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第94回 北の大陸グラスター到着

 船は破損しながらも何とか港へと辿り着いた。

 乗客数名が魔獣達によって命を落としたが、それでも多くの乗客が無事に港に着いた事に喜び涙を流しあった。大騒ぎの港を抜けると、すぐに町が広がった。幾つもの店が建ち並び、賑わいを見せる町並み。人々の通りも多く、店の亭主は盛んに声をあげる。穏やかな風に乗り漂う潮の香りは、その町を更に活気だて様々な出店に皆足を止めていた。

 そんな賑わいのある通りを歩くフォン達は、いつに無く暗い雰囲気で、珍しくフォンとウィンスが静かだった。ウィンスとカインは共に、重傷をおっているため、包帯をいたる所に巻いていて、それが痛々しく見える。暫く歩いた後、一行は一軒の宿に入り体を休める事にした。部屋は三つ借り、フォン・ティル・ウィンスの三人が一部屋、カイン・ワノールの二人がもう一部屋。最後はルナ一人の部屋となった。

 フォンは部屋に入ると、早速風呂場へと直行した。今までの疲れを取るためだ。ティルはふかふかのベッドに横になり、深々と息を吐く。窓の傍のイスに座るウィンスはそんなティルを見て、静かに口を開いた。


「なぁ。今日は皆少し可笑しくないか?」

「……」


 ウィンスの言葉を無視する様にティルはウィンスに背を向ける。やっぱり何かが可笑しいと思うウィンスは、問い詰める様にティルに聞く。


「なぁ、何で無視すんだよ。何かあったなら話してくれてもいいだろ?」

「五月蝿い。お前に話す事は無い。それに、俺はお前達と仲良くするつもりはない!」

「はぁ? 何だよ急に」

「黙ってろ。俺はお前と話す気は無い」


 それだけ言い、ティルは眠りに就いた。ムスッとした表情をするウィンスは、首を傾げ窓の外を見た。



 隣の部屋では、カインとワノールの二人が居た。

 ベッドに仰向けに倒れるカインは、今までの疲労からか既にウトウトとしており、今にも眠りそうになっている。その隣のベッドに座るワノールは、何かを考えるかの様に俯き眉を顰める。難しい顔をするワノールに、ウトウトしていたカインが気付き、眠りに就きそうな声で言う。


「どうしたんですか〜? 難しい顔して〜」

「ンッ? 何、ちょっとした考え事だ」

「そうですか〜……」


 そこまで言いカインは寝息を立てた。そんなカインを見て、ワノールは軽く笑うとベッドから立ち上がり静かにカーテンを閉めた。



 更に隣の部屋では、ルナが一人ベッドに座り、目を閉じて考え事をしていた。暗い部屋の中、一人で。

 ミーファは無事なのか?

 今、何処に居るのか?

 果たして、この国に居るのだろうか?

 様々な考えを頭の中でするが、一番気になったのは、フォンの事だった。あれから、一度も話をしていないし、まだ傷の手当もしていない。きっと、その体には酷い傷を負っているはずなのに。


「傷……。大丈夫でしょうか……」


 小さくそう呟いたルナは、目を開き静かにベッドから立ち上がった。それから、何度もドアの方へ行ったり来たりしていたが、結局部屋の外に出る事は出来なかった。

 そのまま、日が沈み、夜になるまで誰も部屋を出なかった。フォンにいたっては、呼ばれるまで風呂場から出てくる事は無かった。



 翌朝、一番に目を覚ましたのは、フォンだった。やはり、その小さな体には酷い傷を負っていて、その傷の痛みで目を覚ましたのだった。今だ、薄らと血が出ているため、着ていた服は薄らと血が滲んでいた。体を起こすだけでも痛むその傷に、表情を歪めるフォンはゆっくりとベッドから立ち上がると風呂場へと直行した。静かにシャワーを出し、服を脱いだフォンの背中には木の破片で切ったのか、大きな傷がまだ真っ赤な血を滲ませながら痛々しく残っていた。他にも、幾つか痣が残っておりそれが、更に痛々しく見える。

 頭からシャワーの水を浴びると、水がフォンの背中をゆっくりと流れ、傷口から流れ出す血を静かに流してゆく。水の冷たさが傷に沁みるが、歯を食い縛りそれを堪える。ジワジワと痛む傷を、フォンはそのまま冷たいシャワーの水で癒していた。



