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第64回 巨大ミミズ

 熱く焼けたような荒野の真ん中に倒れる者がいた。その上には三人分の荷物が乗っており、それ以外に周りには何も無く静かに生暖かな風が吹く。乾燥した地面に水気など微塵も無く、その荷物に潰される茶髪で幼顔の少年フォンも、枯れ果てた様に動かなくなっていた。暫くして、その場に辿り着いた黒髪で切れ目のティルと、金髪の無表情のルナは、倒れるフォンに駆け寄り声を掛けた。


「オイ! 大丈夫か!」

「完全に枯れ果ててますね」

「あと少しで森があるって言うのに、何でこんな所で力尽きてるんだ!」

「み…み……ず……」


 微かにそう呟いたフォンに、ティルとルナを顔を合わせ首を傾げ辺りを見回す。暫くして首を左右に振りながらフォンに言う。


「こんな乾燥した所にミミズなんて居るわけないだろ!」

「取り合えず、水を飲ませてみては?」

「そうだな。それから、話を」


 取り出した水の入ったボトルの口を開け、フォンの顔に水を零す。すると、息を吹き返したようにフォンが起き上がり慌てだした。ティルはボトルの口を閉め慌てるフォンを見据え、ルナは表情を変えず首を傾げた。慌てるフォンは森の方を指差して、仕切りに何かを伝えようとするが、全く声が出ておらずティルとルナは互いに顔を見合わせ、森に向って歩き出す。必死にそれを阻止しようとするフォンは首を左右に振るが、ティルもルナも呆れて相手にもしなかった。


「お前、自分が休めたら、それで良いのか?」


 ティルのその言葉に激しく首を振るフォンは、何かを伝えようと口を開くが一向に声は聞こえない。いい加減、怒りを覚えるティルは、フォンを無視して森へルナと歩いてゆく。半ば諦め、フォンは三人分の荷物を手に取り気付く。自分が声を出して居ない事に。

 そして、すぐにティルとルナの方を見て焦る。二人は既に森に一歩足を踏み入れており、それが何を意味するのか分かっていたフォンは大声で叫んだ。


「その森は! 巨大ミミズの巣だ!」


 その声と同時に地響きがおき、森の地面から巨大なミミズの様な生き物が四体姿を現す。太さが一メートル程あり、長さは地上に出ているだけでも、百メートルはあった。その生物を目の当たりにしたティルは、流石に驚きいつもの冷静さは無くすぐにルナの手を引きその場を逃げ出した。一方のルナは相変わらず表情一つ変えずに、物珍しそうにその生物を観察していた。

 三人分の荷物を抱えるフォンとルナの手を引くティルの後を、巨大なミミズの様な生物が地面を抉りながら追いかけてくる。乾燥している地面は音を起てながら、崩れて行き、綺麗にミミズの様な生物の通った跡が残っている。


「お、お前! 何でもっと早く言わない!」

「何度も止めただろ! オイラは!」

「何度も止めたって、声に出さなきゃ分からんだろうが! あーっ。お前といると本当に碌な事が無い!」

「な、何! オイラのせいにするのか!」


 走りながらもいがみ合う二人に、ミミズの様な生物が口から何か液体を飛ばした。その液体は二人の頭の上を超えて、暫し前方の乾燥した地面の上にベチョと張り付く。そして、ジューと、音を起て白煙をあげながら乾燥した地面を溶かした。その光景にいがみ合いをしていたフォンとティルは、表情を引き攣らせ苦笑した。


「あ、あれって、何かな? 地面が溶けたけど……」

「さ、さぁ? お、俺には、け、検討も……」

「あれは、酸です。それも、強力な」


 表情を引き攣らせ、声の震えるフォンとティルに対し、表情一つ変えず落ち着いた様子の声でルナがそう言う。やっぱりそうだよなと、言いたげな表情を見せたフォンとティルは全力でそのミミズの様な生物との距離を離していった。

 その後、何とか逃げ切ったフォンとティルは、息を切らせ今にも今にも死にそうな顔をしていた。それに対し、殆ど走っていないルナは、風でボサボサになった髪を綺麗に整えながら、ボサボサになっているフォンとティルの髪を見ていた。


