表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/100

第33回 黒き十字架との戦い

 銃を右手に持ったままのティルは黒き十字架の面々を見る。何やら迫力のある雰囲気を漂わせる先頭の眼帯をした男は、馬をとめると破壊された家の前に蹲るフォンとその前に立つ魔獣に目をやる。

 刃物の様な腕と強靭な脚、鋭い目付きにガッチリとした体格。その魔獣を一目見て、眼帯をした男がゆっくりと馬から降りる。他の者達は馬に跨ったまま、その男の行動を見据えていた。

 膝をつき立つ事の出来ずにいるフォンの視点は揺らぎ、自分の今の体勢を維持するだけでも苦痛を伴う。そんなフォンをあざ笑うかの様に、目の前の魔獣がゆっくりと歩み寄る。魔獣が歩くたびに木の床が軋み、まだ、点々と降り注ぐ雨音と混ざり合う。


「ジュゥゥゥゥゥッ」


 喉を鳴らす魔獣は一歩また一歩とフォンに歩み寄る。なんとか立ち上がろうと試みるフォンだが、足が言う事を利かない。そんなフォンの前に足を止めた魔獣は、右腕を天高く振り上げ未だに動く事の出来ないフォンを見下ろす。


「ジュゥゥゥゥゥッ!」


 フォンに死ねと言うかの様に声を上げた魔獣は、勢い良く右腕を振り下ろす。

 その刹那、黒き刃がフォンの頭上を素早く過ぎ、辺りに響き渡る綺麗な音色を奏でる。その後に続くように、少々小声の声が聞こえる。


「こんな所で魔獣に遇うとは……。見回りもいいもんだ」


 フォンと魔獣の丁度間に、黒い刃の剣を握る眼帯をした男の姿がある。顔に傷跡のある男は左目で鋭く魔獣を睨み付ける。その目に臆す魔獣は、力無く数歩後退る。それは、眼帯をした男の威圧感に、魔獣も直感的に気付いたのだろう。

 後退る魔獣に眼帯をした男は、黒い刃の剣を軽く構えながら口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。


「何だ。ビビッちまったのか? 魔獣のくせに臆病な奴だ」

「ジュ! ジュゥゥゥゥゥゥッ!」


 人間の言葉など理解できないはずの魔獣だが、今の態度から馬鹿にされてるとわかったのだろう、勢い良く眼帯をした男に襲い掛かる。右腕を左に左腕を右にと、交互に振り抜く鋭い刃を持つ魔獣の腕は、空を切り緩やかな風を吹かせる一方だ。

 涼しい顔をする眼帯をした男は、鮮やかな身のこなしを魔獣に見せ付ける。そして、魔獣の攻撃が止むその瞬間に、眼帯をした男が一気に間合いを詰める。


「お前の命もここまでだ。一瞬で眠れ」


 眼帯をした男は魔獣にしか聞こえない位の小さな声でそう呟き、黒い刃の剣を心臓目掛けて突き立てる。剣の刃先が魔獣の緑の血と一緒に背中から突き抜ける。痙攣する魔獣の体は、眼帯をした男に覆い被さる形に。


「俺に凭れかかるな!」


 眼帯をした男はそう怒鳴り散らし、魔獣に突き刺したままの剣を勢い良く振り上げる。その瞬間、胸から上半分が見事に真っ二つに割かれ、ゆっくりと背中から地面に崩れ落ちた。ドクドクと流れ出る緑の血は、悪臭を伴いその臭いに表情を引き攣らせるフォンは、ようやく立ち上がる事が出来た。


「ウウッ……。何て悪臭だ……」

「全くだ……」


 フォンの声に相槌をうつ眼帯をした男は、剣に付いた血を綺麗に拭き取り鞘にしまう。



 その頃、眼帯をした男の威圧感に呑まれていたティルとミーファはようやく我に返り、フォンの方を見る。その二人の視線に映ったのは、向かい合うフォンと眼帯をした男の姿だった。何を話しているかティルとミーファには聞き取れないが、嫌な予感がしたティルは大声で叫ぶ。


「フォン! そいつから離れろ!」

「何言ってんだあいつ。何で離れなきゃ――!?」


 ティルの言葉に首を傾げたフォンに向って、鋭い黒き刃が振りぬかれる。反射的に身を翻し刃をかわしたフォンだが、何本かの茶色の髪が宙を舞っている。距離を取り眼帯をした男を睨むフォンに、眼帯をした男が刃先をフォンに向けて言う。


「俺達黒き十字架の仕事は、魔獣及び獣人を始末する事だ」

「待ってくれよ! どうして獣人を――」

「獣人と話す気など無いは!」


 フォンの言葉など聞かず、眼帯をした男は素早く剣を振るう。流れる様な刃がフォンの厚手を掠め、真っ白な綿を撒き散らす。悪戦苦闘するフォンの助太刀に行こうと、銃を棍へと変えたティルだが、その前に数名の黒き十字架の面々が立ち塞がる。


「そこをどけ!」

「人間に様は無い。今すぐここから立ち去れ」

「お前達に様が無くとも、俺には様があるんだ」

「ならば、仕方ない。少々痛い目を見る事になりますよ」


 鎧を着た黒き十字架の面々は剣を鞘から抜き、軽く身構える。ティルの背後に隠れるミーファは、体を小刻みに震わせていた。そんなミーファにティルは小さな声で言う。


「ミーファ。お前は暫く隠れてろ」

「でも……」

「大丈夫だ。こんな連中に俺は負けん。安心してろ」

「わかった。気をつけてね」


 ミーファはそう言って近くの茂みに身を隠す。棍を構えるティルは、ゆっくりと息を吐き男達を睨み付ける。

 更新が遅くなり、申し訳ございません。

 色々と取り込んでおりまして、愛読なさる皆様には申し訳ないと言うしかございません。

 なるべく早く更新できる様に努力しますので、何卒よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