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第3回 切れ目の男

 静かで悪臭の漂う村に一人残された男の子は、井戸の側で両膝を抱え蹲っていた。親を失い友達を失い一人ぼっちの男の子は、涙が枯れ目が赤く充血し頬には微かに涙の後が残る。止め処なく出て来る鼻水を啜り、安静にしている男の子は地面を見つめる。

 その頃、この村の出入口に一人の男が居た。茶色のコートを羽織り、背の高い男。顔立ちは大人びており、意外と女の子にキャーキャー言われそうな顔をしているが、切れ目のその目が少しばかり近寄りがたい。漆黒の髪は血の臭いを纏う風にソヨソヨと靡く。

 切れ目の男は村の中に漂う悪臭と、散乱する赤黒くなった血痕を見ながら哀感に思う。暫し村の様子を窺う切れ目の男は、井戸の側で蹲る男の子に気付きゆったりとした足取りで歩み寄り言葉を掛ける。


「オイ、小僧。ここで何があった」


 少し低い声で切れ目の男が訊く。男の子は切れ目の男の顔を見上げるが、日の光で顔がよく見えない為、声を出さずに切れ目の男をジッと見つめる。切れ目の男は一向に返事がないので、もう一度男の子に向って言葉を掛ける。


「もう一度言う。ここで何があった」

「あんたは……」

「質問してるのは俺だ」


 男の子を威喝する切れ目の男は鋭い目付きで睨む。切れ目の男の声に驚いた男の子は、怯える様に目を背け下唇を震わせながら言う。


「き、昨日、化物に……」

「そうか。昨日か。一歩遅かったか」


 ボソッとそう呟くと右手を顎に添え考え込む切れ目の男は、黙って男の子を見据える。



 その頃、森の中ではフォンが化物達に囲まれていた。木々の間から厳つい顔を見せる化物達はジリジリとフォンと間合いを詰め、逃げ道など何処にも無く、フォンは化物達と睨み合う。


「結構な数いる様で……」

「ガアアアアッ」


 化物達は鋭い爪で地面を確りと掴み、ジリジリと間合いを詰めていく。厚着で動き難そうなフォンは化物達を見ながら苦笑いを浮べる。化物達の牙から垂れる涎は地面を湿らせ、足場を悪くする。予想外の事態に思わずフォンは声を漏らす。


「さて、こんなに多いとは……。予想外だな……」

「ウガアアアアッ!」


 迫力のある雄叫びと同時に、化物達が鋭い爪で地面を蹴りフォンに襲い掛かってくる。鋭い爪と牙を紙一重でかわすフォンは、動きについて行くのがやっとで、何とか反撃するチャンスを窺っていた。一向におさまる事のない化物の攻撃に、


「こう多くっちゃいくらオイラでも、ちょっとまずいかな」


と、のん気な口調で呟くフォンの頬を、化物の爪が掠めた。真っ赤な血が、少量飛び散り地面に落ちる。新鮮な血の臭いに、化物達の動きが止まり、奥から巨体の化物が現われた。鋭く鋭利な爪と、口から剥き出しになった牙に、背中についた大きな鶏冠。他の化物とは比べ物にならない大きさだ。


「こいつが親玉かな」


 そいつを見てフォンは呟き、少々表情を引き攣らせる。鋭い眼球で化物はフォンを睨み、明らかに威嚇している。そんな威嚇に、臆す事も無くフォンは、


「オイラ、あんたの首が欲しいんだよね。う〜ん。言葉通じてるかな?」


と、馬鹿にする様に言い首を傾げてから化物を見る。ジリジリと間合いを詰める巨体の化物の牙から大量の涎が垂れ、地面が湿りやわらかくなる。緊迫した空気に誰も動かず、フォンも巨体の化物と相対する。化物達に囲まれていると言う事もあり、自分から動くと色々と面倒だった。


「さて、この状況をどうしたものか……」


 ボヤキながらフォンは周りをチラチラ確認する。

 その瞬間、巨体の化物が力強くに地を蹴った。鋭い牙がフォンの右肩に襲い掛かるが、とっさに体を捻り化物の牙をかわしたフォンは、かわし際に化物の体を一発殴った。巨体の化物の体はその衝撃で地面に横転するがすぐに起き上がり、フォンを威嚇する。


「グガガガガッ」

「オッ。怒ってる」


 少し楽しそうな表情でそう言うフォンに、体勢を整えた化物がもう一度襲い来る。素早く身を翻し化物の牙をかわしたフォンは、もう一度化物の体を殴ろうとするが、その瞬間に背中に激痛が走り、フォンは前方に吹き飛ばされた。


「ウグッ……。不意打ちか……」


 背中には大きな爪痕が残っている。厚着のため体まで爪は届かず血は出ていないが、着ているコートは綿が溢れ完全に駄目になっている。巨体の化物はゆっくりとフォンを引っかいた化物の隣に移動して、不適に笑みを浮べる。と、言うよりフォンには笑みを浮べた様に見えたのだ。


「卑怯な奴等だな……。っても、言葉伝わってないんだろうけど……」


 呆れ顔で着ていたコートを脱ぎ捨てて、フォンは薄着になり軽く準備運動をする。とくに足を重点的に解し、軽く首の骨を鳴らす。

 そして、残念そうな表情をしながら言う。


「戦うのってあんまり好きじゃないけど、これ以上悪さされると困る人達が居るんで、ここは本気で行くからな」


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