第39回 ディバスター
ようやく、首都ディバスターに到着したティルとミーファ。
大きな建物ばかり建ち並ぶ町並みの奥には、大きなお城が立っている。道幅も他の町に比べ二倍も三倍も広く、沢山の露天が建ち並んでいる。色んな匂いと大勢の人の声が行き渡る町の様子に、少々呆気に取られるティルとミーファはゆっくりと綺麗な道を真っ直ぐ歩く。
「凄いね……。首都って、こんなにも凄いんだ……」
「いや……。四大陸の首都を見て来たが、こんなに豪勢な建物が建ち並んでいるのは、初めてだ。ここ何年かでここまで変わるのか……」
感心するティルと町の様子に見とれるミーファ。二人とも辺りを見回しながら歩いているため、所々で通行人とぶつかっていた。そんな二人は、完全に本来の目的を忘れ去っている。
暫く歩き続けたティルは、ふと辺りを見回しミーファの姿が無い事に気付くが、暫く考えた末放って置く事にした。互いに子供じゃないし、迷子になる事も無いと考えが纏ったからだ。
そして、ティルも暫く町を見て回る事にした。
その頃、ミーファも一人町を歩き回っていた。目に映る様々な店に目を光らせるが、到底ショッピングを楽しむ程、お金を持ち合わせていない。そのため、ミーファは何度もため息を吐いている。
「目の前に、こんなにもお店があるのに……。手を出す事が出来ないなんて……」
うな垂れるミーファに、背後から声が聞こえる。優しく暖かな少女の声。その声に、ミーファは真剣な顔付きになり、立ち止まる。
「あなたは、自分の使命を忘れてしまったのですか?」
「いえ、そんな事は……」
「では、急いでください。もうじき、ここに魔獣の群れがやってきます。あなたのする事は、わかってますね?」
「はい。わかってます」
「それでは、あなたの無事を祈ります」
そう言うと、少女の声は聞こえなくなると、ミーファはすぐに走り出す。
その頃、黒き十字架の本部前では、フォンの処刑の準備が着々と進んでいた。もちろん、指揮を執るのはワノールだ。その脇にはカインの姿もあり、必死にワノールに頼み込んでいる。
「ワノールさん! 処刑なんてやめましょうよ! 彼は人を襲ってないし、そんな悪いことをする人には見えませんでした」
「お前は、少し話しただけで、そいつが犯罪を犯したか犯していないのかわかるのか? 人は皆仮面を被っているんだぞ」
「でも、フォンは――」
「例外は無い! 獣人は処刑すると決まっている。それが、黒き十字架の掟だ」
カインの発言を最後まで聞こうとせず、ワノールは大声で言い放つ。流石のカインもこれには黙り込んでしまう。
その後、処刑台が完成し、その周りに大勢の人が集まり始める。数人の叫び声が飛び交い、まるで処刑を楽しみにしていたと言わんばかりに騒ぎ立てる。その会場にティルの姿もあった。ここに居れば、フォンを助け出すチャンスがあると思ったからだ。
だが、この人混みでは思う様に動く事も出来ず、周りには無数の警備隊が居るため、迂闊に動く事も出来ない。
「クッ……。たかが獣人一人処刑するのに、この警備は無いだろ……。それに、この騒ぎようは異常だ……」
確かに、異常な程の熱気が溢れる人々に警備。それ以上におかしいのは、この国の王 グラトニー=クレストラが、居ると言う事にある。色々とおかしな点があり過ぎるこの処刑に、疑問を抱いたのはティルだけではなかった。
黒き十字架の本部の二階で、外の様子を伺うワノールとカインも異常な観衆に疑問を抱いている。左目でグラトニーを睨むワノールは、静かにカインに言う。
「お前、奴から何か聞かされているか?」
「奴?」
ワノールの言葉に首を傾げるカイン。そのカインに、ワノールは少し苛立ちを覚えながら言う。
「牢獄に居る獣人からだ。色々と話をしていただろ?」
「色々と話しましたが、これと言って何も聞いていませんけど……」
「そうか……。なら、なぜあの腐れ国王まで見に……」
「う〜ん。どうしてでしょうね?」
腕組みをし考え込むカインに、何も言わずにワノールは歩き始める。足音でその事に気付いたカインは、早足でワノールに追い付き言い放つ。
「ワノールさん! 行くなら行くって言って下さいよ! 僕一人で、考え込んでたら馬鹿みたいじゃないですか!」
「そんな事、俺が知った事か。それより、俺は腐れ国王に会い、直接話しを聞いてくる。お前は牢獄に居る獣人の方に行け。何かあれば、連絡する」
「わかりました……」
少しやる気の無い声で返事をするカインは、ワノールの姿が見えなくなるとゆっくりとした足取りで牢獄へ向う。廊下にはカインの足音と、外から聞こえる観衆の叫び声だけがこだましていた。
愛読してくださる方には申し訳ないのですが、暫く休止させて頂きます。
別に行き詰っていると言う訳ではないので、早い内に再開させたいと思っております。
自分なりに何を頑張ればいいのかを考え、その答えが見つかり次第再開させたいと思います。
作者の勝手な都合で本当に申し訳ありません。