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第27回 広大な世界

 町を出て数日が経過し、ティルの傷も大分よくなり旅も順調に進む。三人は木々に覆われた急な山道をひたすら真っ直ぐ歩き続ける。方角の分からないフォンにとっては、その道を歩いているだけで不安な気持ちになった。


「なぁ、このまま真っ直ぐ進んで大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思うぞ。地図通りに進んでいるならな」

「地図通りに進んでなかったらどうするんだ?」

「このまま遭難だな」


 地図をジッと見つめながら、軽い口調でそう言うティルにガクッとうな垂れるフォンとミーファだが、ここはティルを信じて進むしかないと足を進める。足場の悪い山道は腰位の高さまで伸びた草が生い茂り、なかなか前に進む事が出来ない。


「ちゃんとした道は無かったの? こんなに雑草だらけの道……」


 少々怒りのこもる声でミーファはそう言う。何かが出てきそうな雰囲気に、体をちぢ込ませるミーファ。そんなミーファの様子に後ろを歩いていたフォンが笑いながら言う。


「ミーファも女の子みたいに怖がったりするんだな」

「当たり前でしょ! 私はか弱い女の子なんだから」

「まぁ、か弱くは無いけどな」


 先頭を歩くティルが地図を見ながらそう言うと、ミーファが頬を膨らましてティルの背中を睨む。自分が睨まれている事に気付く訳も無く、ティルは地図を見ながら歩き続ける。

 そんなこんなで、雑草の生い茂る道を抜けた三人の視界に飛び込んだのは、広大な風景だった。目の前に広がる蒼い空と緑の大地の交わるその先に、薄らと見える紺色の海に見入るフォン。その顔は無邪気な子供の様だ。

 ティルとミーファはそんなフォンの後ろ姿を見ながら、近くの岩の上に腰を据えた。


「なぁ、世界って広いんだな」

「そうね。この世界の大きさに比べたら私達ってちっぽけよね」

「それでさ、あの海の向こうにも国があるのか?」


 ミーファの言葉を無視して、フォンが目を輝かせながらティルとミーファの方を振り返る。自分の言葉を無視され怒りを覚えるミーファだが、フォンの輝く瞳に圧倒され言葉を失う。もちろん、ティルもその一人だ。沈黙する二人に首を傾げたフォンはゆっくりと聞く。


「オイラの話聞いてた?」

「あっ! 聞いてたよ。ねぇ、ティル」

「あ、ああ。聞いてたさ」


 われに返ったティルとミーファは焦りながらそう言う。そんな二人の方に体を向けて腰を下ろしたティルは、子供の様な無邪気な笑顔で二人の顔を見ながら言う。


「それで、ティルとミーファはこの国以外の国に言った事あるのか?」

「そうだな。俺は四大陸とも行った事がある。まぁ、それも随分昔だがな」

「私は、北の大陸グラスター王国の出身だから、この国とグラスター王国以外はまだ行った事ないわ」

「北の大陸か……。それで、ここは何て名前の王国なんだ?」


 笑みを浮べながらフォンがそう言うと、ティルとミーファが呆れたと言わんばかりの表情を見せる。その理由はフォンが自分の生まれた国の名前を知らなかったからだ。右手で頭を抱えるティルは、ため息交じりの声でその問いに答える。


「ここは西の大陸アルバー王国だ。お前、自分の住んでた国の名前位は覚えろよ」

「仕方ないだろ。オイラの村は地図が無かったんだから」


 そう言って大笑いするフォンに、不意にミーファが質問する。


「フォンの村にはどうして地図が無かったの?」


 暫く考えてみるフォンだが、結局巧い事考えがまとまらず取り合えず、思いついた事をミーファに伝える。


「多分、村から抜け出す奴が出ない様にしてたんじゃないかな? オイラの村、森の奥地にあったから」

「ふ〜ん。じゃあ、どうしてフォンは村を出たの?」

「やっぱり、村の外に広がるまだ見た事の無い世界を、自分の目で見たかったからかな。それに、色んな人と出会って獣人は魔獣とは違うんだって、人間に分かってもらいたいからな」


 明るく微笑むフォンの意思の強さに、感心し微笑むミーファ。そんなミーファに少々低く篭った声でティルが言う。


「ミーファは何故、俺とフォンをボディーガードに? 俺はまだしも、檻に捕まる獣人を普通はボディーガードにはしないぞ」

「何だよそれ。オイラが人に好かれないみたいな言い方」


 不満そうな表情のフォンはティルを横目で睨む。だが、ティルはミーファの方をジッと見たまま、答えが返ってくるのを待つ。そんな真剣な表情のティルに、ミーファはクスリと笑いその問いに答えた。


「ピーンと来たの。私の勘があなた達が話してる時に、この二人なら大丈夫だって」

「それで、俺とフォンをボディーガードに選んだと?」

「そうよ。私は運命だと思ってるわよ」

「にわかに信じがたい話だが……」


 そう言いながらティルは、顎を右手で触りながら怪訝そうな表情でミーファを睨む。だが、ミーファは可愛らしく微笑み、嘘を言っている様に思えなかったティルは、ミーファの事を信じようと思う。そのティルに不意打ちの様にフォンが疑問を投げかける。


「なぁ、あの港町であった真っ赤な髪の奴は、ティルに恨みでもあるのか? 凄い殺気を帯びてたけど」


 その言葉に表情を曇らせるティルは、俯き考え込む。ティルが考えていると、今度はミーファが口を開く。


「あの人、ティルが仲間を殺したって言ってたよ。それって、嘘だよね?」

「そうか……。そこまで、聞いたのか……」


 小さな声でそう呟き、何やら悲しげな表情で地面を見つめるティルに、フォンが明るい声で言った。


「オイラは信じてるぞ。ティルが人を殺したりしないって」

「私だって信じてる。でも……」


 後半声が小さすぎてフォンとティルには聞き取れなかったが、何となくミーファが言いたい事はわかっている。だから、ティルはゆっくりと口を開いた。


「いつか……。いつか、お前達には話す。だから、今は何も聞かないでくれ」

「わかった。もう、この話は聞かないわ」


 ミーファがそう言うと、フォンが急に立ち上がり後ろを向き、広がる絶景を見ながら言う。


「さぁ、行こう! そろそろ暖かいベッドの上で寝たいからな」

「そうだな。俺もこれ以上野宿は嫌だからな」

「私も野宿は嫌よ」


 三人は立ち上がりゆっくりと歩き始めた。

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