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ミラクルストーンⅢ  作者: 北石 計時朗
11/18

死者の軍団

10 死者の軍団


 その動物園がある小高い丘は群衆で溢れている。

 何万人もの群衆が何も言わずたた立っている。

 そしてその中に異形な存在が混ざっている。

 元は像のような怪物が、元は虎のような怪物が、そんな怪物が群衆に混ざり佇んでいる。

 そのぞっとするような光景に双眼鏡を見つめる兵士は思わず信じる神の名を呟く、

 その守備部隊はターミナル駅を拠点に防衛網を構築している。

 高架橋の下を全てコンクリートで固めているのだ。

 あれの侵入を拒むために、

 その作業は急ピッチで進められる。

 命令されなくともは皆積極的に労働に励んでいる。

 あれが信じられない者達だからだ。

 死んでいるのに動いているのだ。

 その悪夢に震える体、言われなくとも作業は進む、

 しかしその作業は無駄だということに気付いていない、

 その理由は酒を飲んでいる。

 死霊達の真ん中で何もしないでただ酒を飲む、

 その様子に呆れたように黄昏の魔女は槍を磨く、

 今夜に奴らが襲撃して来る事を知っているからだ。

 この死霊達を殲滅するために攻撃してくる。

 それを防がないといけないのだ。

 だから死者の血で槍を磨く、その呪いの力を増やすために、

 奴らの持つ守護石もその呪いには抗えない、

 だから槍をせっせっと磨く、

「おい、まだ待たなければいけないのか?」

 酒を飲む男は魔女に尋ねる、

「決行するのは3日後よ、あの炎の悪魔がそれを伝えに来た。でもそれまであっちは待ってくれない、だから今夜は働いてもらうからね」

 槍を磨く魔女はろくでなしの亭主を持つ妻の気持ちがわかったような気がする。

 この男は暴れる以外は何の取り柄もないのだからしょうがない、

 あの虹に押し付けられた厄介者なのだ。

 しかし酒を飲む時だけはおとなしくなる。

 だから酒蔵ごと酒は用意してあるのだ。

 しかしそれも3日も持つかわからない、そんな勢いで飲んでいるのだ。

「今夜は暴れられるのか?」

 その充電中の力の悪魔は期待の声で魔女に尋ねる。

「あいつらが今夜こっちに爆弾を投げ込んでくるのよ、なにもかも見とうしなのにご苦労な事に、でもそれをされたら死体を焼かれる。だから阻止しなければいけないのよ、それを、そして2度とそんな気を起こさせないようにしないといけない、だからあんたには思いっきり暴れてもらわないと困るのよ」

