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第36回 残された跡

 互いに強い思いを抱きながら武器を握る、ティルと眼帯をした男。今までに感じたことの無い威圧感に、押しつぶされそうになりながらも、ティルは真っ直ぐ眼帯をした男を見据える。

 大地を蹴り眼帯をした男に棍を振るう。風を切る音に少し遅れ、しなった棍が眼帯をした男に襲い掛かる。だが、眼帯をした男は表情を変えずに、剣でティルの振るう棍を受け止める。鈍い音色は何度も辺りに轟く。


「諦めろ。人間では我ら烈鬼族には敵わん」


 剣を構える事無く、地面に這い蹲るティルを見下し眼帯をした男はそう言う。幾度と無く眼帯をした男に、棍を振ったが一発も与える事無く弾き返されるティルは、もう立ち上がる気力さえない。それでも、立ち上がろうとするが腕は重く、足は動かない。


「グウウッ。烈鬼族が……何だと言うんだ……」


 身を震わせながらも立ち上がったティルは、そう言って眼帯をした男を睨み付ける。流石に驚きを見せる眼帯をした男は、ティルに興味を示しつつあった。


「人間のわりに中々の根性だ。名前を聞いて置こう」

「人に……名前を聞く時は……、自分から名乗るのが……礼儀だ……」


 フラフラの状態でも、強気の姿勢を崩さないティル。それに対し、ますます興味を示す眼帯をした男は口元に笑みを浮かべて言う。


「そうだったな。俺は黒き十字架、総隊長 ワノール=アリーガ」

「やっぱり、あんたが黒き十字架の隊長か……」

「俺は名を名乗った。次はお前の番だ」

「そうだな。俺は、ティル=ウォースだ……」


 ティルが名を名乗ると同時に、ワノールは剣を構える。右手を引き左手を刃の側面に添え、そのまま地を蹴りティルに向かって行く。フォン程では無いが人間離れした瞬発力で、ティルとの間合いを詰める。歯を食い縛りティルは思いっきり棍を振り抜く。と、同時に右肩に激しい衝撃と凄まじい痛みを伴い、鈍い音だけが耳に残る。



 まだぬかるむ地面の上に仰向けに横たわり動く事の出来ないティル。着ている服の右肩部分は赤く染まり、刺し傷が痛々しく残っている。周りは静まり返り、フォンの姿も黒き十字架の姿も無い。あるのは馬の蹄の跡と破壊された木の家の破片くらいだ。

 茂みに隠れていたミーファは、ティルの側に歩み寄りそっと声を掛ける。


「だい…じょうぶ?」

「ああ……。大丈夫だ……」


 そう言うとティルは左手で顔を押さえる。ティルの表情は見る事は出来ないが、手の間から薄らとこぼれる透明な液体が、涙である事はミーファにもわかった。だから、そっとして置く事にした。微かにざわめく木々の葉の擦れる音だけが、ティルとミーファを包み込んでいる。

 一通り涙を流し終えたティルは、目を擦り体を起こす。右肩にはまだ痛みが残り、動かす事も出来ない。そんなティルにミーファが声を掛ける。


「これから、どうしよう」

「あいつを助ける」


 力強い声でティルはそう言い、棍をボックスへと戻す。そして、服を脱ぎ止血を済ませ、荷物を持つと早速走り出す。そんなティルにミーファが言葉を放つ。


「ちょっと待って! ティル」


 呼び止められたティルは、立ち止まり振り替える。その表情は少し苛立っているようだ。ワノールに負けたのが悔しかったのか、フォンを助ける事が出来なかった事を悔やんでいるのか、わからないがとても表情は暗い。それでも、瞳には闘志が漲っている。


「こんな所で、時間を潰している暇は無い。奴らは馬に乗っているんだ、早く追いつかないと、フォンが処刑される」


 低い声でそう言いミーファを軽く睨む。ぬかるむ道を歩みティルに近付くミーファは、ゆっくりと口を開く。木々のざわめきは一瞬で収まり、二人を見守るようにしている。


「大丈夫。フォンが処刑されるまで二週間程、時間がかかるわ。それに、黒き十字架が何処に向ったかも分かってる。ここは、焦らず作戦を練りながら行きましょう」


 落ち着いた様子で笑みを浮かべるミーファの放った、何の根拠も無い言葉にティルは少々怒りを覚えるが、口には出さない。そして、深呼吸を繰り返し心を静める。

 笑顔をティルに向けるミーファは、深呼吸を終えたティルに話しかける。


「これで、落ち着いた?」

「あぁ。もう、大丈夫だ。それで、黒き十字架は何処に向ってるんだ?」

「アルバー王国の都市、ディバスターよ」


 人差し指を立てて自信満々にそう言うミーファ。一方、ティルはその言葉を聞きある事を思い出した。それは、ディバスターには黒き十字架の本拠地があると言う事だ。その事にティルはため息を吐いた。

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