第21回 自己紹介
荒野に照り渡る日差しを浴びながら、三人は歩き続けていた。
先頭を歩く茶色のコートを羽織ったティルは、何度も立ち止まり持っている地図を確認し、その後ろから日差し避けにフード付きの黒のマントを羽織ったミーファが、額から汗を流しながら必死にティルに着いて行く。女性のミーファには、凹凸で険しい荒野の道のりはやはり辛いのだろう。
そして、最後尾から紺のコートを着てフードを被り、荷物を担いだフォンの姿があった。流石のフォンも、荷物を担いで足場の悪い荒野を歩くのは辛いのか、額から汗を流し息を荒げている。
「ハァ…ハァ……。ウグッ……」
「ペースが落ちてるぞ! フォン」
立ち止まり振り返ったティルが、最後尾にいるフォンを見て叫んだ。その言葉に、急に足を止めたフォンは、持っている荷物を全て地に落とす。その行動に首を傾げるティルとミーファに、フォンが大声で言い放つ。
「何でオイラが荷物持ちなんだ!」
「はぁ?」
「はぁ? じゃない! 自分の荷物位、自分で持て!」
少し興奮気味のフォンに対し、妙に落ち着きのある雰囲気を漂わせるティルとミーファは、顔を見合わせた後、少々めんどくさそうな顔をしながら言う。
「俺、まだ傷が痛むし、ミーファは女だし慣れない道のりだからな」
「一番元気なの、フォンじゃない。それ位、頑張りなさいよ」
「なら、せめてもう少しゆっくり歩けよ!」
「断る」
フォンの言葉に即答したティルは、そのままフォンに背を向け歩き出す。チームワークの無さにミーファは呆れながら歩き出した。一人残されるフォンは、荷物を持ち直し急ぎ足で二人の後を追う。
その後、ティルに追い付いたミーファが、フォンを待とうと必死に説得し、その結果、フォンを待つ事になった。だが、それと同時に野宿する事も決まってしまった。
日の暮れた荒野の真ん中で焚き火の火がユラユラ揺れる。夜になると昼間の暖かさは何処へ行ってしまったのか、冷たい風だけが三人の体を凍えさせる。
「う〜っ。駄目だ……。焚き火の火をもっと強く」
「無理言うな」
「それじゃあ――」
その後も、フォンとティルのやり取りが続く。それを、見ていたミーファはおかしくてしょうが無かった。フォンと一緒は嫌だと言って置きながら、いざ一緒に旅をしてみると、結構仲良く話をしている。それは、フォンが人懐こいせいもあるのだろうと、ミーファは思っていた。
「ねぇ。私達、まだ自己紹介とかまだだよね。一緒に旅するんだから、お互い親睦を深めるって意味で、自己紹介しない?」
「断る」「いいな。やろうやろう!」
ティルとほぼ同時に答えたフォンの声が、ティルの言葉を遮った。ムッとするティルだが、そこは大人らしく我慢する。
そして、暫く間を置いてから、ティルはもう一度口を開いた。
「俺は、お前等の事など……」
「まずは、オイラから自己紹介するぞ!」
またしても、フォンがティルの言葉を遮る。まるで、ワザとやっているかの様に、タイミングよく自分の言葉を遮られ、ティルは怒りに身を震わせるが、奥歯を噛み締め怒りを押さえ込む。
そんなティルを横目に、フォンが笑いながら自己紹介を始める。フォンから始まり、ミーファ、ティルと自己紹介を済ませていった。結局、ティルも何だかんだで自己紹介をしたのだった。
この自己紹介でわかった事は、ティルとミーファがフォンより一つ年上の17歳だと言う事だ。ティルは何と無く年上だと気付いていたが、ミーファがフォンより年上だと言う事には、流石のティルも驚いた。
「人は見た目で判断したら駄目だな」
「そうだな。オイラ、初めて会った時、確実に年下だと思ったからな。身長低いし、胸は無いし、幼児体型って奴だな」
そう言って笑いながらミーファの所を見たフォンの目に映ったのは、鬼の様な形相をしたミーファの姿だった。身の危険を直感で感じ取ったのだろう、フォンは言い訳をしようとしたが、結局言い訳する事も出来ず眠りについた。もちろん、ミーファの強烈な一撃をもらって。
「人が気にしてる事を、ベラベラと」
「気にしてたのか? 幼児体型って事。別に気にする事じゃないんじゃないか?」
「あなたも、フォンの様に眠りにつく?」
「いや。遠慮する。あいにく、まだ寝る訳にはいかないのでな」
不意に立ち上がったティルは腰にぶら下げるボックスを、銃へと変え暗闇に向けて発砲する。その瞬間、ガサガサっと音がして闇の中から蜂の様な化物が現れた。
総アクセス数200人突破! (パチパチパチパチ)
第21回にして、総アクセス数が200人を突破し、嬉しい事この上なしです。愛読する皆様まことにありがとうございます。
まだまだ終わりの見えないこの物語を最後までよろしくお願いします。