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第54回 金髪の少年との再会(ティル)

 青々と続く海に白い線を引きながら風でコートをはためかせるティルは、丸一日スカイボードの乗っていた。

 ブラストに挑発されスカイボードに乗ったはいいが、停め方も方向転換のやり方も教わっておらずただ直進する事しか出来ずに居たのだ。疲労と眠気と必死に格闘し、不安定なスカイボードを乗りこなす。

 そんなティルの視界にようやくアルバー王国の領土が見えた。それと同時に、一隻の貨物船が視界に入り、ティルは頭の中で素早く計算する。貨物船のスピードと進行方向と、スカイボードのスピードと進行方向についてだ。その結果、貨物船とスカイボードがこのまま行けば衝突する事がはっきりと分かった。


「まずい! このままだと、貨物船に!」


 驚いた拍子にティルは思いっきりアクセルを踏み込んでしまった。一瞬、スカイボードが海の真ん中に停まり、その直後爆発音と共に水柱を打ち上げた。鋭い水飛沫を上げるスカイボードは、ティルの体を吹き飛ばしてしまうんじゃないかと言うスピードで、直進する。何とか貨物船との衝突を免れたが、このスピードではティルの身が持ちそうに無かった。


「だ、誰か……」


 風のせいで思う様に言葉も出ないティルは、轟々しい音が聞えると同時に激しい衝撃を全身に受け宙に舞った。蒼い空と緑の大地が何度も回転し視界に移り、最終的に視界は真っ暗になった。

 スカイボードは大破し、小さな炎を上げアチコチに部品が飛び散っており、大きな岩には皹が入っていた。

 ようやく、意識を取り戻したティルは、額を押さえながらゆっくりと立ち上がった。全身に少し痛みの残るティルは、アチコチに転がる部品と罅の入った岩を見て苦笑する。


「あのスピードでこんな岩にぶつかれば、体が投げ出されるのも納得だし、大破するのも当たり前だな……」


 暫しその光景に唖然とするティルだが、すぐに気持ちを切り替え今の自分の場所を地図で確認する。海沿いの道で近くに森のあるこの場所は、すぐに特定する事が出来ず、ティルは悩んでいた。そんな時、道の先から一人の少年の声が聞えた。聞き覚えのあるその少年の声に、ティルは顔を上げ驚き目を丸くする。


「ティルさんじゃないですか!」

「カイン!」


 金髪の髪で優しげな顔のカインは、笑顔でティルの元に駆け寄った。辺りに散らばる部品の事など全く気に留めないカインは、久し振りに会ったティルに嬉しそうに話しかけた。


「お久し振りですね。確か、ミーファさんを北のグラスターに連れて行かれたんですよね。でも、よかったです。北に向かった貨物船が一隻残骸で発見されたって聞いてたんで、心配したんですよ」

「そ、そうか」


 カインのペースに未だについて行けないティルは、少し引き攣った笑みを浮かべている。

 そんなティルに、カインは首を傾げながら聞く。


「でも、どうしてこんな所に居るんですか? 確か東のフォーストに行くって言ってませんでしたか?」

「いや、状況が変わってな。ちょっと、フォンとルナを探しに来たんだ」

「状況が変わった?」

「ああ……」


 今までの事を事細かに説明した。落ち着いた様子でその話を聞いていたカインだったが、話が終ると甚く驚いた様子でやたらと騒ぎまわっていた。


「た、たた大変じゃないですか! み、みみミーファさんが、時見の姫だなんて! しかも、魔獣達が狙ってるなら、今頃大変な事に!」

「分かってるって。取り合えず、落ち着けカイン」

「な、何でそんなに落ち着いていられるんですか!」

「と、言うよりお前が騒ぎすぎなんだ」


 慌てるカインにそう言ったが、全く耳には届いておらず、その後も暫く騒ぎまわっていた。

 ティルはカインが落ち着くまで、海を眺め待っていた。小さな波の音と、潮風で揺れる木々の音、それからカインの足音が混ざり合う。

 カインが落ち着きを取り戻した時には、空は大分黒ずんでいた。

 ランプに火をともしたティルは、ゆっくりと立ち上がりカインを見る。


「そろそろ、俺は行く。早くフォンにこの事を伝えないと行けないからな」

「それなら、僕も一緒に行きますよ」


 真剣な眼差しでティルにそう言うカインに、ティルは断る理由も無いので軽く承諾した。カインの剣の腕も知っていたので、一人より二人の方が色々と助かるとティルは思ったのだ。

 嬉しそうにティルの横を歩くカインに、ティルは暫し疑問に思っていたことを口にする。


「お前、ワノールと一緒じゃなかったのか?」


 その言葉にカインは少々悲しげな表情を見せ、ため息を吐きながら答える。


「実はですね。ワノールさんは、奥さんが居たんですよ」

「な、あいつ結婚してたのか!」


 意外な事実にティルも思わずそう言ってしまった。あの怖い顔をしたワノールが結婚していたなんてと考えると、その奥さんの苦悩が何と無く頭に過ぎる。

 驚くティルに、カインも「そうでしょ?」と、軽い口調で言う。


「僕もワノールさんの家に行って始めて知ったんですよ。僕、10年位ワノールさんと一緒に居ましたけど、今まで家に帰らずずっと単身赴任だったみたいで」

「奥さんは、大変だったろうな」

「そうでもなかったみたいですよ。何回も手紙でやり取りしてたらしくて」

「そうか。それで、ワノールは家に残ったわけか」


 笑いながらティルはそう言いカインの肩を叩くが、カインは力強く首を左右に振り悲しげな瞳をする。

 笑っていたティルも表情を変え、詳しくカインに話を聞く。


「ワノールさんの家に着いて、三日後でした。家が何者かに焼かれ、奥さんの姿が消えたんです。僕とワノールさんは丁度近くの森で剣の稽古をしていて、その現場は目撃してなかったのですが、向かいの家の方が怪しい男達を見たと。それを、聞いて僕はワノールさんにその男達を追いましょうって言ったんだけど、ワノールさん酒場でお酒を飲んで……」

「それじゃあ、あいつは酒場で酒飲んでるのか?」

「はい……。正直見損ないました」

「でも、何で家を焼かれたんだ? 放火か?」

「分からないんです。どうして、家を焼かれたのか……。あの様子から、魔獣の仕業じゃなさそうですし」


 未だ悲しげな瞳のカインはまたため息を吐く。顎に右手を添え考え込むティルは、足を止めた。その数歩前でカインは足を止め振り返る。

 波の音と木々の音が静かに流れ、夜道を照らすランプの火が軽く揺れる。


「どうかしましたか?」


 怪訝そうな表情でティルを見据えるカインは静かにそう言い、首を傾げる。

 一方、ティルは軽く首を捻り答える。


「どうして、ワノールは相手を追わないんだ? ワノールだったら、絶対に追いかけそうだが」


 ティルの言葉に意味が分からないと言わんばかりの表情で首を傾げるカインに、ティルは言う。


「ワノールだったら、奥さんが居なくなったなら探し出しそうだからさ。普通ならそいつらを追いかけそうだが」

「まぁ、そうですけど……。人の考える事は分かりませんから」


 カインは苦笑した。

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