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第49回 白いボックス 天翔姫

 蒼い海に囲まれた小さな島の中心にある小さな一軒の家の裏で、話をしていたティルとブラストは、大きな翼の音の方を見上げていた。蒼い空に羽ばたく大きく黒い翼に、恐怖を覚えるティルは、一歩後退し表情を強張らせる。

 そして、一体、この島に魔獣達何しに来たのかを考えるティルの頭には、既に二つの理由があった。一つは時見の姫ミーファを探し連れて行くこと。もう一つは、自分を傷つけたティルを探し出し殺す事。どちらにしても、魔獣達はこの島に住む人々を生かすはずは無かった。

 武器も無いティルは焦り、色々と考えるがその考えは全て最悪な方向にばかり進んでゆく。そんなティルの背後では、ブラストが欠伸をしながら空を見上げていた。その姿にティルは怒鳴る。


「お前、余裕かましてる暇はねぇ! 早くエリスつれてこの島を出ろ!」

「俺が、エリスを連れてこの島を? 何故だ」

「奴等の狙いは俺だ。俺がここであいつらを引き付ける。その間に――」

「悪いが逃げる気は無いし、お前を囮にするつもりもない」


 笑みを浮かべながらブラストはそう言うが、あの魔獣の強さを知るティルにそんな余裕などない。ただ、エリスだけは傷つけたくないと言う思いで一杯だった。

 そんな事を思うティルの耳に大きな翼の音が聞こえ、それと共に突風が草木を激しく揺らす。空を見上げるとそこに魔獣の姿は無く、魔獣達が降り立ったのだとはっきりわかった。しかも、この家の前に降り立ったのだ。木々のざわめく音である事に気付いたティルはブラストの襟を掴み叫ぶ。


「エリスは何処だ! 今、エリスは何処にいる!」

「家で掃除でもしてるんじゃないか?」

「掃除だと! このままだと、エリスが!?」


 両手でブラストを突き飛ばしティルは裏口から家の中へ入る。木の床を軋ませ走るティルは、一部屋一部屋見て回る。エリスを探しながら。激しく開かれるドアが、木の壁にぶつかり大きな音をたてるが、そこにエリスの姿は無くティルの心は焦る。もう魔獣に捕まってしまったのではないかと、不安になる思いを胸に秘め必死にエリスを探す。額から汗を流すティルは、最後の部屋のドアノブを握った。目を閉じ呼吸を整えるティルは、ここにエリスが居る事を願いながらゆっくりドアを開くが、小さな部屋にベッドと机があるだけで、そこにエリスの姿は無かった。

 絶望の淵に立たされたティルは、その場に崩れ落ち涙を流す。エリスを失った悲しみとエリスを守れなかった自分への怒りが、全身にこみ上げてくる。そんなティルの背後でブラストの声が聞える。


「こんな所で何をしてる」

「グッ……。エリスを……」

「安心しろ」

「黙れ! お前の声など聞きたくない!」

「そうか。なら、これを渡しておこう。前渡した試作品は破壊されたようだからな」


 その言葉の後に、ティルの横に白いボックスが転がる。あの黒いボックスと瓜二つの白いボックスに手を伸ばすティルは、白いボックスを握り始めて黒いボックスとの違いに気付く。白いボックスには数字の振られたボタンがあり、黒いボックスの様に自分で組みかえるものではなかった。

 震える手でそれを握るティルに、ブラストが後から話しかける。それは、その白いボックスに関する説明だった。


「それは、お前に前渡したボックスの完成品『天翔姫てんしょうき』そのボタンを入力する事であらゆる武器へと変化する。他にも試作品に無かった様々な機能がついているし、威力や切れ味も全て試作品を上回る。お前なら天翔姫を使いこなせるはずだ」

「天翔姫……」

「それから、エリスは無事だ。今、ある所に隠れている。だから、魔獣に見つかる心配はない」

「それは、本当なのか?」


 信用していない訳じゃない。ただ、確認したかったのだ。それに、ブラストがそんな嘘をつく筈ないと、ティルは知っているからだ。そんなティルの気持ちを察したブラストは、腕組みをしながら軽く微笑む。ティルも軽く笑みを浮かべゆっくりと立ち上がった。


「さぁ、早いとこぶった切って、エリスを迎えにいくぞティル」

「その前に、お前に忠告しておくぞ」

「忠告?」

「あぁ。奴等は半端な魔獣とは違う」


 ティルのその言葉にブラストは軽く頷く。それが、どうしたといわんばかりの態度のブラストに、不安をつのらせるティルだが、何故かブラストなら大丈夫だという気持ちになった。それは、ティルがブラストの強さを知っているからだろう。


「さぁ、いくぞ。まずは、表にいる魔物クラスの奴からだ」

「ンッ? 何だ、あんた魔物クラスとか知ってたのか?」

「一応、俺も王様だ国の状況とか魔獣の強さとかも、調べてある」

「流石は若き王様だな。ふけ顔なのがどうかと思うが」

「悪かったなふけ顔で」


 そんな会話をした後、二人は木の廊下を軋ませながら玄関まで移動した。窓から見える外の様子を伺う二人は、家の前には一体しか魔獣が居ない事を確認する。そして、その魔獣が魔物クラスだと言う事もすぐに分かった。それは、翼の色が黒じゃなかったからだ。

