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第45回 復旧活動

 魔獣達の襲撃から数日が過ぎた。

 美しかった町並みは瓦礫と灰の山と化した都市ディバスターでは、朝から晩まで復旧活動が行われていた。

 もう、都市とは言えぬ程崩壊した町並みは、瓦礫の山と黒く焼き焦げた木の柱などしか残っておらず、無傷で綺麗なお城だけが遠くからでも目立っている。

 多くの人の血で真っ赤に染まっていた街道も、今は血が固まり黒く変色して異臭をだけを漂わせ、この血の臭いを人々は一生懸命消そうとしているが、完全に落すことは出来ないだろう。だが、それがこの街にとって良い薬になれば良いと言う者達も多く居た。


 一方、復旧活動の続く中、お城の中にある病院の病室では未だにフォンが苦痛に魘されていた。あれから数日フォンは目を覚まさず、ただただ苦痛に魘され続けていた。ティルやワノールも大分ひどくやられていたが、あの不思議な力を持った金髪の少女のおかげで、近いうちに退院できるとの事だ。医者の言う事には、「普通の人間なら死んでいた」と、言っていたが、ティルは「俺は普通の人間じゃないのか?」なんて、後からカインにぼやいていた。

 そんな三人の病室に見舞いに来たカインは笑いながらワノールの傍にある椅子に座り問う。


「これから、どうしましょう? ワノールさん」

「知らん。黒き十字架は解散したんだ。お前は行きたい様行けば良い」


 少し棘のある言い方でカインを突き放そうとするワノールは、目を閉じる。そう、黒き十字架は本部が崩壊したため、解散を余儀なくされ新しく黒の刃と言う組織を設立した。もちろん、ワノールとカインも呼ばれたらしいが、「俺の所属は黒き十字架だけだ!」と、ワノールが国王に怒鳴り散らしたとか。まぁ、ワノールも腐れ国王に使える気は無いらしい。

 この話を思い出したティルは、痛む傷口を押さえながら微笑する。傷口がズキズキと痛み始めるが、笑いを堪える事が出来なかった。


「グッ…。フフ……クッ……」

「何を笑っている」

「い…いや……なんでもないさ」

「笑うと傷が開きます」


 丁度、ミーファと一緒に病室に入ってきた金髪の少女が無表情でそう言って、ティルの顔を見る。しかし、ミーファと並ぶとその少女の身長の低さと胸の大きさが際立って見える。複雑そうな表情のワノールはに対し、少女に満面の笑みを浮かべるカインは、少女と目が合うと軽く会釈する。すると、彼女も少し頭を下げるが、その表情は変わらない。そんな少女とカインのやり取りに複雑そうな表情で首を傾げるティルとワノールは、不思議でしょうか無かった。なぜ、カインがあんなに笑っていられるのか。

 少女はフォンのベッド脇の机に置いてある花瓶を手に取り、持っていた花を生けてゆく。一方、ミーファはティルのベッドの横にある椅子に座り笑いながら声を掛ける。


「もう、傷は大丈夫? まぁ、あの傷じゃあ暫くは安静にしてなきゃね。アハハハッ」

「俺はもう平気だ。問題はフォンの方だろ。あれからずっと魘され続けてる」

「そうだよね。まぁ、その内よくなるわよ」

「それより、お前らはこれからどうするつもりなんだ? 奴の事が国王にバレるのも時間の問題だ」


 珍しくフォンの事を気に掛けるワノールの言葉に驚くティルとミーファ。今まで獣人であると言うだけであれだけ、嫌っていたのにまるで別人の様だ。その視線に気付いたワノールは、少々目付きを尖らしティルとミーファを交互に睨んだ。半笑いするティルとミーファは顔を見合わせる。鼻で息を吐くワノールに、低い声でティルが答える。


「まぁ、ミーファは学校へ戻るらしいから、俺もボディーガードの仕事から晴れて開放される。その後は、気ままな一人旅を再開するつもりだ」

「学校? 何の事ですミーファさん」


 ティルの言葉に反応したのは以外にも金髪の少女だった。少々、怪訝そうな声でそう言った少女の方を見たミーファは焦りながら声を上げる。


「エッ、あっ、ちょっと!」


 あたふたするミーファは立ち上がり少女の腕を引き病室から急ぎ足で出て行く。あの慌てようだと、何か隠している様だが別に誰も気にはしていなかった。別に何を隠していようが自分には関係ないと思っていたからだ。



 静かな森の中――。

 多くの木々が立ち並び、その木々の葉の間から差し込む日の光が、森の中をかすかに照らす。

 美しい鳥の囀り、木々の葉が擦れ合いざわめく。緑の大地を静かに風が流れる。

 そんな森の奥に、古びた感じの二階建ての木の家が建っている。二階の部屋の窓だけが大開になっており、他の窓は少しだけしか開いていない。屋根に大きく突き刺さる煙突からは白煙が緩やかに立ち上り、誰かが暮らしているのが見て取れた。

 そんな木の家の窓の大開になった部屋でフォンが目を覚ました。体中にまだ痛みが残り、動く事も出来ないフォンはとりあえず綺麗な天井を見上げたままゆっくり息を吐く。

 ここが何処なのか分からないが、とても静かだと言う事ははっきりわかった。大きく開いた窓から入ってくる風が、優しくフォンの茶色の髪を揺らし部屋の中を駆け巡る。誰の声も聞えず、鳥の囀りと草木のざわめきが微かに耳に届くだけで、後は緑の香りがフォンの敏感な嗅覚に届く。どれ位久し振りだろうか。こんなに安らげるのは――。そう思った時、フォンはハッと我に返り変な想像をする。『もしや、オイラ死んじまったのか!』と言う思いが脳裏に過ぎり、一気に不安になり声を上げる。


