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第38回 黒き十字架 副隊長 カイン

 静かで冷え込む地下の牢獄に、ボロボロの服装のフォンの姿があった。フード付きのコートもワノールとの戦いでその機能を失い、全く寒さを凌いでくれないため、牢獄の隅で両膝を抱え身震いさせるフォンは、小さな声でぼやいていた。


「うう〜っ。さみーっ。少しくらいオイラのお願いくらい聞いたって良いじゃないか〜。黒き十字架って組織は、ティルよりも冷たいんだな〜」


 静かな牢獄内には小声のフォンの声も響き渡り、そんなフォンの声に見張りの兵士が大声で怒鳴り込んでくる。


「黙れ! 獣人! 自分の立場が分かっているのか!」

「わかってるよ〜。でもさ〜、この対応はあんまりじゃないかな?」

「うるさい! 囚われの身で我々に意見するのか!」

「別に、意見してる訳じゃなくて、お願いしてるだけじゃないか〜」


 不満そうにそう言うフォンに、眉間にシワを寄せ怒りを募らせる兵士。流石のフォンもこれ以上何か言うと、危ないと察し口を尖らしたまま黙り込む。

 その時、静かな廊下の奥からゆったりとした足取りの足音が響く。その足音に耳を澄ますフォンの耳に、優しそうな男の声が聞こえる。


「珍しく騒がしいけど、何かあったの?」


 その声に先程までフォンと言い争っていた男は、背筋を伸ばし動かずに緊張している。その兵士の前には煌く金髪の優しげな顔の男が居る。歳はフォンと同じ位に見えるが、身長はフォンよりも低い。

 微笑む金髪の男に兵士は恐る恐る声を上げる。


「か、カイン副隊長殿!」

「やめてよ。副隊長だなんて……。僕はそんな器じゃないんだから」


 照れくさそうに微笑み頭を掻くカインは、ふと牢屋の中を覗き込む。その瞬間、フォンとカインの視線がぶつかり、二人は同時に微笑み合う。

 その後、カインは見張りの兵士を持ち場に戻らせると、ゆっくりとフォンに話しかける。


「ねぇ、どうして牢獄に何か居るの?」

「別に好きで牢獄に居るわけじゃないんだけど……」

「そうだよね。それで、何をしたの?」


 優しく微笑みながらフォンに問いかけるカインに、フォンはため息混じりに答える。


「実はさ、何で捕まったかわかんないんだよね。オイラ、何か悪い事したのかな?」

「そっか。悪い事はしてないんだね」

「そうだな。オイラ悪い事してないんだけど、そんな事言っても誰も信じなくてさ……」


 両肩を落としため息をこぼすフォンは、冷たい壁に凭れこみ汚い天井を見上げる。檻の向かいに居るカインも、壁に凭れると小さな声で笑う。


「ふふふっ」

「何だよ。急に笑い出してさ」

「何でもないよ……」


 そう言いながらも笑い続けるカインに、呆れるフォンの口からは自然と笑い声が溢れ出ていた。その後、暫く笑い続けたフォンとカインは、なぜか色んな話で盛り上がっていた。それは、フォンとカインが似たような性格だったからだろう。


「それでさ、今はティルと一緒にミーファのボディーガードをやってるんだよね」

「いいな〜。それで、二人はどうなったのかな?」

「う〜ん。多分、ティルがいるから大丈夫だと思うな。それより、何か着るもん無いか?」


 背中を丸め体を小刻みに震わせるフォンに、カインは自分の着ていたコートを脱ぎフォンに差し出す。大分、着古されたコートを受け取ったフォンは、嬉しそうに笑みを浮べながらコートを着る。

 そんなフォンの表情に、カインも嬉しそうに微笑む。その時、鉄の擦れる音と重い足音が響いてくる。その足音のする方に体を向けたカインは、軽く会釈し微笑みながら声を掛ける。


「どうしました? ワノールさんがこんな所に来るなんて珍しいですね」

「お前こそ、ここで何をしているんだ?」

「僕はお喋りですよ」


 鋭く睨み付けるワノールに対し、ニコヤカに微笑むカイン。暫く二人の我慢比べが続くが、最終的にワノールの方がゆっくり息を吐きながら目を逸らした。

 檻の中でそれを見ているフォンは、不貞腐れた表情をしている。そのフォンの視線に気付いたワノールは嫌味の篭った声で言う。


「右足はどうだ? まぁ、どうせ処刑されるんだから関係ないがな」


 そのワノールの言葉に反応したのはカインだった。なぜか、驚いた表情を見せるカインはワノールに問いかける。


「ど、どうして、処刑されちゃうんですか! 彼は、何にもしてないし良い人じゃないですか」

「お前も分かっているはずだ。こいつは獣人だ。お前は、甘過ぎるぞ」

「で、でも……」


 あくまで冷たい言葉遣いのワノールの言葉にカインは口ごもる。そんなカインの態度に、ワノールはさらに言葉を続ける。


「お前は黒き十字架の副隊長だ。獣人になど心を動かされるな」


 そう言って立ち去ろうとワノールはカインに背を向ける。そのワノールに冷たい視線を送るフォンは、小声でブチブチと文句を言う。だが、その声は小さ過ぎてワノールとカインには聞こえていない。

 俯くカインは悔しそうに下唇をかみ締める。ワノールの足音は遠ざかっていき、姿が見えなくなるとカインは顔を上げてアッカンべーっと舌を出す。そして、カインはフォンの方を見て言う。


「ブツブツと、何言ってるの?」

「オイラ、あいつ嫌いだ。何かと獣人の事悪く言うから」

「ワノールさんは、本当は優しい人なんだよ。ただ、獣人とは昔色々あったらしくてさ……」


 カインはそう言って微笑みかける。その後も暫くフォンとカインは会話を楽しんでいた。

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