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第85回 一対一

 戦いを終え、控え室にカインとルナが戻ってくる。

 相変わらずピリピリとしていて、皆真剣にモニターを見据えている。丁度第一試合第二回戦が行われているのだ。第二回戦は、Cブロックを突破したフォン・ウィンスペアとDブロックを突破したノースとクラブの双子の兄弟の戦いだった。

 リングから落ちた時に、右腕を殴打したカインはルナにその治療をしてもらいつつ、モニターを見据えていた。観客席は先程のフォルトの言葉が聞いているのか、シンと静まり返り何だか不気味だった。

 ため息を吐くカインは、申し訳なさそうにルナを見据え、小さな声で言う。


「ごめん。僕が守るって言ったのに怪我させちゃって」

「気にしないでください。私は平気ですから。それに、あれは試合とは無関係ですし」


 落ち着いた様子でそう言うルナは、自分の傷など気にせずカインの治療に専念する。額から未だ血を流すルナを見ているのが辛いカインは、無理やり右腕を動かし明るく言い放つ。


「も、もう大丈夫だよ。こんなにうごぐんだガだ……」


 言葉に成らないほどの痛みが急に右腕を襲い、カインは右腕を抑えたまま蹲る。それを見たルナは、急にニコリと微笑んだ。この時、カインは初めてルナの笑った顔を見て、何だか嬉しかった。痛みなど忘れ、笑ったルナの顔だけを見つめていた。


「お二人さん。何か、良い感じだね」

「なっ! エッ、ふぉ、フォン!」


 驚いたように声を上げたカインは、背後に立っていたフォンの姿を見て、目を丸くしていた。その隣には呆れた様に笑みを浮かべるウィンスの姿があり、腕組みをしたままカインとルナの事を見ていた。いつの間にかいつもの無表情に変わっているルナだが、少し頬が赤くなっており、フォンはその一部始終を目撃していたのだ。


「何だよ。オイラ達心配して早めに終らせたのに。なぁ、ウィンス」

「本当だよ。これじゃあ、俺達二人の邪魔、したみたいじゃないか」

「実際、邪魔だろ?」


 フォンとウィンスの横を通り過ぎ様に、ワノールがそう言った。次は、Eブロックを突破したティルとワノールペアの戦いだからだ。リングに向うワノールの後姿をムスッとした表情で睨み付けるフォンとウィンスは、まるで兄弟の様にアッカンベーと同時に舌を出した。その光景に、カインは思わず噴出してしまい、大声で笑った。


「な、何だよ! 何が可笑しいんだ!」

「そうだそうだ! オイラ達の何が可笑しい!」

「ハハハッ。ごめん。何だか、二人とも似てるな〜って」

「エッ! それじゃあ。俺、後二年したら、フォンみたいになるのか! それは嫌だぞ!」

「なっ! ウィンス! オイラの何処が嫌なんだ!」


 怒ったようにフォンがそう言うが、ウィンスは身を震わせ首を左右に振りフォンから離れた。フォンはそんなウィンスを追いかけ「何処が、嫌なんだ!」と、叫びまわっていた。控え室を走り回るフォンとウィンスを、他の出場者の人達は迷惑そうに睨んでいたが、当の本人は全く気付いては居なかった。

 その後、ティル・ワノールペアも、一回戦を突破しいよいよ準決勝へとこまは進んだ。


『準決勝・第一試合目は、フォルト・リリアペアとフォン・ウィンスペアです。すぐにリングに来てください』


 スピーカーから響く声に、やる気満々と言った感じでフォンが右手の拳を左の手の平にぶつけた。バチンと良い音が響き、フォンとウィンスがイスから立ち上がった。ウィンスは木刀を軽く回しその感触を手に馴染ませ、フォンの顔を見て頷く。軽く頷き返したフォンは、ゆっくりと息を吸うと大声を轟かせた。


「ウシャーッ! 行くぞ!」


 その声が控え室の中を響き渡り、隣に立っていたウィンスは耳がキーンとしていた。迷惑そうな表情を見せるティルとワノールは冷たい視線を痛いほどフォンの背中にぶつけるが、フォンはそれを全く気にせずに笑いながらカインの方を見て言う。


「あいつ、強いだろうけど、できる限りの事はやって来るぞ!」

「気をつけて」

「おう」


 それだけ言葉を交わし、フォンはウィンスとリングに向った。リング中央には既にフォルトとリリアが立っていて、会場に入ってきたフォンとウィンスにニッコリと微笑んだ。中央に歩み寄り、フォンはフォルトに笑みを返し、ウィンスは緊張した面持ちをしている。その事に気付いたフォルトは、相変わらずの口調で言う。


