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第28回 雨の中の一軒の家

 この所止まる事無く降り注ぐ雨にうたれながら、何も無い平地を進む三人。空は灰色の雲に覆われ日の光さえ差し込まない。そのため、辺りは昼間だと言うのに薄暗く、殆ど夜と変わらない。

 雨でぬかるんだ足場は三人の進むペースを遅らせ、ジワジワと体力だけを消耗させる。靴の裏に付く大量の泥は、鉛の様に重い。


「なぁ、この近くに町は無いのか?」

「そうよ。このまま歩いて、近くに町が無かったら雨の中歩く意味ないわよ」


 フォンとミーファは先頭を歩くティルに訊くが、地図を見たままティルは黙っている。暫く沈黙が続き、ティルが首を横に振りながら答えた。


「駄目だ。この近くに町など無い」

「そんなぁ。それじゃあ、私達何の為に歩いてきたのよ!」


 不満そうな表情でそう言うミーファは気を落し、ティルと一緒に完全に暗い雰囲気に陥った。雨が降っているためただでさえ暗いのに、こうも気分が沈んでいると余計暗く感じる。


「まぁ、そんなに落ち込まなくても、その内……!?」


 最後尾を歩むフォンが二人を励まそうと声を掛けた瞬間、その視線の先に一軒の木の家を発見した。だが、目の錯覚かもしれないと両手で目を擦りもう一度確認するが、やはりその視線の先には木の家がはっきりと確認出来る。

 家を発見したと伝えるため、フォンは木の家を指差したまま二人の名前を呼ぶ。


「ティル! ミーファ! あれ!」

「なぁ〜に?」「うるさいぞフォン」


 暗い表情で二人はフォンの指差す先を見る。その瞬間、二人の目にもその家が映った。先程まで暗かった雰囲気は、パッと明るくなりティルとミーファは一目散に走り出す。靴にこびり付いた泥の重さなど感じさせぬ程のスピードの二人に、唖然とするフォンは我に返り二人に叫ぶ。


「ちょ! ちょっと待て! 第一発見者のオイラを置き去りか!」


 そんなフォンの言葉は雨の音で聞こえなかったのか、はたまた聞こえているが無視しているのか分からないが、ティルとミーファは立ち止まらず返事も返さない。そんな二人に更に唖然とするフォンは、がっくりと肩を落し俯きながらゆっくりと歩みだす。



「すみませ〜ん」


 雨でびしょ濡れのミーファが、家のドアをノックしながら訪ねる。だが、家の中は明かりが点いておらず、全く人の気配が無い。振り返るミーファはティルに向って首を横に振る。


「駄目。誰も出て来ないわ」

「と、言う事は空家。あるいは……」


 少し表情を曇らせるティルは雨で濡れた前髪を掻き揚げる。その後ではパンパンパンと、フォンが靴に付いた泥を叩いていた。暫くその音と雨の音だけが三人の事を包み込む。額から薄らと汗が流れるティルは、恐る恐るドアノブに手を掛けた。

 その時、背後でフォンが甲高い悲鳴に近い声を上げる。


「アァァァァァッ!」

「な、ななななんだ! どうした!」


 驚き飛び上がったティルとミーファは、引きつった表情でフォンの方を見る。そのフォンは背中を丸めて木の柱に体を預けたまま膝を抱え込み、放心状態になっている。何があったのか分からないティルは、フォンの肩を揺すりながら訊く。


「どうした! 魔獣でも出たのか!」

「エッ、魔獣!? そんな筈……」


 ティルの言葉にミーファが少し驚いた表情をする。そんな二人に放心状態のフォンがゆっくりと口を開く。


「オイラの……靴が……」

「お前の靴がどうしたんだ!」

「ンッ? 靴?」


 フォンの言葉に妙な疑問を感じたミーファは、フォンの横に置かれた靴に目をやる。靴の裏に付いた泥は完全に落ちているが、その靴の裏は大きな穴が開いている。


「オイラの靴に穴が……」

「はぁ……?」


 口をあんぐりと開け呆れ返るティルは、腹の底から怒りが煮えたぎってくる。そして、その怒りは一気に爆発された。座り込むフォンの後頭部を右足の裏で思いっきり足蹴にすると、フォンは顔から泥だらけの道に向って倒れこんだ。

 顔を突っ込んだまま暫し固まったフォンは、体を小刻みに震わせながらゆっくりと顔を上げる。その瞬間、ミーファが叫ぶ。


「あーっ! 二人とも喧嘩なんてやめよう! 見っとも無いしやるだけ無駄よ」

「アハハハハッ」


 顔中泥だらけのフォンは、笑いながら振り返る。自分の予想と違った反応を示すフォンに、ミーファは驚きを隠せないでいる。もちろんそれは、ティルも同じだった。何故、頭をけったのに笑っているのか全く分からなかった。唖然とする二人にフォンが顔の泥を払いながら言う。


「何だ? 二人ともびっくりしたか? フフフフフッ。オイラのちょっとしたジョークさ」


 自慢そうな表情をして、穴の開いた靴を履きティルの肩を叩く。そして、そのまま横を通り過ぎ、ドアノブを握り笑いながら言葉を続ける。


「ティルとミーファが怖がってたからさ、ちょっと楽にしてやろうと思ってさ。ニシシシシッ」

「お前な……。って言うか、俺は別に怖がってた訳じゃないぞ。人の家だから躊躇ってただけだ」

「そうよ。私だって全然」


 強気に胸を張る二人を疑いの眼差しで見るフォンは、ニヤニヤしながらそのままドアを開きながら言う。


「そんな事言って、オイラが叫んだ時飛び上がってたぞ――!?」


 フォンが家に入るなり、何かに躓き激しく横転。その光景に二人は呆れながら、ドアの外からフォンに声を掛ける。


「大丈夫? ちゃんと足元確認してから入らなきゃ」

「全くどこ見て歩いてんだか」

「ウウッ……。だいじょ…う……ぶワアアアアアッ!」


 顔色を変え急に悲鳴を上げたフォンは、飛び起きて一瞬にして家の外に飛び出した。木の柱に掴まりブルブルと震えるフォンの姿に、ティルは中に何か居ると思いボックスを剣に変えた。

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