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第2回 変わり果てた村

 日の光と妙な臭いで、フォンは目を覚ました。

 少し長めの前髪は微風によって、左右にはためき薄らと輝きを放つ。その一方で、漂う悪臭に微かに顔色を変えるフォンは、欠伸をしながら首の骨をポキポキ鳴らし立ち上がる。変な寝方をしたせいで、節々が妙に痛む。

 立ち上がったフォンは、昨日は無かったはずの地面に突き刺さる鉄の斧に気付き、一考してのんびりとした口調で言う。


「あっれー? 昨日、こんな物あったっけ?」


 腕組みをしながら、昨日の事を思い出すフォンは目眩を起こしその場に座り込む。

 キュルルルッと鳴るお腹を押さえるフォンは、自分が空腹で気を失ったと言う事だけを思い出しため息と同時に安易な言葉を放つ。


「駄目だ〜。お腹が空いた〜」


 両手でお腹を抱えた、フォンは食べ物を譲ってもらえないか、頼む為にフラフラな足取りで村の中に入ろうとした。

 しかし、その村は昨日と変わり果て、家々の窓は割れ扉は破壊され、地面や家の壁には、時間が経過したため赤黒く変色した血と、その悪臭に甚く驚くフォンは訝しいと、思い表情を曇らせる。


「何だよこれ……」


 いたる所から漂う血の生臭い臭いは、フォンの嗅覚を激しく刺激し、意識を失いそうになりる。それでも、フォンは村の中を歩き回る。昨夜、ここで何があったのか探るために。

 人の気配は無く手がかりになるのは、地面や家の壁に出来た、無数の切り痕位のものだ。鋭利な刃物の様なもので裂かれた様なあとは、何処も彼処も平行に三つ並んで出来ており、農具で傷ついたものではない。

 その結果に浮かぬ顔をするフォンはもう一度辺りを見回すが、やはり誰の姿も見えない。


「誰も居ない……って事は……。やっぱり、この血はこの村の人達のかな……。でも――」


 腕組みをしながらブツブツ言いながら村の中央にある井戸の淵に腰を下ろし、暫し考えをまとめる。そんなフォンの頭部に小石が鋭く向って行く。もちろん、フォンはそんな事に気付くはずがなく頭部に小石が直撃する。


「いってぇ〜……。誰だ! 石なんか投げたの!」


 頭を抱えながら立ち上がり振り返ると、幼い男の子がいる。背丈はフォンの腰の位置くらいの男の子は目を真っ赤に充血させ、服は暗紅に染まっている。だが、男の子には無傷で、血は流れていない。

 この村の生存者が居たとホッとするフォンは安堵の表情を見せるが、そんなフォンに向って、鼻の詰まった声で男の子はいきり立つ。


「お母さんを返せ!」


 何の事だか全く分からないフォンは間の抜けた表情で男の子の顔を見る。聊か考え込むフォンに、男の子は更に大声を張り上げる。


「お前が化け物を呼んだんだろ! 村の皆を返せ!」

「――!? ちょっと待て! オイラが化け物を呼んだって?」

「そうだ! そのせいで、村の皆が……」


 充血する目から涙を零す男の子は、地面に膝を付き激しく泣きじゃくる。この村で起こった事を、大体を理解したフォンの心は悼む。

 そして、男の子に何か言葉を掛け様と歩み寄るフォンを、涙で滲む目で睨み付ける男の子が叫ぶ。


「近寄るな! 化物!」

「オイラは化物何か呼んでないし、化物でもない」

「嘘だ! 獣人は化物になるって、お父さんが言ってたんだ!」


 その言葉に戸惑うフォンはとても悲しく胸が痛む。始めから分かっていた事だが、こんな幼い子供まで獣人が化物だと、言い聞かされていると哀感に思う。暫し沈黙が続いた後、フォンは勇ましく声を上げる。


「わかった。オイラが化物達を退治してくる。オイラに出来るのは是位だから……」

「黙れ! 化物の仲間に騙されるか!」


 そんな事を言う男の子に少々困り果てるフォンは頭を掻きながら一考する。どう言えばこの子が信じるのか考えたが、今のフォンの頭では上手く考えが纏まらない。

 そして、何をすれば信じてもらえるか聞く事に。


「う〜ん。それじゃあ、どうすれば信じてくれるんだ?」

「ここで、腹を切れ!」

「それは、出来ん」


 フォンは男の子の言葉にありありと即答すると、腕組みをしながら男の子を見つめる。男の子はムスッとした顔でフォンを睨むが、フォンはそんな事気にする事無く笑いながら言う。


「よし、腹は切れんがその化物の首を切ってくるぞ!」

「お前にそんな事出来るのか? 弱そうなのに」

「相手によるかな。まぁ、それでも何とかなるさ」


 フォンはそう言って明るく笑いながら立ち上がり、勢い込む。


「それじゃあ、行って来るよ。戻ってくるまで隠れてろよ」


 男の子にそう言い放ち、フォンは村の裏手にあるの森に入っていく。

 森の中は陰湿で木々の間から入ってくる日の光は微かなものだ。足元には赤黒い血痕らしきものが、点々と続く。その先にきっと化物が居ると確信し、フォンは軽快に走り出した。森のアチコチから漂う血の生臭さに、フォンは鼻を摘みながらキョロキョロとするフォンは涙目で言う。


「ぐぅ〜っ。だべだ〜。はだがつがえだいど……」(ぐぅ〜っ。駄目だ〜。鼻が使えないと……)


 立ち止まりそう言いながらフォンはため息を漏らす。そんなフォンを森の影から数体の化物が狙っていた。大きな口から剥き出しになった牙の先からドロドロの涎を垂らしながら。

 そんな事など知る由も無く、フォンはのんびりと森の中を彷徨っている。

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