「ふぁ〜っ。眠い……」


 眠そうに目を擦るカインは、金髪の髪を右手で掻くと隣のベッドに座るワノールを見る。考え事をしているのか、カインの起きた事に気付かないワノール。それを、気遣い、カインは静かにベッドから立ち上がり洗面所で顔を洗った。戻ってくると、ようやくワノールがカインの事に気づき、驚いたように声を掛けた。


「何だ、お前いつ起きたんだ?」

「おはようございます。ワノールさん。ついさっき起きたんですが、ワノールさん考え事しているようだったんで」

「そうか。悪いな。気を使わせて」

「いえ。もう、付き合い長いですし、僕もなれましたから」


 カインはニコニコと笑みをワノールに向けた。そんなカインに薄らとワノールも笑みを返し、また考え事を始めた。タオルで顔を拭いたカインは、もう痛みの無い箇所の包帯を解きながら、楽しそうに窓の外を見つめていた。

 朝だというのに、通りにはすでに多くの人々が歩いており、どの店も既に開店準備を始めている。大道芸人などもチラホラみえ、昨日とはまた町の印象が変わって見えた。それが、楽しくて仕方なかった。

 それから、暫くして、皆は合流した。朝食を食べるために。皆、昨日は少し険悪だったが、今日は殆どいつもと変わらなかった。


「ティル。そこのジャム取ってくれ」


 パンを銜えたままのフォンが、向かいに座るティルの前にあるりんごジャムを指差す。だが、ティルはパンをちぎりながら口に運び、チラッとフォンを睨み言う。


「自分で取れ!」

「何だよケチ!」

「うるさい。黙って食えないのか?」

「お前が、ジャム取ってくれれば済む話だろ? そしたら、オイラだって――」


 そこまで言った時、ワノールが眉間にシワを寄せながらリンゴジャムをフォンの前に置いた。頬を膨らしたままのフォンは、ティルを睨んだままリンゴジャムを取ると、パンにジャムを塗って食べた。怒った様子のフォンを宥め様と、隣に座ったカインが声を掛けた。


「フォンはリンゴが好きなの?」

「別に、好きって訳じゃないよ。カインはリンゴ好きなのか?」

「う〜ん。僕もあんまりかな。それ、美味しい?」

「いや〜っ。オイラはあんまり好きじゃないかな」


 複雑そうな表情でパンに噛り付くフォンは、眉間にシワを寄せた。苦笑いを浮かべるカインは「そうなんだ」と、言ってリンゴジャムの蓋を閉めた。色んなジャムを試したフォンは、最終的にイチゴジャムが気に入ったのか、何度もイチゴジャムをパンに塗っていた。少しフォンの事が心配だったルナだが、この様子を見て何だか安心した。

 食事を終えた一行は暫く席に座ったままお茶を啜り、これからの事を話し合った。


「グラスターに着いたのはいいけど、これからどうするんだ?」

「兎に角、ここにミーファが居るか探さないといけないんだよな」


 まだパンを食べているフォンが、軽い口調でウィンスにそう答えた。そんなフォンを見て、呆れるウィンスはチラッとティルの方を見て聞く。


「なぁ、ティルはどうしたらいいと思う?」

「さぁな。フォンに任せて良いんじゃないのか?」

「何だよ。あんた、昨日から変だぞ!」

「別に、俺はいつもと変わらんさ」


 何事も無い様にティルは言う。少し表情を険しくするウィンスは、ティルを睨み付ける。他のメンバーも少しティルの様子が可笑しいと思うが、特に気にする事も無いだろうと、何も言わず話を進めた。


「僕は、王様に会うべきだと思うよ。ここの王様は、英雄って言われるほど有名な人らしいし、一応なんらかの情報は届いてるはずだし」

「そうだな。カインの言うとおり、国王に会うのもいいかも知れんな」

「国王か……。何か、嫌な思い出が呼び戻されるな……」


 複雑そうな表情を見せるフォンは、テーブルに体を伏せため息を吐いた。確かに、フォンにとっては国王とはあんまり良い印象がないだろう。だが、あんな国王など滅多に居るものじゃない。そんな事を思うワノールは少し笑みを浮かべながら言う。


「大丈夫だ。ここの国王は向うの国王と違って、種族で差別する事は無い優しいお方だ」

「うおっ! オイラ、ワノールが笑った顔初めてみた」

「うわっ、本当だ。俺も、初めて見た」


 ワノールの笑みを見たフォンとウィンスが驚いた様にそういい、結局話しは違う方向へとそれていき、フォンとウィンスは危うくワノールに殺されそうになった。

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