「ゼェ…ゼェ……。に…逃げ……ゼェ…切った……のか?」

「ふーっ……どうだかな……」

「もう……、走れないぞ……」

「そうだな……。しかし、こんな所に森があるなんて……」


 そこまで言ってティルの動きが止まる。見覚えのある様な木々が複数あり、しかもこの荒野からみた感じ、見えた森はあの場所しかなかった。一瞬にして表情の曇るティルは、ぎこちない動きで辺りを見回し、ゆっくりと天翔姫に手を掛けた。そのティルの行動に不自然さを感じたフォンは、首を傾げルナの方を見て言う。


「なぁ、ティルの奴、何警戒してるんだ?」

「多分ですが、ここが先ほどいた場所だからだと思います」

「へ〜っ。ここが、さっきの……えぇぇぇっ!」


 ようやく、息を整える事の出来たフォンだが、ルナのその言葉に一瞬にして胸が苦しくなり息が少々荒くなる。立ち上がり互いに背を向け合うティルとフォンは、周りを警戒していた。多少生暖かな風が、周りの木々の葉を揺らしざわめかせる中、全神経を集中させるティルとフォンは、額に汗を滲ませる。先ほどの様な地響きも起きず、全くミミズの様な生物の気配を感じない二人は、息を呑み静かに言葉を交わす。


「まだ、留守の様だな……」

「そうみたいだけど、早い所逃げた方が良いかもしれないぞ、オイラ達」

「確かに一理あるが、何処に逃げる? この森以外進む道は無いぞ」

「流石に来た道を引き返すのは嫌だもんな」

「だが、あの巨大ミミズに見つかれば……」


 辺りを警戒しながらもこの先どうするかを考えるフォンとティルの耳に草木がカサカサっと動いた音が聞こえた。その方向に顔を向けると、未だ茂みがゴソゴソと動き如何にも怪しいといった雰囲気を流している。フォンは両拳を握り締め、ティルはボックスの天翔姫を細い刃の剣に変え柄を確り握る。そんな二人を見ていたルナは、フォンとティルの背後に音も無く現れたミミズの様な生物を目視した。特に驚きもしないルナは、この事を伝えようと口を開く。


「ティルさん。フォンさん」

「今、忙しいから後で」

「そうだ。後で話しは聞く」

「そうですか……」


 大人しく引き下がったルナは、もう一度ティルとフォンの背後のミミズの様な生物を見る。その口から一滴あの酸が滴れ、フォンの茶色の前髪を掠めた。目の前を通過したその酸を目で追ったフォンは、前髪がジューッと音を立てて溶けるのに、驚き振り返った。ティルもフォンに釣られてすぐに振り返る。目の前に佇む巨体のミミズの様な生物の姿に、二人はほぼ同時に驚きの声を上げ、距離をとった。


「ル、ルルルルナ! 知ってたなら教えろよ!」

「声は掛けましたよ。忙しいから後でとフォンさんとティルさんが」

「ま、まぁ、そうだけど……」


 フォンは少し反省し、巨体のミミズの様な生物を見上げる。天翔姫を構えるティルは、横に立つ小柄なフォンに言う。


「幸い、一体しかいない様だ。俺達だけで何とかなりそうだな」

「何とかなるか? 相手はミミズだぞ」

「あれはミミズじゃないから」

「ミミズじゃなきゃ、何……ンッ?」


 フォンは言葉の途中でふとある事に気付き、言葉を呑む。そんなフォンを見るティルも、何やら複雑そうな顔をしており、首を傾げた。そんなフォンとティルに、


「来るぞ」


と、幼い子供の様な声が茂みからそう言う。

 顔を見合わせるフォンとティルはゆっくりと茂みの方を見た。そんな二人に更に幼い子供の様な声が言う。


「何してるんだ! 余所見すんなよおっさん!」


 その瞬間、茂みからフォンよりも遥かに小柄な黒髪の短髪を逆立てた男の子が飛びたした。目付きは悪く幼さの残る顔つきのその男の子は、妙な民族衣装の様な物を着ており、首には綺麗な首飾りを纏っている。茂みから飛び出した男の子は、素早く無駄の無い動きでミミズの様な生物に近付き、体を両断する。

 切られた体は地面に倒れ未だ動き続け、地面に続く体の方は素早く地面に潜っていた。

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