第30回 火の灯る部屋
古家の床の下に落ちたフォンとティルは、黙り込み静かに時を待つ。上では床の軋む音と走り回るミーファの足音だけが響いている。目を閉じ暗闇に慣らそうとする二人だが、中々目は慣れない。
「こうも暗いと中々目が慣れてこないな」
「みたいだな。しかし、ミーファは一体何をしてるんだ?」
低い声で不満を漏らすティルは、ゆっくりと上を見上げる。軋む床の音に何やら苛立ちを募らせるティルは、ため息を漏らし俯く。暗闇で聞こえるティルのため息に、フォンは顔をあげて声を掛ける。
「なぁ、どうかしたのか?」
「別に……。これから、どうするかを考えていた。全く、あいつは何をしてるんだ!」
「魔獣に襲われてるって事は無いよな?」
冗談でそう言ったフォンだったが、そこに笑いは起こらず何やら不穏な空気が流れ始める。暗闇の中で見えないお互いの顔を、見合わせるフォンとティルは息を呑んだ。耳を澄ますが、床の軋む音と雨の音しか聞こえてこない。
「どうする? ティル」
「どうするも何も、ここから出る事も出来ないんだ」
「そうだな……」
「お前、何も持っていないのか?」
「ンッ? 多分何もないと思うぞ」
ポケットに手を入れたフォンだが、ポケットに入っていたのはただの紙くずだけだ。全く、期待はしていなかったティルは次のアイディアを提供する。
「お前、上まで跳べないか? 瞬発力あるしいけるだろ?」
「う〜ん。無理じゃないか? 瞬発力と跳躍力は別物だぞ」
「役に立たない奴だな」
「自分だってそうだろ」
二人のため息が同時に吐き出される。
そして、最終的に二人の出した答えは――。
「ミーファ! 聞こえるかー!」
「オイラ達を助けてくれー!」
ミーファに助けを求めると言う事だ。しかし、二人の声に全く返事を返してこないミーファ。それどころか、先程まで聞こえていた床の軋む音すら聞こえなくなっていた。何度も叫び続けた二人だったが、すでにミーファに助けを求めるのを諦め、暗闇の中を歩き始めていた。もちろん、手探りだ。
慎重に壁を手で触りながら、ひたすら歩み続けるフォンとティル。何も見えず、ただ互いの足音だけに聞き耳を立てている。
随分と歩き続けた後、奥の方に薄らと光が見えた。二人ははその光を見つけると無我夢中に走り出す。その結果、二人は明るい火の灯った部屋に辿り着いたのだ。
「こんな所に部屋が……」
驚きを隠せないといった感じでティルは部屋をキョロキョロと見回す。部屋のいたる所にランプが点いていて、まるで今まで誰かが住んでいた様な形跡が残っている。だが、この部屋に人の気配は無く不気味なぐらい静かだ。部屋には沢山の本棚が並んでおり、他には何も無い。
フォンとティルは互いに部屋の中を歩き回り探索する。カビの臭いに苦しみながらもフォンは、必死に部屋の中を調べている。そんなフォンに対し、カビの臭いなど全く感じ取っていないティルは、のんびりと本を調べていた。
「なぁ〜。何か見つかったか? オイラの所は何にも無いぞ!」
鼻を摘んでいるフォンの声は、いつもより聞き取り難くティルは少し首を傾げる。だが、すぐに本棚に目を向け、次々と本を手に取って行く。特に気になる本などは無く、二人は机の前で合流した。
「どうだった? 何かあったか?」
「さっき言ったろ。オイラの所は何も無かったって」
「そんな事言ったのか? 俺には何言ってるのか聞き取れなかったが……」
先程のフォンの言葉を思い返すティルだが、やはり何を言っていたか全く分からなかった。カビの臭いに気を失いそうになっているフォンは、机に両手をつくと苦しそうに口で息をする。
そんなフォンの視界に一冊の本が映った。別に他の本と変わった所の無いその本が、何処と無く気になったフォンはゆっくりとその本に右手を伸ばす。その本にはタイトルなど無く、随分古ぼけている感じがする。
「ティル。これ、何だと思う?」
手に取った古ぼけた本をティルに背を向けたまま見せる。そんなフォンに呆れたと言わんばかりの眼差しを送るティルは、ため息交じりの声で返答する。
「お前、それが何だと思う? 本以外の何に見える?」
「ムッ! 本だって事はわかってるさ。一体、どんな内容なんだって聞いただけだろ」
「その位、自分で考えろ」
「言われなくてもそうするさ」
フォンは本を開き内容を読み始めた。
早くも30回を迎えた『クロスワールド』ですが、何と総アクセス数が300人を突破しました。
毎回、物語を更新するたびに読みに来てくださる方が居てくれて、僕も書いていてとても嬉しくなります。
まだまだ、お粗末な文章と表現力ですが精一杯頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします。
何かアドバイスや感想などあれば、気軽にお聞かせください。