表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/100

第75回 秘宝 風魔の玉

 風牙の村は様々な戦いでボロボロになり、何処の家も倒壊している。穴の開いた天井からの日差しは、そんな村の中を優しく照らし木々が緩やかに流れた。

 村の人々は崩れた家を建て直すために、皆が協力しあい作業を開始し金槌で釘を打つ音が響いてくる。泣いていたセフィーは自分の部屋に篭り今も泣き続けており、ウィンスはそれが心配でたまらなかった。まるで、お祭りがあるかの様に賑やかな村の人々は、楽しげに作業を進めている。フォン、ティル、カイン、ウィンスの四人は、ある程度の傷をルナに癒してもらい、後は包帯や薬を塗ってもらい事を済ませていた。

 ミイラ男の様に包帯を巻かれたフォンは、何処からどう見てもフォンと言う面影が見当たらない。ティルとカインはさほど酷い傷では無いので薬だけを塗り事を済まし、ウィンスもある程度包帯を巻くだけですんだ。その後、力を使いつかれたのか、ルナはスヤスヤと眠りに就いた。


「う〜っ。これじゃあ、オイラだってわかんないじゃ無いか……」

「しょうがないですよ。傷が酷かったんですから」

「まぁ、そうだけどさ……」

「しかし、よくもまぁ、酷くやられたもんだな」


 皮肉る様な口調でティルがそう言うと、少しムスッとした表情を見せるフォン。だが、その表情は包帯のせいで誰にも気付いてもらえない。そのまま、不貞腐れるフォンは黙り込み俯いた。それが、落ち込んでいる様に見えたカインは、フォンを励まそうと明るく声を掛けた。


「フォン。落ち込まないでよ。人は前向きに生きていかなきゃ」

「別に落ち込んでない。不貞腐れてるだけだ」

「あっ……。そうなんだ。ごめん」


 自分の勘違いに恥かしそうに謝ったカインは、フォンをそっとしておくため、ティルの方に顔を向けた。落ち着いた様子のティルは、ふとカインと目が合いある事に気付き、眉を顰めながら言う。


「なぁ、ワノールはどうしたんだ? 一緒じゃないのか?」

「あっ! そう言えば忘れてました。ワノールさんは、森の中で見かけた白衣を着たおじさんを追いかけていきましたよ」

「な、何! 白衣だと!」


 カインの言葉でティルは白衣の男の存在を思い出し、立ち上がった。全く状況の読めないカインは一人首を傾げていた。



 静けさ漂う森の中、木々を裂け草を踏み鳴らす足音が響く。時折、白衣の裾が枝に掛かるが、全く気にせず進む男は、ずり落ちる眼鏡を右手で上げながら必死に歩き進める。口元に薄らと浮かぶ笑みは、不気味で気味が悪い。歩き続け暫くすると、少し開けた所にでた。

 草も綺麗に刈られ、風が渦巻くその場所に白衣の男が足を止める。白髪の髪が穏やかに渦巻く風に微かに靡く。その中央には小さな祭壇があり、その中に黄緑色に輝く水晶が置かれていた。まるで、その水晶が風を作り出している様に見える。

 不適な笑みを更に気味悪く見せる白衣の男は、一歩ずつ水晶に歩み寄る。


「何と美しい……。これぞ、風牙族の隠していた秘宝、風魔の玉。私の探し求めていたものだ。これで、私の研究も一歩前進だ」


 白衣の男がそう言い風魔の玉に手を伸ばす。その刹那、背後から草を踏む音と共に何やら鉄の擦れ合う音が響いた。ハッとした白衣の男はすぐさま振り返るが、そこには誰もいない。訝しげに眉を顰める白衣の男は、何かを感じ取りその場を退く。それと同時に上空から漆黒お刃が振り下ろされ、地面スレスレでそれが止まる。漆黒の刃の剣を振り下ろしたワノールは、真っ黒の衣服に身を包んでおり、少し長めの黒髪が流れる風で靡く。右腕は真っ白な包帯を巻いており木できっちりと固定されているため、左腕で漆黒の刃の剣を振るうワノールは、白衣の男の方に体をむけ睨み付ける。


