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第73回 燃える炎に白い刃

 空を覆っていた木々の葉が無くなり、日の光の入り込む村は明るさと賑わいが取り戻されていた。村の家々は壊滅しているが、それでも久し振りの日差しに歓喜の声だけがこだまする。

 皆が喜び浮かれる中、村の外れで大きな物音が響いた。土煙が立ち込め、数本の木々が音を立て崩れ落ちる。騒いでいた村の衆は、皆驚きその方向へ目を向ける。

 土煙の中に薄らとシルエットが浮かび上がる。一つは少々ふらつく感じで立ち、もう一つが徐々に近付いてくるのが分かる。

 多少傷の痛むフォンだが、その方向に顔を向け遠目でそれを確認する。風で土煙が消え、その姿が露になった。


「あれって、ウィンスじゃないか?」


 フォンの言葉にルナがその方向に顔を向ける。そこには、確かにボロボロの姿のウィンスが立っており、その前には見慣れぬ顔の男が居た。そして、ティルの姿が見当たらないのに、少々怪訝そうな口調でルナが言う。


「確かにウィンスさんの様ですが、ティルさんはどうしたんでしょう? セフィーさんの話しだと、ウィンスさんを助けに行ったとの事だったのですが?」

「ああっ……。本当だ、見当たらないな。道に迷ったんじゃないかな?」


 笑いながらそう言うフォンだが、すぐに傷が痛み笑うどころでは無くなった。右手をフォンの胸の位置で翳すルナは、少々呆れた様にため息を吐く。

 そんな中、見慣れる顔の男に対し一つの声が響く。

 声の主はセフィーだった。


「アルート! 生きていたの……」


 その姿に、涙を流すセフィーは顔を両手で覆う。だが、その感激も束の間、何処からとも無く地面を突き破り木の根が姿を現した。外に出ていた村の人々は完全に安心しきっており、突然の木の根の出現にうろたえ右往左往に逃げ惑っていた。

 一番驚いていたのは、フォンだった。完全に止めを刺したと思い込んでいたからだ。逃げ惑う人々に襲い来る木の根に、立ち向かおうとするフォンだが、それをルナが制す。


「ルナ! 何で止めるんだ! 村の皆が!」

「駄目です! 今のフォンさんの体は動ける体じゃないんです。まともに戦える状態じゃないんです」

「それでも、オイラは! ウグッ……」


 立ち上がろうとしたフォンだが、体中が軋み悲鳴をあげ痛みに耐える事が出来なかった。地面に崩れ落ちるフォンは、痛みに悶え苦しんだ。その間も村の人々の悲痛の声が辺りに響き、その声を聞いている事がフォンにはとても辛かった。人が傷ついているのに、何も出来ない自分が情けなかった。

 そんな時、木々がざわめき、風と共に真っ赤に燃える火が滑走する。人々を襲う木の根の周りをその火が渦動し、炎々と木の根を焼き尽くす。木の根の焼ける臭いと燃え盛る音に、フォンは顔をあげ訝しい表情をする。そんなフォンに向って聞き覚えのある優しげな声が響く。


「怪我してるのに無理しちゃ駄目だよ。それから、皆に心配掛けちゃだめだよ」


 その声のする方に顔を向けるフォンとルナの目に、真っ赤な髪を風に靡かせ優しく微笑むカインの姿があった。相変わらず優しい顔付きのカインは、右手に持った蒼い刃の剣、青空天を軽く振っている。そんなカインの姿に驚くフォンは、


「か、カイン! 何でここに……」


と、戸惑うような声を上げた。

 ニコニコと笑顔を絶やさないカインは、軽い足取りで荒れた道を歩きながらフォンとルナの方に近付き、言う。


「実は僕とワノールさんも、三人が旅立った後をすぐに追ったんだけど、見失ってね。荒野を歩いてたらここの森に辿り着いたってわけなんだよ。暫く森をさまよってたら凄い衝撃と一緒に突風が吹きぬけてきたから、その場所に向って走ってきたら、ここに辿り着いたってわけなんだ。あの衝撃って、もしかしてフォンがやったの?」