 息を潜めるティルとブラストは暫し作戦を練る。だが、結局良い案が出ず、正面からぶつかる事になった。

 そして、ティルが窓をぶち破り魔獣の前に現れる。魔獣は窓ガラスの割れる音と、飛び散るガラスの破片に驚き顔を背ける。


「貨物船の上では随分といたぶってもらったな!」

「グッ! 貴様、やはり生きていたのか!」

「当たり前だろ! 俺は不死身だ」


 そう言いながら白いボックスの1のボタンを押し2のボタンを押す。すると、ボックスが形を変え始め、柄が現れ鍔が出来、最後に細く鋭い刃があわられる。切れ味の鋭そうなその刃は、滑らかに光を放つ。試作品の時の剣と違い、物凄く軽く感じるその剣を構えるティルの背後で、ブラストの声が響く。


「始めに1を押すと剣に変化する。その次に押すボタンでその剣のタイプが変わる。始めに押したボタンが、基本となる形だ。あと、元に戻す時は柄の先にある0のボタンを押せ」

「って、言うかお前何姿見せてんだ! 俺が隙を作った時に飛び出すって予定だっただろ!」

「あっ! そうだったな。まぁ、いいじゃないか。この際、隙なんて作らずお前が一人で片付けるって言うのも」


 穏やかに笑いながら割れた窓を、綺麗に排除しながらブラストが外に出てくる。ガラスを踏み鳴らし音を立てるブラストに、呆れていたティルだったが、天翔姫の力を試してみたいと感じていた。大きな翼を広げ威嚇する魔獣を、見据えたまま天翔姫を構えるティル。木々が揺れ、擦れ合う葉がざわめきティルと魔獣の戦いを観戦している様だ。ジリジリと間合いを詰めるティルに対し、まるで時間を稼ぐように間合いを取る魔獣。その行動に何やら疑問を感じたブラストは、素早く天翔姫の試作品の黒いボックスの形を変える。そのスピードは、殆ど天翔姫と同じ位の速さで、ボックスは剣へと変化していた。

 そして、次の瞬間、ティルの背後の茂みから茶色の大きな翼を広げた魔獣が飛び出してくる。それと、同時にティルと向かい合う魔獣も飛び出し、鋭い爪を振りかざす。鈍い音が辺りに響き、木々が一瞬大きなざわめきを見せ、また静まり返る。真っ赤な血が地面に飛び散り、ティルを背後から襲おうとしていた魔獣の体は木に鋭い刃で貼り付けにされていた。その先には、ブラストの姿があり手に持つその剣には刃がついていなかった。

 一方、ティルとぶつかり合った魔獣の爪は、天翔姫によって一刀両断され既に物を切り裂く事など出来ない。天翔姫を振り下ろしたままのティルは、刃を切り返し一気に魔獣の体を切り上げる。真っ赤な血が勢い良く吹き出し、ティルの体を真っ赤に染める。

 生臭い血を浴びたティルは、鼻を摘み変な顔をしながらブラストを見る。そんなティルを、ブラストは避ける様に歩き、魔獣に刺さる刃を抜くと魔獣の体がドサッと地面に落ち、真っ赤な血が木の根元に広がる。ブラストは刃に付く血を拭き取りすぐに剣をボックスに戻しティルを見て言う。


「もう少し、考えて戦えよ。それから、体に血の臭いが染み付く前に洗い流せ」

「分かってるさ」


 ティルはそう言い天翔姫に付いた血を拭き取り、来ていた衣服を脱いで井戸の水で体に付いた血を洗い流した。流石に、少しばかり臭いが残っているが、そこは仕方が無い。暫くして、ティルは服を着替えブラストの前に現れると、そこには、新しく魔獣の死体が三体加わっていた。血を洗い流し服を着替えに行っている間に、既に三体の魔獣を倒すなんてと、感心するティルは、まだ水滴の残る黒髪を靡かせながら苦笑いを浮かべる。


「あんた一人で、こいつらを?」

「まぁ、国を守る王様が魔物クラスに梃子摺っちゃまずいだろ? それに、天翔姫の試作品は使い方次第で最高の武器になるんだよ」

「俺は全く使いこなせなかったがな……」

「それよりも、問題は魔獣人だがどうしたものか……」


 ブラストはやけに複雑そうな表情を見せ考え込む。もちろんティルも奴の強さを知るだけに表情が曇る。沈黙が辺りを包み、風が木々を揺らす音と砂浜から聞える波の音だけが、辺りに響く。そんな中、何処からとも無くキーンと、耳に響くような音が響き渡る。ティルもブラストもその音に耳を塞ぎ苦痛に表情を歪め、身の危険を感じ取る。その直後、ティルとブラストの間に何かが突っ込んできて、激しい衝撃と爆音をとどろかす。


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