「緊張しなくて良いよ。楽しもうよ」

「わ、わかってるよ」

「なら、いいよ」


 背丈は殆どウィンスと変わらないが、何処かウィンスよりも大人びて居る様に思えたフォンは、首を傾げ四人にだけ聞こえる声で聞く。


「なぁ、お前って、歳は幾つなんだ? オイラ十六だけど、オイラより下?」

「僕も十六だよ。この身長だと、信じてもらえないけどね」

「そっか、だから、ウィンスよりも大人びて見えたのか」

「何だよ。それって、俺が子供っぽいって言うのか? 第一、俺よりもお前の方が子供っぽいぞ!」


 緊張が解れたのか、ウィンスはフォンの言葉に少々不貞腐れながらそう言う。笑いながらその場を誤魔化したフォンは、その場でフォルトと握手を交わした。そして、互いに同じ言葉を言った。


「君には負けないよ」


と。

 それと同時に試合開始の花火が盛大に打ち上げられ、日の暮れ始めた空に大きく花を咲かせた。中央で向い合う二組は、すぐに距離をとり端と端に別れた。フォルトはリリアを端に運んで、木刀を二本構えると、確りとフォンとウィンスを見据える。だが、その時フォンが大声でフォルトにある事を提案した。


「二対一じゃあ不公平だから、一対一で戦おう!」


 もちろん、その意見には反対の声が上がった。試合を見ている観客も、フォンの横に居るウィンスも、納得のいかないと言った感じでブーイングをする。仲間にまでブーイングをされ、戸惑うフォンは、オドオドとした態度でフォルトの方を見据える。呆れた様に微笑んだフォルトは、困り果てているフォンの方を見て大声で返事を返した。


「僕も、君とは一対一で戦いたいと思ってたんだけど、こんなにブーイングされるなら、無理っぽいね」


 笑いながらそう言うフォルトは、渋々と言った感じでジリジリと間合いを詰め始めた。ブーイング鳴り止まぬ中、フォンも一対一を諦め肩を落としてフォルトの方を見る。呆れた様子のウィンスはフォンを横目で見ながら木刀を構え、ゆっくり息を吐いた。

 その刹那、何かが空を切る音が微かに聞こえ、ウィンスは激しい痛みを腹部に伴った。木刀がリング上に音を立てて落ち、ウィンスは両膝を地に着いた。何が起ったのかわからず、腹部を押さえたまま蹲るウィンスは、ゆっくりと顔を上げた。右手に持った木刀を振りぬいたフォルトの姿を目視したウィンスは、ここでようやくフォルトの木刀で腹部を殴られたと気付いた。


「グウウッ。いつの間に……」

「ごめん。やっぱり、一対一がしたいからさ。君を早めに場外に落す事にした」

「クッ! ――この!」


 ウィンスは落ちている木刀を右手で拾うと、素早くフォルトに向って振り抜く。軽快な動きでそれをかわしたフォルトだが、そのフォルトの顔にフォンの右足が振りぬかれる。驚いた様子のフォルトはそれを左手に持った木刀で防ぐ。メシメシと木刀が軋み、衝撃がフォルトの体を弾き飛ばす。リング上を転げるフォルトは、体勢を整えてフォンを睨む。

 左腕は先程のフォンの蹴りを受けて、少し痺れているが、フォルトは全くそれを気にしないで立ち上がり軽く左手首を回す。フォンは少し真剣な顔付きでフォルトを見据え、ゆっくりとウィンスに言う。


「ウィンス。まずは、オイラが一対一で戦う。痛みが退くまでジッとしてろ」

「ふ〜ん。それじゃあ、もう、君と僕の一対一は始まってるって訳か」

「そう言う事だ。そんじゃあ、ここからは本気で行かせて貰うからな!」


 そう言うとフォンは地を蹴った。リングはガキッと音を立て少しばかり砕ける。それを見て、フォルトも地を蹴るがそのフォルトに、フォンが背を向けて左足を軸足とし、そのまま体を捻りフォルトの顔に向って右足を振り抜く。突然の回し蹴りにフォルトも聊か驚き、かわそうと試みるがそれが無理だと判断しすぐさま木刀でそれを防ぐ。左手に持った木刀で右足を何とか防ぐが、その衝撃で木刀がまたメシメシと軋み、小柄のフォルトの体が軽々と弾き飛ぶ。

 リングの表面を滑る様に吹き飛んだフォルトは、場外ギリギリで踏み止まり立ち上がった。二発目の蹴りを防いだせいで、左腕には大分痛みが残っているが、フォルトはそれを堪えながらフォンを見据える。


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