「ティール! ミーファー! 居るなら返事をしろ! カーイーン! お前でも良いから返事を! ワノール! 嫌だけど、最悪お前でも良いから返事を!」


 大声で叫ぶフォンに返事は無く、静かに時が過ぎる。暫く叫び続けたフォンも、随分長い間何も食わずに寝ていたせいで力尽き、声も出せなかった。お腹の音が響き、もう助けなどどうでもいいから、何か食べさせてくれと願う。

 その時、フォンの願いが通じたのか木の床の軋む音が徐々に近付いてくるのがわかった。ティルだろうか? ミーファだろうか? まぁ、どっちでも言いやと、思いながら胸を躍らせるフォンの耳に聞えたのは、ティルでもミーファでも無い声だった。


「あら。目を覚ましたのですね。そうならそうと、呼んで頂ければ食事のお持ちいたしましたのに……」

「いや……。随分前に大声で叫んだんだけど、聞えなかったのか?」

「えぇ、全く聞えませんでした」

「そうですか……。それで、君は誰なんだ?」


 天井しか見る事の出来ないフォンはその声の主を見ようと必死に体を動かす。一方、少女は無表情のままフォンの体に乗った布団をどけ、体を起き上がらせる。金髪の長い髪は窓から入る風に揺れ、艶良く輝く。

 それが、フォンにはとても美しく見え少女のその可愛らしい顔に見とれる。その後、作業を終わらせた少女が先程の質問に答える。


「私はルナ=クライアンです。ミーファさんに頼まれあなたと一緒に旅をする事になりました。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げたルナは、頭を上げて無表情でフォンの顔を見つめる。ボーッとするフォンは、自己紹介から暫くして我に返りあたふたしながらルナに問いかける。。


「それじゃあ、ティルやミーファはどうしたんだ?」

「ティルさんは、ミーファさんをお連れし別の国へと旅立ちました。あと、ワノールさんとカインさんもそれぞれ、旅に出ました」

「じゃあ、オイラは一人だけ残されたのか!」

「ですから、私があなたの旅に同行いたします」


 冷静な口調でそう言うルナに、少々抵抗のあるフォンは黙り込む。代わりにフォンのお腹が鳴り響きその音を聞いたルナは、フォンに背を向け歩き出す。何も言わずに歩き出すルナの背中を見据えるフォンは、首を傾げようとするが痛みで動かない。だから、自然とため息が毀れた。

 その後、暫くして良い香り漂い御盆に料理を乗せルナがやってくる。料理の乗った御盆をベッド脇の机に置くとルナはその前の椅子にゆっくりと腰を据える。長い髪が料理に入らないように、綺麗に整え確りと止めてある。


「体の方はまだ痛みが残るようですね」

「う…うん。まだ、痛みがあるよ。それでさ……」

「もしかして、私が『食べたきゃ自分で食べなさい』と、言うと思ってませんか? 私は表情を表に出さないだけで、別に人の心を失ったわけじゃありませんよ」

「何で、表情を表に出さないんだ?」

「それは、あなたには関係ありません。さぁ、口を開けてください」


 黙々とフォンの口に料理を運ぶルナは、表情を一度も変える事は無かった。そんなルナの顔を見ていると、フォンは何だか悲しくてしょうがない。

 その後、食事を終えるとルナはスッと立ち上がり御盆を持って部屋を出て行く。殆ど会話の無いこの状況がフォンにとっては耐えられなかった。だから、ルナが戻ってきたら自分から沢山話しかけようと心に決めた。

 暫くした後、木の床が軋む音が聞える。ルナの足音だと確信を持ったフォンは笑顔でルナの事を迎えた。少々、驚いた様子を見せるルナだが、表情は変えない。


「どうかなさいましたか? 嬉しい事でもあったんですか?」

「別に何にも無いよ。どうして?」

「いえ……。それなら、何故笑みを浮かべるのです? 必要あるんですか?」

「ほら、笑う角には何とやらって言うでしょ。だから、君も笑おうよ!」

「笑う角には福来るですね。誘って貰って悪いのですが、私は遠慮します。笑うだけでは福は呼び込めませんから……」


 表情を変えずにそう言い、開けっ放しの窓を閉じる。外は既に日が落ち薄暗く風もやや冷たくなり始めていた。外の様子を見たフォンは次なる作戦を実行すため、口を開く。


「夜風は気持ち良いんだぞ。少しくらい窓を開けても――」

「確かに、そうかも知れませんが、風邪等引かれると回復が遅れます。我慢してください」

「じゃあ、散歩に――」

「駄目ですよ。先程も言いましたが、夜風に当たり風邪をひかれては困ります」

「それじゃあ――」


 言葉を探すフォンは、ふと窓ガラスに映るルナの顔が目に付いた。今まで無表情だったのが、嘘の様に悲しげな顔をするルナ。その瞬間、何だか申し訳なく感じたフォンは言葉を呑みため息を吐く。

 それに、対しルナはまた無表情な顔で振り返り、優しく言う。


「それでは、就寝の時間ですので――……」


 深々と頭を下げたルナは部屋の明かりを消し立ち去って行く。その後、フォンは暫く眠る事が出来なかった。あの無表情のルナがあんなにも悲しげな表情をすると思うと。

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