 魔女は使い魔の目で見た情報を男に伝える。

「それは実に楽しみだ…」

 そう言って男は巨大な斧を掴む、

「まだ日が暮れてないのよ、気が早すぎよ、あんた辛抱という言葉を知らないの?」

 呆れた口調で魔女が言う、

「ああそうか、まだなんだな」

 男はそういってまた酒を飲み始める。

 槍を磨く手を止めて呆れてその様子を見つめる魔女、しようがないなと首を振る。

 この男はほとんどの感情を失くしているのだ。

 だから暴れる事と酒を飲むこと以外には何の関心も示さない、

 もはや女にも興味がない、

 自分がこの男を制御できるのは虹の命令の呪いの力だ。

 だから自分の言う事だけは素直にこの男は聞く、

 そうでなければこの周辺は完全に瓦礫の廃墟と化していただろう、

 しかし今夜は暴れてもらわないと困るのだ。

 槍を磨き終えた魔女、今度は男の斧を磨き始める。

 日は傾いてその色を変えていく、

 この魔女の瞳のような色に、

 破壊と殺戮の夜はもうすぐ訪れる。



 ターミナル駅内では砲撃の準備が進められている。

 既に広域焼夷弾を発射する重砲は多数据え付けられている。

 これであの悪夢の光景を目にする事はなくなると兵士達は砲弾を運び入れる作業に没頭する。

「何をしているの?」

 そう声をかけられた兵士、見上げた先には黒人の女性が微笑んでこちらを見ている。

 自分達と同じ軍装をしたその女性に兵士は怪しむことなくこう告げる。

「何だ?聞かされていないのか?作戦を実行する準備をしているのだ。あいつらを焼き尽くす作戦の」

 その言葉に黒人女性の兵士は。

「ごめんなさいね、ここに来たばかりだから知らなかったの、でもどうしてそんな事をするの?」

 そしてまた質問を繰り返してくる。

 その質問にいらつき始めた兵士は声を荒げて、

「上の命令だ。俺達はそれを待っていたんだ。あの忌々しい光景から解放される日をずっと待っていた。ようやくそれが出来るんだ。新参者にこの気持ちがわかるものか、あんな物を見せられては夜も眠れなくなるこの気持ちを、何の用事で来たのか知らんが邪魔だからあっちに行っいてろ」

