとに焼却するようにとのことであります。伝令は以上、御武運を」
そう告げると林劉石はスクーターを超スピードー走らせて消える。
彼は新たに絶望させられて、そして乗り物を動力もなく超高速で走らせる能力を得ているのだ。
その新たな指令書を開いて見つめる2人の魔女、その瞳の光がさらに強くなる。
そして納得したように元アイドル?の少女を見つめる。
その周りに人殺しを頑張ると言う少女達が取り囲む。
マイケル達組織の布陣は石崎達と違い能力者が陣頭に立つ、それは攻撃と防御を同時に行えるように各チームに分かれている。
武器を持たせた信者達は後方に待機させてある。
石崎のような人海戦術を取らないのには訳がある。
あの飛行戦艦に対応する為の処置なのだ。
あんな巨大な戦艦に人の力で抗えるはずもない、
巨大には巨大で対抗するしかない、
だから機械竜が改造され対戦艦用に使用される。
あの不可解な防御シールドを破る方法が検討され対策として用意されている。
マイケルはその機械竜に乗るために陣頭で指揮は取れない、
だから地上部隊の指揮はサンダーストーンが取る。
その進退も全て飛行戦艦との戦いにかかっていると言える。
しかしマイケルは無理に進撃する必要はないと考える。
あの悪魔の業火を切り札に持つからだ。
その範囲内に友軍がいれば照射は出来なくなるからだ。
群衆など見殺しにしてもいいのだが、しかし今は宗教的な力でその群衆を束ねているのだ。
だから信者達は戦闘上逆に邪魔になってしまうのだ。
その改造された機械竜は飛行するのにもう魔獣を必要としない、
しかし魔獣は別の機械に乗り込む予定になっている。
それが対戦艦用の切り札なのだ。
やがて機械竜に乗るマイケルはもう1度時間を確認する。
刻限まで敵も誰も待ってくれる保証はない、いつ攻撃されてもおかしくない、
しかしマイケルは傍らの少女の夢を信じている。
あの塔の下に立つ3人の姿を少女は夢で見て知っているのだ。
それまでは自分には死なない未来があると信じられる。
「蹂躙の悪魔は自分自身の呪いの為に必ず僕を狙って来る。それは複讐を果たす憎しみの心で支配されているからね、それが執念の力を得る為の彼の代償だったからね、だから自分に牙を向ける者は一瞬で彼の復讐の対象になる。それが蹂躙の悪魔と彼が呼ばれる由縁なのさ、だから他の者は飛行戦艦を攻撃してはいけないんだ。そんな事をすれば文字通り蹂躙されてしまう、僕達はその敵の最大戦力を引きつけて殲滅する。その為の計画には君達2人の力が必要なんだ。だから今夜は喧嘩しないでくれないか?」
マイケルを奪いたいと願う1人の少女はしかしその言葉に納得の態度を示さない、
「私はこの日が来るのを400年も待っていたのよ、その私を物言えぬ人形から解放してくれる人に全てを捧げられる運命の日が来るのを、それは私1人で成し遂げなければいけないのよ、それをこんな東洋の魔女と協力しなさいなんて言われても納得できないわ」
言うことを聞かないそんな人形にマイケルは口調を荒げて、
「マーガレット!なぜ僕の言うことを聞かない?君がそんな我儘言ったら僕は死ぬ事になるんだよ、それを望んでいるのかい?それに君の言う運命の日は今日じゃないんだよ、今日はその運命が始まるだけの日なんだよ、その後を僕に与えてくれないと言うのなら、破壊の魔女よ、君は元の人形にも劣る存在だ。その人形は僕の邪魔はしないからね、僕は僕の邪魔をする者は愛せない、だから僕に愛される資格がほしいのなら人形の身であることを受け入れたまえ、そうし続ければ人形は必ず人間になれる。それを信じれば必ず僕に愛される人間になれる。それがわかったら素直に言う事を聞くんだ!」
