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第25回 女王蜂との決戦

 風の穏やかな風の山の頂上付近で、女王蜂と対峙するティルの茶色のコートは引き裂かれ、首筋からは真っ赤な血が流れ出している。女王蜂は地面に突き刺さる四本の腕を、抜きぎこちなく首を左右に振りながらティルの事を見る。

 完全に避けたと思っていたティルは、なぜあちこち斬られたのか分からず困惑し、何度も先程のシーンを思い返す。しかし、何度思い返しても相手の攻撃を受けた覚えは無い。


「どうなってる。完全にかわした筈……」


 女王蜂の攻撃に困惑し焦るティルの体は自然と硬くなり、槍の柄を握る手にも力が入っていた。睨み合い膠着が続くが、ティルは自分から攻める事が出来ない。と、言うより女王蜂の攻撃がどう言うものなのか、未だ分からず動くことが出来ないのだ。

 緊迫した空気にティルの息は荒くなりつつあった。この状況で体力を消耗しているからだろう。そして、ティルが呼吸を整えようとした瞬間、女王蜂が一気に襲い掛かる。


「ギャァァァァッ!」

「ぐっ!」


 不意を突かれティルは女王蜂の爪で、右肩から左脇腹までを斬りつけられる。服が裂け血飛沫が舞い、ティルの体が後方に吹き飛び地面に体を引き摺る。真っ赤な血が点々と地面に垂れ、真っ直ぐにティルの方に伸びている。

 胸からは大量の血が流れ、着ている服や茶色のコートを真っ赤に染める。港町での傷口もまだ完治していなかったため、先程の攻撃で傷口が開き血は止まる事なくあふれ出している。まるで、塞き止められていた川の水が一気に流れ出すかの様な勢いで血は出ている。

 意識が朦朧とするティルは、全身から血が抜けて行くのが分かった。もう起き上がる力など残っていない。「これが、死ぬと言う感じなのだろうか」とか、「結局、俺は奴に借りを返せなかった」とか、考えていたティルは雲一つ無い蒼い空を見ながら薄らと笑みを浮かべた。死を確信したのだろう。

 そんなティルの脳裏に、一人の少女の顔が思い浮かんだ。幼く可愛らしい長髪の少女が、可愛らしく微笑む顔が――。その瞬間、ティルは「ここで死ぬ訳にはいかない」と、自分に言い聞かせ、痛みに堪えながらゆっくりと立ち上がった。


「エリス……。お前を見つけ出すまで、俺は死ぬ訳には……」


 立ち上がったティルに、女王蜂が勢い良く突っ込んでくる。立つのがやっとのティルの足元がふらつく。刃傷から流れ出す血は着ている衣類に染込み赤く染め、それでも、止まらない血は足を使って地面まで流れ続ける。

 動く事もままならないティルに向かい、女王蜂は四本の腕を振り下ろす。だが、女王蜂の腕は、ガッと鈍い音を響かせ地面に大量の罅割れを起こす。だが、ティルの姿は一瞬で女王蜂の視界から消えたのだ。


「ジュゥゥゥゥッ?」


 不思議そうに首を傾げた女王蜂の頭上で、カチッカチッと何かの組み合う音が聞こえた。頭上を見上げる女王蜂の目に、銃をボックスに変えるティルの姿が映る。いつの間にか、槍を銃へと変え、地面に発砲し宙に浮いたのだろう。女王蜂の腕が刺さっている地面が、異常なまでにひび割れていたのはそのせいだ。

 真っ赤な血がボタボタと女王蜂の目に落ち、女王蜂の目を晦ませる。薄らと口元に笑みを浮かべたティルは、ボックスをすぐに槍に変えそのまま、女王蜂目掛けて槍を突き立てた。


「ギャァァァァッ!」


 緑色の血が飛び散り地面に広がり、ティルの真っ赤な血に交じり合う。右肩から突き刺された槍は、左横腹から突き出て緑の血を刃先から滴らせる。苦しみ悶える女王蜂は後退していく。地面に座り込むティルは、傷口を右手で押さえ息を荒げながら女王蜂を睨む。このまま、死んでくれと祈りながら。

 それから、暫くして悶えていた女王蜂は地面に倒れ動かなくなった。ティルは痛みに堪えながら立ち上がり、女王蜂の方にフラフラの足取りで近づく。女王蜂の体はビクビクと痙攣しているが、完全に死んでいるのは確認できた。


「くっ……。何とか死なずに済んだな……。まぁ、この傷だと下山する途中で息絶えそうだが……」


 女王蜂の体から槍を抜き、その血をふき取りボックスに戻す。その後、大量の血を流しながら霧花を探すが、何処を探しても花など見つからない。と、言うよりティルは霧花がどんな花なのか全くわかっていなかった。


「霧花って、どんな花何だ……」


 ボヤキながらふと一輪の花が目に付く。まるで、ティルに手招きをするかの様にその花は風に揺れる。その花に引き付けられるティルは、ゆっくりとその花を手に取った。

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