第5回 ティルとの出会い
村にはフォンと男の子と切れ目の男、それに、数体の魔獣がいた。頬から血を流すフォンは切れ目の男を睨みつける。一方の切れ目の男はそんなフォンを無視して、先ほどの銃の形を組み替えていき槍を作り出しす。
鋭い爪で地を蹴りフォンに、背後から襲い掛かる魔獣達。その魔獣に向かい、しなやかかつ鋭く突き出す槍は、魔獣の額を貫く。フォンの背後には額を貫かれた魔獣が力無く横たわっていく。
切れ目の男は槍の刃に付いた血を払うと、槍の形を組み替えてボックスに変えて腰にぶら下げた。我に返ったフォンは振り返り倒れる魔獣を見て驚きの声をあげる。
「オッ! すげぇ〜。あんなに居た魔獣を、すぐ倒したよ」
「お前とは出来が違う」
関心するフォンに対し、当然だと言わんばかりの声でそう言う。それには、腹が立ったが悪気がある訳じゃないと言い聞かせ、フォンは怒りを押え込み、先程の武器の事を聞こうと口を開く。
「なぁ、さっきの武器何だ?」
振り返ったフォンの前には切れ目の男の姿は無く、虚しく風だけが吹き抜けていく。肩を落としフォンはため息を吐く。流石に凹んだ様子のフォンは井戸の淵に腰を下ろし背中を丸める。そんなフォンの事を無視して、切れ目の男は鞄を背負い低い声で男の子に言う。
「そこの小僧。近くの町まで案内してやる。着いて来い」
切れ目の男の声に怯える男の子。だが、切れ目の男はそんな事に構わず、旅の支度する。そこに、フォンが背中を丸めて凍える様にやってきた。
「ウウッ。ざむい……」
フォンに気がついた切れ目の男は、一度フォンを睨みつけてから低い声で言う。
「何か様か?」
「何か着る物ないか? 寒くて……」
「無い」
フォンが言い終わる前に切れ目の男は言う。ムスッとした表情でフォンは切れ目の男を見るが、切れ目の男はそれを無視して支度をする。切れ目の男が無視するので、フォンは男の子に言う。
「なぁ、厚手のコートとかあるかな?」
「多分、家にあると思う」
「そっか。じゃあ、それ貸してくれ」
「うん。わかった」
男の子はフォンの事を大分信用してくれた様で、笑いながら自分の家に走り出す。フォンはそれを見ながら嬉しそうに微笑む。そんなフォンに切れ目の男が問う。
「お前は何故、人間の為に戦う」
「ンッ?」
急な問いにフォンは不思議そうな顔をして、切れ目の男を見る。切れ目の男は手を止めてフォンの方を見ていた。視線がぶつかり合ったまま沈黙が続く。フォンはさっきの問いに答え様と、頭の中で答えを探すが答えは見つからなかった。
「お前、難しい質問するな」
「難しいか。それじゃあ、質問を変えよう。お前は何故あの魔獣達と戦った?」
その問いへの答えは簡単に見つかり、フォンは笑顔で答える。
「そりゃ、あの子が悲しんでたからだ」
「お前自身に何の得がある? 人間に嫌われているのに、魔獣と戦う意味があるのか?」
切れ目の男の声がいつに無く感情的になる。なぜ、そこまで感情的になるのか、フォンにはわからないが取り合えず口を開く。
「損得の問題じゃないんだよな。それに、人間も獣人も何にも変わらない。ただ、瞳の色と身体能力が違うだけで、中身は普通の人間と変わりないんだ。例え嫌われていても、いつかは仲良くなれるってオイラは思ってる。だから、オイラは困ってる人は助ける様にしてる」
その言葉に何となく説得力を感じた切れ目の男は、少し表情を和らげ笑みを浮べる。と、そこに、男の子が黒い厚手のコートを持って走ってくる。
「これ、もう着る人いないから、フォンが貰ってよ」
「いいのか? 貰って」
「うん」
「それじゃあ、ありがたく頂戴させていただきます」
フォンはそう言って黒い厚手のコートを受け取りそれを着た。ふかふかで暖かなコートにフォンはホッと肩を落とす。
そして、旅の支度を終えた切れ目の男は、男の子に先程より優しい声で言う。
「さぁ、行くぞ」
「うん」
男の子は元気の良い声で言う。フォンは笑顔で2人を見ていた。そんなフォンに切れ目の男が、低い声で言う。
「フォンと言ったな」
「ああ。オイラはフォンだ」
「そうか。俺はティルだ。お前とはまたどこかで会うかもしれんな」
「おう。そん時はよろしく頼むぞ」
フォンはそう言って右手を大きく振る。男の子はフォンに向って手を振りながら切れ目の男ティルと一緒に村を去って行った。その後、フォンも村に墓を造ってからその村を出て行った。