その赤く燃える瞳に見つめられそう言われればもう彼女に反論する事は許されない、
黙って頷くマーガレット、その頭を優しくなぜてマイケルは、
「そうだよ、マーガレット、人形は素直なのが1番なんだよ、この持ち主の言う事を素直に聞くのがその務めなのさ、だから愛玩される資格がある。そして言うことを聞かない子供みたいな事を言う資格はない、僕が君を人間だと認めた時に初めてその資格を得られるんだ。その為には君は僕の言うことを素直に聞いてその力を振るわないといけないよ、悪い奴らをみんな僕はやっつけたいと思っているんだ。だからその為の力に君はなってくれるね?」
その言葉にマイケルにしがみつくマーガレット、その様子を希恵は黙って見つめる。
あの魔女の女王は炎の悪魔に支配されている限りただの人形なのだ。
その驚異の力で世界を破壊出来ないただの人形なのだ。
愛という呪いに縛られた哀れな人形なのだ。
そんな永遠に叶えられない呪いに縛られて…
その哀れな人形から目を離すと朱色の魔女はその様子を見つめる男達を見つめる。
切り裂きの悪魔と魔獣と呼ばれる2人の男を、
この作戦の為に待機するその2人の男は口元に笑いを浮かべて自分という人形を見つめている。
「おい、もう夜だぞ」
もう回数を数えられないくらい繰り返されるその質問にげんなりしたように女が答える。
「約束の時間までは動けないのよ、そうしないと炎の悪魔はこの一帯を焼き払うと脅しているのよ、それは屈辱だけどそれを守らないとせっかくの死体が全部焼かれてしまう、そうなったら元も子もないのよ、あんたがいくら強くても単独では魔神の許に辿り着けない、まず死霊達を解き放って混乱を作る必要があるの、奴らはそれに対抗する準備しかしていない、空を警戒する頭はない、その状況が必要なのよ、あの攻撃ヘリがこちらに来ない状況が、空を移動して少しでも早く魔神の許に行く、そして虹を待ち構える。そう何度も説明しているのに何で覚えてくれないの?ああ、でも…その空っぽの頭じゃしょうがないか…」
もう何回になるか数えられないその返答に酒を飲む力の悪魔は、
「まだなんだな?」
そう答えてまた新しい酒瓶に手を伸ばす。
その様子を見つめて溜息を洩らすと黄昏の魔女はその創り出した魔獣をいとおしそうに撫ぜる。
この作戦のため特別に造り出した魔獣、そのキメラと呼ばれるのにふさわしい多数の動物の死体を融合して創り出した怪物を、
それを見る者におぞましさと恐怖を与える存在を、
そして振り向く先には鳥類の死体を変質させた魔獣達が翼を休めて佇んでいる。
その足元には敵から奪った広範囲傷痍弾が置かれている。
悪夢の空挺部隊は作戦開始までに既に配備が完了しているのだ。
後は刻限まで待つだけでいい、
「おい、もう夜だぞ」
酒を飲む男がまたそう尋ねる。
「いいえ、まだ夜じゃないわ」
もう説明するのが邪魔くさくなった魔女はそっけなくそう答える。
「そうか、まだなんだな」
しかし説明を求めようとはせず男はそう言ってまた酒を飲み始める。
黄昏の魔女は太陽のない空を見上げておかしさに笑い出す。
この男にいちいち説明する必要なんてなかったのだ。
約束の刻限まであとわずか、
唯一魔神に挑まない軍勢はただ静かにその時が来るのを待っている。
誰も話が出来る者などいないのだから、
ただ1人だけ話が出来る存在がまた訪ねてくる。
しかし黄昏の魔女はもう何も返事はしない、
その沈黙に勝手に解釈する男が1人で呟く、
「そうか、まだなんだな」
その呟きに返事したいのを押さえて黄昏の魔女は時計を見つめる。