 そう言って作業をしようとする目の前に槍の穂先が突き出される。

「!?」

 それに驚愕する兵士、思わず槍を突き出した黒人女性の兵士を見つめる。

「ごめんなさいね、夜も眠れないなんてかわいそうに、でももう安心してもいいわ、私が永遠に眠らしてあげる」

 よくわからない理由で突きつけられる槍、しかしそれに怯まないでいいのを思い出して兵士は冷静になる。

「何の真似だ。ふざけている暇はないんだぞ、お前の上官は誰だそいつに?報告して処分してやる」

 守護石の力を信じる兵士はレシーバーに手を伸ばそうとするが、その手に槍が突き刺さる。

「そんな報告をする必要はないわ、これからあなたの上官になるのは私なのだから」

 そう告げる黒人女性の目が赤く光る。

「お前は誰…・」

 手を貫かれた苦痛に苦しむ兵士はしかしそれ以上何も言えず床に倒れる。

「かすり傷でも死に到らしめる呪いの毒よ、そんな守護の石も通用しない強力な呪い、立ちなさい、そして仲間を増やしなさい」

 その命令に兵士は静かに立ちあがる。

 そして命令を遂行するために体内の呪いの毒を唾液に変える。

 そして静かに歩き出す。

 その背後から魔女の嘲笑が響き渡る。

 これでターミナル内は砲撃するどころではなくなるのだから、



 建造した壁の前に立つ兵士は異音を感じる。

 何者かが壁に加える衝撃の音を、

 何者かが壁を内側から破壊しようとしているみたいだ。

 そんなありえない事に挑む者がいる事に驚愕した兵士だがすぐにそれはおかしさになる。

「ははははっ馬鹿がいるぞ、ははははっ」

 その壁は厚さが20メートルもあるのだ。それを破壊するなど大量の爆薬でも不可能なのだ。

 しかしその笑いは銃撃音で止められる。

 壁の上を防御する仲間が何者かに発砲しているのだ。

 その銃声に愚かな挑戦者の死を感じた兵士はまた笑い出そうとするが…

 その銃声は止まらない、

 そしてその数は増えて行く、

 上の方が騒がしくなっていき、そして、

 突然兵士の横の壁が割れて吹っ飛んで行く、

 壁がその厚みを残して割れて砲弾のように飛んで行く、

 何が起こったのか理解できない、

 その砲弾と化した壁の塊がすぐ横のビルを破壊する音の中で、兵士はただ茫然と立ち尽くす。

 そして壁の割れ目から信じられない存在を現れるのを目にする。

 巨大な斧を担いだ貧弱な男、その男が笑いながら自分に声をかける。

「よお」

 しかしその返事はもう出来ない、なぜなら自分は殺されている最中だから。



 ターミナル駅の指令室は大変な騒ぎになっている。

 司令官の耳には信じられない事態が報告される。

 何者かが駅そのものを破壊しているという情報が報告される。

 死霊が兵士に乗り移り駅内を徘徊しているとの報告を受ける。

 そして銃声が響きわたり悲鳴が聞こえる。

 その情報が正しい事を示すように駅の1部が崩落する。

 もはや殲滅作戦どころの騒ぎではない、

 自分たちの守護石の力も及ばぬ存在がいて暴れているのだ。

 信じられない事だが事実なのだ。

 司令室に兵士が入ってくる。

 槍を握る黒人女性の兵士、しかしその顔に見覚えがない、

 その兵士が質問する。

「司令官は誰?」

 しかし返答を拒んだ司令官は女性兵士に拳銃を構える。

 指令室の中の皆がそれに倣う、

 そして司令官が逆に質問する。

「お前は誰だ?」

 その質問に女が答える。

「私は黄昏の魔女、あなたが司令官ならあなただけは助けてあげる。そして帰って魔神に言ってちょうだい、刻限まで手を出すなと」

 その返答は発砲された弾丸、しかしその銃撃に黄昏の魔女は平然としている。

「無駄よ、私は分身なの、本体はもう仕事を完了しているわ」

 拳銃を構えていた部下がみんな一斉に床に倒れる。

 そして自分に槍が突きつけられる。

 目の前の女じゃない別の者が握る槍が、

「あれは幻影なの、あなた達の守護石は欠陥品だから攻撃に対する防御しか出来ないのよ、だから幻に騙される。恨むんならそんな欠陥品を支給した魔神にしてちょうだいね、それと私には守護石の力は通用しないのよ、その毒が強すぎてそんなちんけな感情じゃ防ぎきれないの、わかったら言われたとおりにする事ね、そうでないとあんたもこいつらの仲間になるわ」

 倒れた部下達が起きあがる。

 虚ろな目をして起き上がる。

 そして死んだはずが動き出す。

「この連中の仲間になりたいならそうしてあげるわよ」

 その言葉に、恐怖に、それに堪え切れなくなった司令官は走り出す。

 司令室から走り出て安全を求めて走り続ける。

 悲鳴を上げて駅の中から脱出する。

 その様子を上空から見守る黄昏の魔女、あの男に接触しないように誘導していたのだ。

 その司令官の姿が完全に消えるまで見守ると溜息を吐いて振り返る。

 見つめる先には倒壊していく駅ビルの姿がある。

「あれを止めるのは大仕事ね…」

 残された感情を爆発させて暴走する力の悪魔、それは並大抵では止められない、

 全てを殺しても、

 全てを壊しても、

 その力の限り暴れる力の悪魔の制御は自分でも難しいのだ。

 今夜の本当の仕事はこれからなのだ。

 その仕事をするために魔女は大量の酒を求めて分身を街に放つ、

 その匂いに気づくまで酒瓶を投げ続けるしか方法がないのだ。

 そうでないと刻限までにあの男は死んでしまう、

 その力を振るい続ける度にあの男はその寿命を縮めるのだ。

 だから早く止めなければいけない、

 こんな大仕事を自分に強いる。そんな虹と魔神を魔女は呪う、

 その呪祖の叫びは暗闇の中で木霊する。

 その叫びは呪いとなってその虹と魔神を苦しめるだろう。



 守備部隊の司令官は報告のあと即座に銃殺られて死ぬ、

 司令官を銃殺した北部担当の総司令官、自分は殺される前に自決すると覚悟を決める。

 そして防衛長官の許に失敗を報告に向かう、

 失敗は許されない、

 失敗は権利を失う、

 憎むという権利を失う、

 そして憎まれる者になり果てる。

 だから憎まれる前に死ぬしか自分の名誉は守れない、

 しかし防衛長官の部屋の前で北部総司令官は殺される。

 その失敗は名誉ある死も許さないのだ。

















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