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第90回 異変

 潮風漂う甲板の上では、未だ大量の魔獣に囲まれたカインとウィンスの姿があった。

 既に多くの魔獣の体が甲板には横たわり、血が辺り一面に張り巡らされている。そのせいか、潮風に乗り生臭い血の臭いと腐った卵の様な臭いが、二人の鼻を強烈に突き抜ける。その臭いに悶えながらも、必死に武器を構える二人の息は既に上がっていて、戦うのも困難な状態になっていた。

 視界が徐々に霞み魔獣の姿がぶれて見え始め、遂には甲板に片膝をつき立つのも辛くなってきている。互いに背を向かい合わせるカインとウィンスは、大勢の魔獣を見据えながら小声で話をする。


「ハァ…こ……ハァ…これじゃあ……ハァ…ハァ……ングッ。限が無い」

「俺…ハァ…ハァ……。これ以上は無理だ……ハァ…ハァ……」


 強烈な悪臭と襲い来る魔獣達に体力を奪われ、すでに限界の近い二人は持っている武器がいつもの何十倍の重さに感じていた。苦しそうに肩で息をする二人に対し、魔獣達が鋭く突進してくる。まるで、二人の体力をまだ削り取ろうとしているように。

 歯を食い縛り腕を持ち上げるカインとウィンスは、向ってくる魔獣に素早く刃を振るう。素早くといっても戦い始めた時のスピードとは程遠いスピードだが。切り裂かれた魔獣の体は血を撒き散らせながら甲板の上に崩れ、更に悪臭を漂わせた。

 次第に朦朧とし始めるカインとウィンスは、急に視界がぐら付き、酔っ払ったかの様に辺りが歪んで見えた。頭の中はクラクラとし、手の感覚が無くなり遂に、二人はその場に倒れた。



 一方、船室ではフォンが逞しい体格の魔獣とルナの首元に爪を伸ばした魔獣に挟まれ動きを封じられていた。額に浮かぶ青筋にニコニコっと微笑むルナの前に居る魔獣は、ホッソリとした体格で、妙に腕が長い。その長さは立っても地面に手が着くほどだった。魔獣にルナの首筋に爪を向けたままベッドに腰を下ろすと、ゆっくりとした口調で言う。


「フフフッ。君一人じゃ、俺等の相手は無理でしょ? って、言うか不可能? だって、コッチには人質居るし ククククッ」


 フォンを馬鹿にする様にそう言うホッソリした魔獣。その言葉と同時にフォンはそいつに体を向け床を蹴ろうとしたその時、ホッソリした魔獣が目で何か合図を出したのが分かった。目線からするに、合図を受けたのはフォンの背後に居る逞しい体格の魔獣だと分かるが、それが分かった所でフォンにはどうする事も出来なかった。すでに、相手に背を向けている状態の為、攻撃を避ける事も受け止める事も出来ない。そんなフォンの背中に、逞しい体格の魔獣は組み合わせた両手を鋭く振り下ろす。

 重々しい衝撃と全身を襲う激しい痛みに、フォンの体は崩れ落ちた。逞しい体格の魔獣の振り下ろした組み合わせた両手が、フォンの背中を強打したのだ。その瞬間、鈍い音が響いたが、フォンにはその音を聞き取る事は出来なかった。それは、一瞬息が止まり意識が薄れたからだ。

 床に倒れるフォンは、口から吐血し「ゲホッゲホッ」と、苦しそうに息を吐いた。


「ほら、敵に背中を見せちゃ駄目だよ。それに、人質が居るんだよ。変な事したら殺しちゃうよ」

「ウーッ……フーッ……」


 床を倒れるフォンは息を荒げながらも真っ直ぐにベッドに座った魔獣を睨み付ける。そんなフォンの目を見据えるホッソリした魔獣は、眉間にシワを寄せコメカミをピクピクとさせた。そして、ゆっくりとフォンの傍に立つ逞しい体格の魔獣に、合図を送る。


「やれ」

「ガァァァァッ!」


 ゆっくりと振り上げられる逞しい体格の魔獣の右足は、勢いよくフォンの背中に落とされた。全体重を乗せたその右足を背中に受けたフォンは、激痛に声を上げる事も出来ず、ただ痛みに苦しんだ。その後も、何度も右足でフォンの背中を踏みつける逞しい体格の魔獣は、フォンの体が床をぶち破って下の部屋に落ちたと同時に攻撃を止めた。