2つの針がもうすぐ1つに重なろうとするその時計を。
悪魔の艦隊の上陸作戦は着実にその準備が進められている。
それの指揮を執るのは暗灰の悪魔、その能力で支配した者達に指示を与える。
この艦隊の将兵は全て彼に支配されている。
心を負の感情で満たしていたからその支配は容易く出来た。
この悪魔の能力は艦隊を全て支配出来るぐらいに強力なのだ。
その力ゆえ悪魔の家族の長の次席にいるのだ。
そこに家族の一員が突然出現する。
「上陸作戦は罠の可能性を考慮して大規模編成にするなとの命令です。作戦開始時に要塞船は海上を移動して河川内に侵入する予定だとの事です。その援護のために爆撃を敢行後、空挺部隊を投入するように指示されました。上陸作戦はあくまでも陽動だとの事です。敵の兵力を集中させる為の陽動、我が主の賢明な采配です。ご考慮を」
そう告げるとダークグリーンストーンはその姿を消す。
「やはり罠か、想定していたように上陸してから叩くつもりだったみたいだな、我々がそう想定していた事を奴らも想定していたか、しかし我が主の奇策は想定されていないだろう、あの船の力は奴らには理解できないはず。なら陽動するには上陸地点は遊園地、そこに兵力を集中させる必要がある。それは捨て駒になるがしかたない、その指揮はお前が取れ」
そう命令された将官は敬礼すると任務のためにそこから歩き去る。
「我が主の力は無効化される事は想定されていた。その自信のあるための罠か、あの魔神もあなどれない事をする。しかしそんな事で我ら悪魔の軍団を止められると思うのか?」
そして思案する暗灰の悪魔は最悪の場合に保険の為の切り札を使用すると決心する。
しかしそれの使用には主の許可が必要なのだ。
その核兵器の使用はあくまでも最後の手段、
それに巻き込まれるのは自分達だけでいい、
あのダークイエローストーンもそう考えているだろう、
作戦開始まで時は後わずか、
それまでに主の許に戻らねばならない、
その暗灰の悪魔を乗せたヘリは偽装戦闘艦に向い空を飛翔する。
ジョージストーンは甲板の上で後ろに立つ老婆に質問する。
「我々は魔神に勝てると思うかね?」
そのダークストーンマザーはその質問に笑いながらこう答える。
「勝つ必要なんてないさ、負ける必要もないさ、その勝者を決めるのは運命さね、だから今は遊ぶことを考えているだけでいいのさ、あの魔神は遊んでほしいと言っているぞ、この世界をおもちゃに変えたいと望んでおるぞ、その遊びに付き合わんと悪魔と呼ばれる資格はないと言っておるわ、あやつを悪魔の神と呼びたくないならあんたがその席をぶんどるといい、その為に塔に登りな、坊や、そこまで行けば天に届く物がある。石はそこまでしか教えてくれない、その続きは自分の目で見るしかないさね」
老婆のその言葉に忌々しそうにステッキを突いて悪魔の大統領はさらに尋ねる。
「勝者を決めるのが運命ならその運命は誰の物だ?それを改竄して私の手に握る事は出来ないのかね?」
その質問に嘲笑する老婆そして、
「けけけけっ、変えられるのにも限りがあるさね、そんな複雑に絡み合いすぎた運命は決して解けはしない、あの真紅の糸が束ねし運命は結末を変えるだけの力があるさね、しかしそこから先の運命はまだ創られておりはせん、だから遊んでおるうちに手を打っておかないと暗黒に呑み込まれる未来しか訪れぬ、全てを見たら即逃げる。忠告じゃなく警告じゃ、東になら逃げられる」
その老婆の返答ににジョージは思案する。
恐怖の存在を思い浮かべて思案する。
そして、結論として、
「ダークグリーンストーン、緊急脱出用のステルス機を空母に配置しておけ」
