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第35回 敗れるフォン

 振り出される刃をかわしつつ、棍で鋭い突きを浴びせていくティルは、一通り黒き十字架の面々を地面に這い蹲らせていた。腹を押さえる者、膝を抱えて蹲っている者、うつ伏せに倒れたまま動かない者、白目を向き口から泡を吹いている者、様々な形で苦しむ男達。その中心で棍を地面に突き立て一息つくティルは、フォンと眼帯をした男の方を見た。

 フォンがコートを脱ぎ捨て、眼帯をした男がフォンから距離をとり何かを言うと口元に笑みを浮べる。結構、二人との距離が離れているため、ティルには眼帯をした男が何と言ったのか分からない。そんな中、フォンが左足を引き口を動かす。何か言葉を口にしている様だが、ティルには全く持って聞こえていない。その直後、眼帯をした男の声が微かにだがティルの耳に聞こえた。


「……獣人が何を馬鹿な事を!」


 その言葉が聞こえたかと思うと、もう一度フォンの口が動き出す。そして、もう一度眼帯をした男の声が微かに聞こえた。


「黙れ! ……言葉を使うな!」


 その言葉と同時に眼帯をした男が、フォンに向って走り出す。そして、少し間を置いてフォンが眼帯をした男に向かっていく。一瞬でフォンが眼帯をした男の前に移動し、眼帯をした男がフォンに向って剣を振り抜く。その瞬間、フォンが高く飛び上がり眼帯をした男の頭上を越えると、空中で眼帯をした男の両肩を蹴り飛ばす。一瞬にして眼帯をした男の体が木の床に崩れ落ち動かない。フォンは走りながらチラッと眼帯をした男を確認してすぐに前を向く。

 その時、眼帯をした男が上体を捻り、黒い刃の剣を持った右腕を引く。何かをしようとしていると直感したティルは、この事をフォンに伝えようと大声で叫ぶ。


「フォン! 後ろだ!」


 ティルの声に気付いたフォンに、眼帯をした男が剣を投げる。音も無く宙を飛ぶ黒き刃は、鈍い音を起てフォンの右太股に突き刺さる。血がズボンを真っ赤に染め、ズボンの裾からも血が流れ出していた。


「グッ……」


 苦痛に顔を歪めるフォンは、右膝を木の床に落とす。右足は痙攣し力が入らず、立つ事も出来ない。そのフォンの背後で、眼帯をした男の声が響く。


「獣人が戦いから逃げるのか……」

「お……オイラは、無駄な戦いをしたくないだけだ……」

「お前達獣人にとっては、無駄な戦いだろうが、俺にとっては無駄な戦いじゃない!」


 怒りに身を震わせる眼帯をした男は、フォンの右太股に刺さる剣を抜く。剣を抜かれると、今まで栓のされていた血が、勢い良く溢れ出しフォンの周りを血の池と化す。

 まだ、フォンの血が付着する黒い刃の先からは、点々と血が滴れる。雨もいつしか上がり灰色の雲の隙間から日の光が差し込んでいる。


「俺は、ここでお前を殺したいが――」


 眼帯をした男はそこまで言って、黒き刃を振り抜く。鈍い音と共に木の床が割れ、その音が辺りに響く。それと同時に、眼帯をした男がゆっくりと口を開く。


「人間が獣人を庇うのか……」


 怒りの込められた言葉の先には、棍で剣とぶつかり会うティルの姿があった。圧倒する眼帯をした男の威圧感が、ティルの全身を覆いつくす。体中に感じる男の威圧感から、勝ち目が無いとわかっている。それでも、ティルは引き下がりはしない。


「獣人を庇うんじゃない。仲間であるフォンと言う男を庇うんだ」


 この言葉に、眼帯をした男は薄ら笑い、ティルの体を弾き返す。背中から段差のある地面の上に転げると、素早く立ち上がり棍を構えなおす。両者の武器は激しくぶつかったのにも関らず、傷一つ付いていない。


「フッ……。人間はいつから、獣人と仲良くなったんだ?」

「獣人と仲良くなったんじゃない。一人の人として奴を仲間と認めた」

「人……か。この化物が人だと言えるのか!」


 怒鳴り散らす眼帯をした男の鋭い目に、怯む事無くティルも睨み返す。この時、フォンは意識を失い、ティルの言葉など聞こえてはいなかった。

 またしても、更新が遅れてしまいました。最近、書くペースが遅く、全く持って更新する事が出来ません。愛読する方々には申し訳ないのですが、更新が遅れてしまう事をお許しください。

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