第37回 馬鹿!
アルバー王国の都市 ディバスターに向って歩き続けるティルとミーファは、かれこれ一週間は歩き通している。
山を越え、つり橋を渡り、時には絶壁の側を歩き、二人はようやく中間地点の町へと辿り着いた。名前の無い町は、静かで活気など欠片も無い。どの家も草臥れ、嵐が来たら全て吹き飛ばされるんじゃないかと思わせる。
そんな町の様子を伺うティルは、渋い表情で腕組みをしている。そして、町に入ろうとするミーファに向ってボソッと言う。
「さて、行くか」
「エッ!?」
その言葉に耳を疑うミーファは、ティルの方を見る。だが、ティルはボロボロのコートを風になびかせながら歩き出す。信じられないという表情を見せるミーファは、駆け出しティルの横に並び問いかける。
「どうして、町があるのに休まないのよ! 宿にだって泊まれる位のお金は持ってるのに!」
「お金の問題じゃないんだよ」
必死に講義するミーファに、静かにそう言ったティルの表情は少し暗かった。それでも、納得のいかないミーファは更なる追求を。
「お金の問題じゃないなら、何の問題なのよ!」
その言葉に深いため息を吐くティルに、少々イラッとするミーファ。そんなミーファに、ティルは少し寂しげな瞳で言う。
「あの町は、税金が納められない程貧しい。俺達があの町に泊ると、あの町の人達は更に苦しむ事になる。だから、この町には寄らない。それに、早くディバスターに着けばフカフカのベッドのある宿で眠れる。お前も、その方がいいだろ?」
「そうだけどさ……」
ティルの言葉に俯きながらそう答えるミーファ。確かにディバスターに着けば良い宿に宿泊できるかもしれないが、果たして今のお金で足りるんだろうかと、不安が募るミーファだった。
少々気落ちするミーファに、今度はティルが深刻そうな声で問いかける。
「なぁ、本当にディバスターにフォンは居るのか?」
その問いにミーファは腕を組みながら少し悩む。一体、何を悩んでいるのか分からないティルは、ミーファに疑いの目を向ける。そんなティルの視線に気付いたのか、ミーファが焦りながら笑みを作り答える。
「居るよ。居るに決まってるじゃない。もしかして、私の事信用してないとか?」
こんな状況でも笑っているミーファに、ティルは怒りを覚えその怒りがつい言葉に出てしまう。
「よくそんな風に笑っていられるな。大体、どうして黒き十字架がディバスターに向ったと分かるんだ? 都市に本拠地があるからとか、言うんじゃないだろうな?」
その言葉にミーファは深く傷つき足を止める。ティルも少し離れた位置で足を止める。周りには何も無いため、ただ風だけが砂埃を巻き上げて吹き抜ける。沈黙が続き、ミーファの右目から薄らと涙が流れる。その途端、涙が止め処無く溢れ出し、ミーファは両手で顔を覆う。だが、ティルは何も言わずただ、泣き崩れるミーファを見ているだけだった。
暫く黙って見ていたティルは、ミーファに背を向け低い声で呟く。
「行くぞ。時間が無いんだ」
冷たい態度のティルは、そう言い歩き出す。遠ざかってゆくティルの足音に、ミーファは思いっきり叫ぶ。
「私だって! フォンの事が心配だよ! でも、私まで深刻そうにしてたら、フォンを助ける希望が持てないじゃない!」
だが、ティルは振り向きもせずに歩き続ける。そんなティルに向って、ミーファは更に大きな声で叫ぶ。
「ティルの馬鹿ーッ!」
涙を右手で拭い、ミーファは走ってティルを抜き去ってゆく。そのミーファの後姿を見ながら、ティルはふと昔を思い出し、ゆっくりと微笑む。そして、前を歩むミーファに追いつき、照れくさそうに静かに言う。
「さっきは……、俺も言い過ぎた」
「俺もって、何よ。まるで、私も悪かったみたいな言い方しちゃって」
「なっ! お前――」
ソッポを向くミーファは早足でティルとの距離を取る。自分は悪くないと言わんばかりの態度に、ティルは呆れて言葉を失った。
この度、総アクセス数が400人を超え、嬉しい事この上なしです。
連載開始当初は、全くと言うほどアクセス数が無かったものの、流石に37話まで来ると400を超えるんだと、驚きを隠せません。
最近、更新が遅れておりますがなるべく、一日一話を目標に更新していきたいと努力しております。
それでは、ご愛読してくださる皆様、今まで読んでくださりありがとうございます。
そして、まだまだ続くこの作品をこれからも、よろしくお願いいたします。