暗闇に向いそう命令する。
「サ―イエッサー」
その暗闇からの返事の後にその気配が消える。
「なら私は見るだけにしよう、それを見に行かねば何も始まらないのなら、終わるのを見るのでなく始まるのを見るのなら、その特等席は自分で用意するしかない」
その言葉に老婆が答える。
「けけけけっ、それが正しい答えだとこの石は言っているさね」
その言葉を背中で聞いて悪魔の大統領は無言で歩き出す。
そして船の舳先まで歩いて暗い夜空を無言で見つめる。
その見つめる視線の先には電飾で照らされた魔神の塔が遠くに見える。
放送局の正面ホールの前に止められたマシンの前にミラクルストーズのメンバーが集合する。
しかし準備と言っても特に何もする必要はない、
戦う必要などないのだから、
それでも各自はそれなりに武装している。
その身を守る権利は自分達にあると考えたから、
あとは虹の王が現れるのを待つだけでいい、
今日の昼過ぎに突然動き出して、そしてここから逃げ出そうとしたあの臆病者が来るのを待つ、
その妹に止められて泣きながら連れ戻された愚か者が来るのを待つ、
「怖いにはみんな同じなのに…でも、どうしてあいつは逃げようとしたんだろう?…」
そんな昼間の光景を思い出して羅冶雄が1人で疑問をつぶやく、
そのつぶやきに宇藤が知らず返事する。
「たぶん彼と僕達とは怖さの次元が違うんだろう、どんな結末でも彼には最後まで見る義務があるんだから、僕達は途中でリタイヤする事が許されているのに彼にはその権利がない、だから無駄だとわかっていても逃げだしたいと思ったんだろう…」
その返答に無言の羅冶雄、そして黙って宇藤の顔を見つめる。
「あれは彼の意思表示さ、彼は臆病者の道化師を演じて見せて自分を見捨てるようにみんなに求めたのさ、こんな自分でもいいなら一緒に行こうという意思表示、僕達はその意思に答えてやろう」
その王と呼ぶ事をはばかるような事ばかりする王はそれでも彼らの王なのだ。
「石崎の言うようにあいつは臆病者の弱者の代表なのか?」
その羅冶雄の質問に宇藤は眼鏡を磨きながら返事する。
「弱いというのは何に対して?強いというのは何に対して?その尺度は勝手に人間が創った妄想なんだ。他の存在を全て打ち消せるのが最強ならそれに立ち向かえるのは最強か?その答えは永遠に出ない、それは考えるのも馬鹿馬鹿しい事なんだ。だから僕らはその馬鹿について行くしか出来ないのさ、それは僕たちも馬鹿の仲間になったんだから、最後までそんな馬鹿を信じるしか出来ない、君は自分の姉さんにあの愚かな王を託されたんだ。だから彼女が現れるまでは面倒を見ないといけない、それは大仕事だけど天使達が助けてくれる。ほら、その王様の登場だ。あの威厳も何もない王様の」
放送局の中から3人の少女に付き添われて虹の王が重い足取りで外に出てくる。
そして勢揃いするみんなを立ち止まって黙って見つめる。
その沈黙の謁見の後、王は小声でみんなに尋ねる。
「いいのか?…」
その自信のなさそうな小さな声にみんなは黙って頷くだけ、
「お兄ちゃん、こんな時ぐらいもっと堂々としなさいよ、王様なんだから何も遠慮する必要はないのよ、偉そうにしてたらいいの、ああもう!希久恵ちゃんのお兄さんとは大違い、こんな男が私の兄なんて許せない、酔っ払いでどくでなしのお父さんの方が遥かにましよ!決心したんならもっと気の利いたセリフでも言ってみなさいよ!」
その突然の妹の剣幕にうながされるように希一郎は、
