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第67回 風牙族の力

 大きく長いミミズの様な生物が日の光の入らない薄暗い森の中にある村を取り囲み、一方の方へと体を向けている。その先には、大きな屋敷とボサボサの茶色の髪を揺らすフォンと、茶色のコートの裾をはためかすティルが、堂々と立ち尽くしている。戦闘態勢に入る二人の背後にはフォンよりも小柄な髪を逆立てたウィンスの姿があり、暫し唖然とした面持ちで二人の背中を見据えていた。屋敷の部屋の中には相変わらず無表情の可愛らしい面持ちのルナが座っており、表情には出さないが何やら楽しげに見える。

 刀身の幅の太く鋭く尖った鋭利な刃の天翔姫を、真っ直ぐにミミズの様な生物の方に向けたティルは、口元に笑みを浮かべフォンの方を見る。真っ直ぐに伸びる天翔姫の刃先を見据えるフォンは、軽く呼吸を整え静かに言う。


「オイラ、できる限り戦いたくない。けど、人々を苦しめるお前達は許さないぞ!」

「全力で暴れさせてもらうぞ。ミミズ共!」


 二人の堂々としたその態度に、頭を抱えるウィンスはため息を吐きフォンとティルに何かを言おうとする。だが、フォンとティルはすぐさま地を蹴りミミズの様な生物の方に向ってゆく。二手に散るフォンとティルは各々狙いを定めたミミズの様な生物に攻撃を仕掛ける。

 フォンは右拳を鋭く突き出し、ミミズの様な生物の体をなぎ倒して行き、一方落ち着いた様子で天翔姫を振るうティルは、次々とミミズの様な生物の体を切断していく。どちらも、反撃する暇を与えてはいなかった。次々と倒れて行くミミズの様な生物に、ウィンスは聊か驚いたように口をあんぐりと開けている。

 一方的にやれれていたミミズの様な生物は、急にクネクネとうねりだし、一斉にフォンに襲い来る。一人一人確実に潰しに来たのだろう。次々とうねりながら襲い来るミミズの様な生物に、反撃する事も出来ずただ逃げ惑うフォンは、完全に四方を包囲され逃げ場を失っていた。うねる体を持ち上げるミミズの様な生物は、口の様な所を大きく開きフォンに向って酸を吐き出そうとする。焦るフォンは何とか逃げ場を探すが、完璧までな包囲網で逃げ場所など見つからなかった。


「ヌオオオッ! こんな所で、死ねるか!」


 フォンはそう言うと、右足を引き静かに息を吐き出す。見据えるその先にはうねるミミズの様な生物の体で、その一点を睨み付けたままフォンは大地を蹴った。少しコケの生えたその地面を、力強く蹴り出したが足が滑りフォンはその場に転んだ。


「グハッ……。もう……駄目だ……」


 うつ伏せに倒れ込んだまま動かずジッとするフォンは、静かに酸が掛かるのを待った。そんなフォンのピンチを尻目に、ティルは黙々とミミズの様な生物を切り倒していた。まるで、フォンの事など気付いていないかのように。そんなティルの代わりに、ウィンスがミミズの様な生物に向って突っ走っていった。


「クッ! 何考えてるんだ! 風よ、刃と化し我と共に道を切り開け!」


 すると、ウィンスの右手に風が球体に渦巻き、それが徐々に刃の様に鋭く化してゆく。風に包まれた右腕を軽く振り抜くと、目の前に立ちはだかるミミズの様な生物が真っ二つに裂かれる。次々と風の刃でミミズの様な生物を切り倒すウィンスは、ようやくその中心に辿り着いた。そこには、うつ伏せに倒れるフォンの姿があり、ウィンスは完全に勘違いしていた。


「な…なんて事を……。この村と無関係の人を……」


 ガックリと膝を地面に落としたウィンスは、俯いたまま動かずその身を震わせる。怒りと彼等を止める事の出来なかった自分の情けなさが、さらに怒りを強め両拳は激しく震えた。すると、轟々しい音が辺りに響きだしウィンスの周りに風が渦巻き始めた。風は辺りの木々の草木を揺らし、葉や枝を取り巻き激しく渦巻く。

 ざわめき立つ木々の葉にうつ伏せに倒れていたフォンがふと顔を上げる。だが、その事に気付かないウィンスは更に取り巻く風の勢いを強めていく。吹き荒れる風に、目を細めるフォンはその中心にウィンスがいるのを確認し、首を傾げる。茶色のボサボサの髪が更にボサボサに乱れていた。風に舞う木の葉はまるで刃の様に鋭利な物になり、触れた物を切り裂いていく。ミミズの様な生物もその付近にいるフォンの頬も。