「どうやら、お前を追いかけてきて正解の様だな」

「お前、一体何処からつけていた! 足音も気配も感じなかったのに!」

「さぁな? どこからつけられてたかは自分で考えるんだな」


 何処と無く力強い声のワノールは、相手に妙な威圧感を与えていた。それは、無意識のため本人はその事には気付いてはいない。目に見えない威圧感に、白衣の男はすぐさま只者ではないと感じていた。その為、先程までの薄気味悪い笑みは消え、強張った表情で警戒している。黒い刃の剣、黒苑を構えるワノールは、相変わらず難しい表情をしており、顔の傷痕が少し歪む。

 その時、白衣の男が急にワノールの視界から消えた。右目の見えないワノールの死角に飛び込んだのだ。一瞬、白衣の男を見失ったワノールは、すぐに左目で白衣の男を追い、視界に捉える。白衣の男は白衣の内側から注射針の様な物を取り出し、ワノールに向って打ち放つ。不慣れだ左腕で剣を振るうワノールは、いつもよりワンテンポ遅れて黒苑を振るった。黒苑の黒い刃はその針を弾き、澄み良い音を奏でる。

 白衣の男はすぐさま距離をとり、口元に笑みを浮かべた。薄気味悪く不適に。


「フフッ……フフフフッ……。初めはビックリしたけど、案外見た目倒しだね。剣の振り方、反応の速さ。どれも私よりも遥かに下だ」

「今ので人を判断するのは、どうかと思うが」

「分かるんですよ。私には。第一、その怪我で私には勝てないんですよ。驚いて損しちゃいましたね」


 白衣の男は不適に笑いながら、ずれた眼鏡を上げた。その時、森の奥から落ち着きのある雄雄しい声が響く。


「ロイバーン。探していた物は見つかったのだろ? いつまでも遊んでいる時間は無いぞ」


 草を踏み鳴らしながら声の主が森から姿を現した。背中に背負った二本の槍。内一本は刃が砕けなくなっている。長身とは言いがたい体格の雄雄しい顔の男ヴォルガは、落ち着いた様子で対峙するロイバーンと呼んだ白衣の男とワノールを見据える。訝しい表情でヴォルガを睨むワノールは、暫し警戒する。右手で背負った槍を取ったヴォルガは、刃の砕けている槍をロイバーンに向けて言う。


「お前が研究の為に、色々探すのは構わんが、自分の仕事を忘れるな」

「分かっている。だが、私は私の研究を最優先にする。お前の槍など直している暇は無い」


 力強い口調でロイバーンはそう叫ぶ。刃の砕けた槍をロイバーンに向けるヴォルガは、何も言わずジッとロイバーンを見据える。そのヴォルガの背後から漂うおぞましいオーラに、ロイバーンは息を呑み、一歩後退する。額から大量の汗を流すロイバーンは、息を荒げながら答えた。


「わ、わかった。お前の槍を、今すぐ直してやる。戻るぞ」

「分かれば良い」


 ヴォルガは槍を背中に担ぎなおし、ロイバーンは汗を拭った。完全にワノールの事など気に留めないヴォルガに、ワノールが怒りの篭る声で怒鳴る。


「オイ! どういうつもりだ!」


 背を向けるヴォルガは足を止め振り向く。そして、呆れた様に首を振り、雄雄しい声で言い放った。


「見逃してやるというんだ。ありがたいと思え。人の命は儚い、それ故に大切にするものだ」

「ふざけるな!」


 地を蹴るワノールは黒苑をヴォルガに向って振り抜く。

 手応えは無く、ただ空を切る漆黒の刃。

 宙を軽やかに舞うヴォルガは、音も無く地に着地する。

 あまりの力の差にワノールは驚きを隠せなかった。ロイバーンよりも遥かに強い力を感じさせるヴォルガは、愕然とするワノールを見据え静かに笑みを浮かべ、


「右腕が完治した時に再戦したいものだ。まぁ、今は生き延びる事だな」


と、言った。そして、その場から消えた。

 俯き黒苑を鞘にしまったワノールは、下唇を噛み締めた。血の出るほどに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