 一向に表情を変えないルナは、ふと穴の開いた床を見る。木の板が無残に割れ、下の部屋は舞い上がった埃と室内の暗さでよく見る事は出来ない。それでも、ルナには分かっていた。すぐにフォンがやってくると。


「う〜っ。いってーっ。結構、ずりぃーよ。二対一って」


 大きく開いた穴の下からそんな声が響き、ゆっくりと淵に手が掛かった。そして、穴の中からスッとフォンが飛び上がってくる。微かに額に血が滲み出ていて、衣服が少しばかり汚れて見える。それでも、大した事無い様なそぶりを見せるフォンは、両手で服に付いた埃を叩いていた。

 多少驚いた様子のホッソリした魔獣と逞しい体格の魔獣は、目で合図を送りあい、逞しい体格の魔獣が、太い右腕を背を向けるフォンに向って振り抜く。その腕が風を掻く音に俊敏に反応するフォンは、軽く体を捻らせ振り抜いた右拳を避けると、その右腕を掴み勢いそのままに壁に叩き付けた。


「ぐはっ!」


 背中から壁に激突した逞しい体格の魔獣は、そのまま大きな音を立て壁を貫くと、隣の部屋へと姿を消した。横壁に大きな穴が開き、木の破片がハラハラと宙を舞った。一瞬にしてその場が沈黙し、ホッソリした魔獣は驚きのあまり口を開いたまま固まっている。ゆっくりとその魔獣の方に顔を向けたフォンは、ニッコリ微笑むと優しく言う。


「そろそろ、ルナを放してくれるかな?」

「フ…フフフッ。そうだ。コッチには人質が居るんだ。大人しくしろ!」

「う〜ん。争いって嫌いなんだよね。だからさ――」


 一瞬間が空く。そして、フォンは鋭く魔獣を睨み言う。


「大人しくルナを放してくれよ」


 そのフォンの目を見た魔獣は、背筋の凍る様な何かを感じ、急に体を震わせてゆっくりとルナの首筋から爪を離す。すぐさまその場を離れたルナを自分の後ろに隠すフォンは、魔獣を見据えたままゴクリと唾を呑んだ。

 一向に動かず体を震わせる魔獣に、不自然さを感じるルナはフォンにしか聞こえない位の声で問う。


「フォンさん、あの魔獣に何かしたんですか?」

「いや? 何もしてないよ。ただ睨んだだけ?」

「睨んだだけであんな風に怯えますか? 仮にも魔物クラスの魔獣ですよ」

「魔物クラス。そんなのがあったのか。初耳だ」


 初めて知ったと感心するフォンを見て、驚いた様子のルナは疑いの眼差しでフォンの事を見ていた。そして、怪訝そうな口調で言う。


「本当に、初めて知ったんですか?」

「あぁ。魔獣にもクラスがあったなんて全然知らなかった。ただ、魔獣人って言うのだけ知ってた」

「結構、いい加減なんですね」

「そうか? クラスとか関係ないだろ? 結局襲われたら倒さなきゃいけないんだし」

「まぁ、そうですが、気をつけてください。魔獣クラスに比べたら魔物クラスは十倍くらいの力の差が出るんですから」


 心配そうにそんな話をするルナに対し、笑いながら軽い相づちを打つフォンは、ルナの肩を二度叩いていった。


「分かってるって、油断大敵って奴だろ? 大丈夫だって」

「フォンさんだから、心配なんです」


 能天気なフォンの口調に、ルナは呆れた様にそう言いため息を吐いた。

 そして、この時ホッソリとした魔獣の体に異変が起きていた。ドックン……ドックン……と、何か心臓とは別のものが体の中で動きだし、震えていた魔獣の体は動きを止め、その鼓動にあわせて体が微かに飛び上がる。瞳の色が徐々に薄れていき、魔獣は遂に意識を失った。

 その事に、フォンもルナも気付いておらず、気付いたのは全てが始まってからだった。

 祝! 連載90回! 

 どうも、お久し振りです。作者の崎浜秀です。

 遂に、『CROSS WORLD ―クロスワールド―』が、90回に突入しました。長いです。僕も実際長いと思ってます。

 あ〜っ。こんな事なら、第一章とか、第一幕とかって区切っとけば良かったななんて思います。

 でも、読者の皆さんってどう思うんでしょうね? あんな風に連載を一度終らせてから、第二幕とかとして連載するのと、普通にそのまま連載するとのどちらが良いんでしょう?

 って、こんな所で聞く事じゃないですよね。それでは、次回もお楽しみに!

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