 ゆったりとした口調でマイペースに話を進めるカインは、何だか嬉しそうだった。だが、今はのん気に話しているときではないとフォンは思い、カインの言葉を中断させる。


「わ、分かった。話は後で聞くよ。今は村の人たちを」

「そうだったね。それじゃあ、フォンの事は頼んだよルナ」

「はい。任せてください」


 ニコリと微笑んだカインは二人に背を向け地中から体を出す木の根に向っていく。自分の左手を青空天の刃で軽く切ると、真っ赤な血を蒼い刃に滴らせる。その血は、青空天の刃を焼くかの様に音をたて白煙を上げる。蒼い刃はみるみる赤く染まり、高温の熱を帯びていた。

 その真っ赤に熱しられた刃で次々と木の根を切り裂くと、木の根は切り口から燃え上がり地中にもぐる木の根を炎々と焼き尽くしてゆく。全ての木の根を切り終えたカインが、フォンとルナの方に向って手を振っていると、カインの右脇腹に凄まじい衝撃が襲い掛かり、体が吹き飛んだ。地面を転げ岩に激突し爆音をとどろかす。土煙に包み込まれカインの姿は確認できないが、あれで無傷で済むとは思えなかった。

 村の人々のザワメク声に、フォンは嫌な予感がした。その時、セフィーの声が響き渡った。


「や、止めて! アルート! 彼は私達の村を守ってくれたのよ!」


 涙を流しながら、アルートにそう言うセフィーは一歩、一歩とアルートに歩み寄る。その時、傷つき倒れるウィンスが、力を振り絞り声を上げた。


「姉さん! 危ない!」

「――!」


 アルートはセフィーに向って右手を翳す。瞬時に右手には風が集まる。村の人々、フォンやルナ全ての人に緊張が走る。何とか動こうとするフォンだが、それをルナに止められる。そして、セフィーに向って集められた風が打ち出された。

 全ての者が駄目だと思った。誰も、それを止める事は出来ないと――。

 だが、その風はセフィーを直撃しなかった。風の球は真っ二つに裂け、消滅したのだ。そして、風の球を真っ二つにしたのは、地面に突き刺さる真っ白な刃の剣だった。刀身の幅の大きな鋭く尖った鋭利な片刃の剣だった。地面に突き刺さっているが、それはとても大きく目立っていた。その場に居た皆が驚き息を呑んだ。

 そんな中、茂みの中から、


「ウィンス。これで、分かっただろ? 大切な人を傷つけようとする奴は、もう人ではない。ただの化物だ」


と、低く堂々とした声が響き、多少頭から血を流したティルが現れた。

 着ている衣服は少しボロボロになっており、所々血が滲み出ている。茂みから現れたティルは、少々ふらつきながら真っ白な刃の天翔姫を地面から抜くと、重々しいその刀身の幅の大きな片刃の剣を構える。

 一番驚いた表情を見せているウィンスは、幽霊を見ているような表情で口をパクパクと動かしていた。そして、ようやく言葉を口にする。


「お、お前、あの時やられたんじゃ!」

「フッ。あの程度で、俺はやられん。第一、俺はこんな所じゃ死ねないからな」

「オーッ。カッコつけんな! ボロボロの身なりしてるくせに」


 ティルの言葉を茶化す様にフォンがそう叫んだ。すると、ティルがフォンの方を睨み付け大声で言い放った。


「五月蝿い! お前こそ、そんなに派手にやられやがって、何のために村に残ったんだか!」

「何だと! コッチはな、巨大な根っ子が相手だったんだぞ! 危うく死ぬ所だったんだぞ!」

「あーっ。それは残念だ。いっその事、ここでくたばってくれれば良かったのにな!」

「なーっ! お前、人には言って良い事と悪い事があるんだぞ! 知らないのか!」


 大声で言い合うフォンとティルは完全に周囲の事など気にはしていなかった。フォンの治療を続けるルナと、ティルの事を暫し尊敬しつつあったウィンスは、完全に呆れていた。

 二人がもめていると、アルートが右手をティルに向って翳す。風が右手に集まり球体となるのに、フォンは気付き言い合いながらもそれを目で合図した。もちろん、ティルにはそれが何の合図なのか分かった。アルートの右手から風の球が放たれると同時に、ティルは右手に持った天翔姫を振り下ろす。天翔姫の刃と風の球が激しくぶつかり合い辺りに突風が吹き荒れ、爆音が土煙を舞い上げながら大きく轟いた。


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