第23回 仲間
日が昇る頃、ティル達はようやく町に辿り着いた。まだ、日が昇り始めたばかりで、どの家も明かりなど点いてなく、静まり返っている。
町は結構大きく、家も木ではなくレンガで出来た家だ。大きな木が町の中央に堂々と立ち、町を見守っている様だ。その町に入ったティルとミーファの息は荒く、疲労も溜まっていた。それでも、二人は病院を探し歩き続け、町の外れにある病院に辿り着く。
必死に扉を叩くティルとミーファ。歩き続けたせいで意識も朦朧としているが、二人は扉を叩き続けた。その結果、中から白ヒゲを生やした医者が出てきた。
「何じゃ? こんな朝早くから……」
眠そうな表情の医者に、ミーファが涙目になりながら答えた。
「彼が毒針に刺されて!」
「毒針じゃと! そりゃ大変じゃ。早速診察してやろう」
「お願いします」
深々と頭を下げたミーファの横を、フォンを担いだティルが通り過ぎる。毒にうなされるフォンは早速、診察室へと連れ込まれ診察される。だが、医者は表情を曇らせ考え込む。それが、何故なのか分からないティルとミーファは不安になりながらも、ただ診察が終わるのを待つ。刻々と過ぎ行く時間が、とても長く感じる二人。
そして、診察が終えて医者が、深刻そうな顔でティルとミーファに言う。
「お前さん達には悪いが、今ある解毒剤ではあやつの毒は消せぬ」
「それじゃあ、フォンは助からないんですか!」
少々取り乱しながらミーファはそう問う。暫しの間が空き、医者は迷いながらも答える。
「助かる方法はあるのじゃが、材料が足りんのじゃ」
「その材料と言うのは?」
いたって冷静なティルが低い声で聞く。やはり暫し間を空ける医者は、眉間に皺をよせる。相当、迷っているのはその表情を見て居れば分かるが、それだけその材料が手に入り難いと言うのも伝わってくる。そして、迷いに迷った末、医者はゆっくりと口を開く。
「この近くの山に生える霧花と言う花じゃ。じゃが、その山は危険で霧花は手に入るか……」
「それで、その山はどこに?」
「その山はこの町から南に行った所にある風の山と言う山じゃ。強風が吹き荒れ到底一日では戻ってこれぬ。それでも、行くのか?」
医者は半ば諦め気味の表情を浮かべながら、ティルの方を見る。そのティルは腕組みをしながら、暫し考え込む。色々と悩んだ末に、ティルは重い口を開く。
「いや。行かない。風の山の噂は知っているし、しくじれば俺まで命を落しかねない。こんな獣人の為に命を張る義理は無い」
「えっ! ティル、本気で言ってるの!」
ティルの言葉に驚きと戸惑いを感じ、ミーファは声を震わせながらそう言う。目元には涙が溜まり今にも零れ落ちそうだ。そんなミーファに冷たい視線を送り、ティルは冷たく突き放す様に言う。
「元々、俺達は赤の他人だ。それに、俺は獣人は嫌いでこいつと旅するのも嫌だった。ここで、死のうが俺には関係ない」
「そんな言い方しなくても! 短い間だったけど、一緒に旅した仲間じゃないの!」
「悪いが俺は宿で休ませてもらう」
ティルはそう言ってミーファに背を向けて、病院を出て行こうとする。そのティルにミーファがついに涙を流しながら言う。
「私やフォンは今まで仲間だと思ってた。なのにどうして!」
「……」
ミーファの声に何の言葉も返さず、ティルは病院を後にする。その場に泣き崩れるミーファの声だけが病院内に響いている。もちろん、その泣き声は病院の出入り口の扉の外に居るティルにも聞こえていた。
ティルは扉に凭れたまま顔を俯け、拳を強く握り締める。握り締めた掌には爪が刺さり血がポタリポタリと地面に落ちる。顔をゆっくりあげて、蒼く澄んだ空を見上げたティルは、目を綴じ深呼吸を三回した後、瞼を開き走り出した。