「俺は王様である事に誇りも名誉も何も感じていない、だけど責任だけは感じている。そんな放棄して逃げだせない責任がある事を、しかしその権限は行使しない、それが必要だと思った時だけしか行使しない、だからみんなは自由だ。その絶望を自ら創り出さないと誓うなら戦う自由はみんなにある。憎しみに捕らわれた心は絶望しない、それは呪いの想念になり果てるだけだ。だから憎しみに囚われた者を打ち滅ぼすのは認めよう、だけどみんなは憎しみに囚われる事は許されない、それを誓ってくれるなら俺は魔神の許に行き破滅を止めよう」
その言葉に拍手でみんなが答える。
「正当防衛は認めると言うことだね、当然だけどそうしてもらわないと困るからね、反撃も出来なくては到底魔神の許には辿り着けない、でもそれだけじゃ僕達は真の力を発揮出来ない、僕達が信じて戦える力が足りない、それを君が与えてくれなくては憎しみに囚われる心を防げない、さあ、早くそれを信じるようにみんなに告げてくれ」
その宇藤の言葉に虹の王は静かに答える。
「希望を信じてくれ、お前達が握る石を束ねる希望を、それを握るこの俺を…」
暫くの沈黙ののち皆が手を振り上げてそれに答える。
『希望を!』
その言葉だけで充分だったのだ。
それを信じて集まって来た者達にはそれだけで充分なのだ。
それを信じるだけで力が湧いて出てくるのだ。
そして天使達に囲まれた王はマシンに歩み寄ると、
「もう呪いなんかで身を守る必要はない」
そう言ってマシンに手をかざす。
その呪いの解けたマシンは虹色のオーラに包まれる。
「希望を信じる者は希望の光に守られる。それは暗黒でも干渉出来ない存在を求める力、その加護の力はみんなにもある」
そう言って初めて笑顔になった王はみんなを見つめる。
「やる気になるのが遅すぎよ、このへたれ野郎め、その希望と言うのを信じるからさっさと中に乗り込みなさい」
そう告げて美沙希はマシンの運転席に乗り込む。
「障害は力と塔、打ち破るのには星が必要、その為に貴方は離別を決心する。そうすれば世界は真の悪魔に支配されない」
血色の魔女はそう告げると黒いコートのフードを下して1番先にマシンに乗り込む、
「何はともあれ、やる気になったんならそれにこしたこはない、絵里ちゃん行こうぜ、パパのカッコいいとこたっぷり見せてやるからな」
「自分のことをパパと言うのが既にかっこ悪いのに…いいわ行きましょう、もう最後の最後まで付き合うからね」
そう言って勝則と絵里はマシンに乗り込む、
そして皆はマシンの中に次々と乗り込んで行く、
最後に妹に押されるように希一郎が乗り込んでやがてハッチが閉まる。
その様子を黙って見つめて達彦は手にしたノートパソコンを抱きしめる。
「おいメガネ、ぐずぐずしないでさっさと乗り込め」
運転席から顔を出した美沙希が達彦に催促する。
「ああ、わかった…」
力無くそう返事して達彦は副操縦席に乗り込みハッチを閉める。
そして誰も見送る者もなくマシンは静かに動き出す。
まだ急ぐ必要はないから、
あの駅前の交差点に待機するためにマシンは静かに走る。
あの恐怖の王が作る道など最初から走るつもりはない、
その走る道は自分らで選べと王はそう告げたのだ。
だから自分達の信じる道を走るのだ。
そんな恐怖の後に希望なんてないと思うから、
だから希望の道は自ら作らねばならぬのだから、だから交差点で待機して、
そこで絶望の夜が始まるのを待つ、
その絶望を希望に変えるためにそこで待つ、
そして王の進撃命令をそこで待つだけでいい、
それまでは出来るだけ静かにそこに佇んでいるだけでいい、
その心待つ言葉が聞こえてくるまではそれ以上は動けない、
だからその時が来るまでまでこの場所で希望を信じて止まっているのだ。