第55回 行方(フォン)
茶色の荒野に続く舗装されていないデコボコの道。
辺りにはチラホラと木々が生えているが、どれもこれも枝だけで葉は無い。日がサンサンと降り注ぐ空には薄雲が掛かっており、蒼い色が淡く見えていた。
そんな中、デコボコ道を汗だくで歩く一人の少年が居た。
茶色の髪は汗で額にベッタリと張り付き、薄手のシャツも体に張り付いている。小柄な少年は、背中に大きな鞄を背負っており、時折後に倒れそうになる。多少幼い顔付きの少年は、表情を少々引き攣らせ口から息を、ゼェゼェと吐いていた。
「クッ……。完全に…音が聞こえない……」
両膝に手を置き苦しそうに俯きながら息をする茶色の髪の少年は、そう呟き右手で汗を拭う。
生暖かな風が時折吹くが、それが更に少年の体力を消耗させ、喉をカラカラに乾かしている。唾さえ出てこないその状況に、少年の目は霞み幻覚が映り始める。
前方から、変な形の乗り物が近付いてくる様な幻覚に、必死に首を振り振り払おうとするが、それは確実に近付いてきていた。そして、聞き覚えのある爆音まで聞こえ、少年は遂におかしくなってしまったのだと、その場にへたり込んだ。
ガガガガガッ
と、音が響き少年の前でそれが停まり中から人が降りてきた。少しお腹の出た中年の男は、少年に向って恐る恐る言う。
「おめぇ〜、どこの人だ? 悪い事は言わねぇ、あの村には近付かねぇ〜方が身のためだ」
「駄目だ〜。世界が回る〜。意識が遠のく〜」
「でぇ〜じょうぶか〜」
少年は中年の男から水を貰い、ようやく息を吹き返した。
何日ぶりかの水を体がすぐに吸収し、少年は明るく笑みを浮かべ中年男に言う。
「あんがとうな。危うく、オイラ死ぬ所だったぞ」
「そうか〜。助かってよかっただ〜」
中年男も少し嬉しそうに微笑むがすぐ様表情を変えた。何かに怯える様な表情の中年男は、体を小刻みに震わせる。
その様子を見据える少年は、首を傾げながら、
「寒いのか?」
と、一言。だが、すぐに中年の男が否定する。
「違うだ! あの村の事考えっと、寒気がするだ」
「あの村? この近くに村があるのか?」
「そうだ。こん近くに人口の少ねぇ、小さな村さあるだ。だけんど、最近変な集団ば来よって……」
視線を地面に落とし中年男は更に体を震わせる。その言葉に少年は暫し考え、ふと中年男の背後の変な乗り物に気付く。
大きなタイヤの四つ付いた、鉄の箱の様なもの。それを、まじまじと見つめる少年は、記憶を辿りあることを思い出した。
「アーッ! こいつだ! ルナをさらったのは!」
「大声ば、だしよんとみつかってしまうだぁ」
「それより、あんたがルナをさらったんだな!」
「ルナ? 誰だぁ? そんな名前の奴は知らん」
中年男は激しく首を振り、後ずさる。少年は強い眼差しで中年男を睨み付け、激しく箱の乗り物を叩く。
大きな音が響き、それが少し凹み中年男は少年の瞳の色に気付き驚き腰を落す。諤々震える両膝は、言う事を聞かず立ち上がることが出来ない。そんな中年男の前に屈み込んだ少年は暫し、鋭い目付きで問う。
「この鉄の箱は誰のだ」
「こ、これは、村に来よった集団の乗ってた、東のフォーストで開発された、自動車って乗り物だ。だから、わたしは何にも知らん。頼む、命だけは」
「そっか。それじゃあ、この自動車って奴はその集団のモノなんだな。わかった」
少年は納得したように頷くと、ゆっくりと立ち上がり軽く準備運動をする。特に脚を重点的に準備運動をする少年は、大分体が温まったのか、中年男の方に顔を向け、明るく微笑みながら言う。
「色々あんがとうな。それから、疑って悪かった。仲間を連れてかれて、少しピリピリしてたからさ。それと、あんたの村に来た集団はオイラが追っ払ってやるぞ」
「なっ! なに馬鹿な事言ってるだぁ! あんたが、幾ら獣人でも奴らにはかてねぇだ」
「それでも、オイラは困ってる人は見捨てない。どんなに嫌われてても、怖がられていても、馬鹿にされていようとも、けして困っている人は見捨てるな。それが、例え勝ち目の無い戦いでも。これが、親父との誓いの言葉だ」
「だども、獣人が何で人間のわたしらを……」
恐る恐るそう問う中年男は、獣人の少年を見る。そんな視線に気付いていない獣人の少年は、軽く飛び跳ねながら中年男の質問に答えた。
「人間とか、獣人とか関係ないんだ。例え種族が違えども、皆同じ人なんだ。困った時は助け合う。そう言うもんだ」
「しかし、獣人は魔獣の仲間だぁ」
その言葉に呆れる獣人の少年は、ため息を漏らした。
「誰が、そう言う事言うのかな? 大体、獣人だって魔獣に襲われるのにさ。まぁ、いいんだけど……」
獣人の少年はもう一度ため息を吐き、地面を確り踏みしめる。一瞬にして辺りは静まり返り、緊迫した雰囲気に変わる。生暖かな風が微かに少年の茶色の前髪を揺らし、暫し土煙が舞い上がる。そして次の瞬間、獣人の少年は力強く地を蹴り、地面を砕き石の破片を撒き散らせながら走りだした。
獣人の少年はすぐに見えなくなり、土煙だけが辺りに残されていた。呆然と中年の男はその場に座り込んで動く事が出来なかった。
荒野のデコボコ道を暫く進んだ獣人の少年の視界に古びた村が見えた。木々が無く荒れ果てたその村の前で脚を止めた少年は、暫し唖然としていた。作物など全くなさそうなその村は、人気も無く、全く活気が無い。
「何だ? この村は……」
少年が村に一歩踏み込んだ刹那、黒い閃光が目の前を通過した。閃光は前髪を掠め、ハラハラと前髪が舞い落ちる。その場を離れた獣人の少年は地面に右ひざを付き前を見て叫んだ。
「不意打ちなんて卑怯だぞ!」
「殺し合いに、卑怯などと言う言葉は無い」
聞き覚えのある棘のある声に、獣人の少年は驚き声を上げた。
「お前……」
「久し振りだフォン」
何だか、最近物語りがゴチャゴチャとしてすみません。一応、自分なりに面白くなるように書いているんですが、難しいですね……。
次はティルの話に移りますが、ちゃんとこの話と関る話なんで、気にしないで読んで下さい。読みにくかった場合は、メッセージください。次回からはやらない様に心がけます。