「ヌハッ! 木の葉が、刃物に!」


 戸惑うフォンは流石に身の危険を感じたが、そこに逃げ場など無くジッとしているだけで精一杯だった。その風に怯えるフォンなど見えておらず、ウィンスは右手を天高く翳す。


「吹き荒れる風よ。怒れる我の牙となりて、目の前の敵を打ち砕け!」


 吹き荒れる風は、小さくウィンスの天高く翳した右手に集まると、辺りは静まり返り舞っていた木の葉も地にヒラリと落ちる。ボサボサに乱れた髪のフォンは、ようやく風が収まりホッとするが、次の瞬間ウィンスが地面に向け小さく集まった風をたたきつけた。風は地面に叩きつけられ、激しい爆音と衝撃を地面に走らせ、風が地面を這う様に吹き抜ける。それは、刃の如く鋭く、触れたものを真っ二つに切り裂く。ウィンスの体は風で宙に舞い、それを免れているが、座り込んでいたフォンは完全に不意を突かれ、焦りながら近くにいたミミズの様な生物にしがみ付いた。

 地面から抜き出ているミミズの様な生物の体は、地を這う風に切り裂かれ、周りを囲んでいたミミズの様な生物は全て地面に横たわった。その威力に暫し興奮の冷め遣らないフォンは、ウィンスの方に向って叫ぶ。


「コラ! オイラまで殺す気か! 何を考えてるんだ!」

「え、ええっ! ま、まさか幽霊? いや、足はある。それじゃあ、い、生きてたのか!」


 フォンの姿に驚くウィンスに、軽く首を傾げたフォンはこいつは何を言っているんだと、言った感じで変な表情をした。辺りに散乱するミミズの様な生物の体を、見回すフォンの横で安心したように泣いているウィンスに、天翔姫をボックスに戻したティルが言う。


「何泣いてるんだ? 大体、あんな大技が使えるなら、初めから使えば良いだろ?」

「うう〜っ。あんなの、そんなに簡単に出来ないよ。俺も、初めてやったんだから」

「な、何! そんな使った事の無い技でオイラを巻き込んだって言うのか!」


 ウィンスの言葉に激怒するフォンだが、それを無視してティルがウィンスに訊く。


「あれは、一体なんだ? ミミズじゃないのだろ」

「あ、あれは、木の根だ」

「木の根? 何で木の根が? 村を襲うんだ?」


 ウィンスの言葉にフォンがそう言い、首を傾げるが完全に無視して話を進めるウィンスとティル。


「木の根か……。それなら、本体を叩かないとまた来るな」

「本体は分かっている。ただ、俺達にそこに辿り着くまでの力は無い」

「なら、この村を出れば良いだろ?」


 その言葉に複雑そうな表情を見せるウィンス。そんなウィンスに、ルナが言う。


「この村は、持ち出せない秘宝があり、その為彼等はここを離れられないんです。そうですよね?」

「ど、どうして、秘宝のことを!」


 驚いた様子のウィンスに、ルナは落ち着いた様子で答える。


「昔、私の住む村で聞いた事があったんです。この世界のいたる隠れ里には、絶対に悪い者の手に渡ってはいけない程の秘宝があると」

「へ〜っ。それじゃあ、オイラ達なら良いのか? 秘宝を手に入れても」

「どうだかな。実際、本当に俺達が悪い者かなんてわからないからな」


 フォンの言葉に素早く返答したティルは、暫し呆れたような表情を見せる。複雑そうな面持ちでティルを見たフォンに、ウィンスが言う。


「まぁ、あんた達はこの村を一緒に守ってくれたから、きっと良い人達さ」

「実は、裏があるのかも知れんぞ? 人とは心の底では何を考えているかわからんからな」

「ティルは本当に冷たい奴だな」

「お前の様に能天気に暮らしているわけじゃないからな」

「何だと! 誰が能天気だ!」

「まぁまぁ。それより、今度こそ本当に族長に会わせるよ。この村の事も知られてしまったから」


 ウィンスはそう言うと、村の奥の大きな屋敷に向ってボコボコになった道を歩み進めた。何も疑わず軽快にウィンスの後に続くフォンに対し、暫し疑いの眼差しを見せるティルとルナは、ゆっくりとした足取りでその後に続いた。

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