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第19回 素手と剣との戦い

 血の広がる石畳の道で対峙し睨み合うフォンと赤髪の男。剣を持つ赤髪の男に対し、素手のフォンはどうやって戦うか迷う。と、言うよりどうにか、戦わずにこの場を収める手段は無いかと考えているのだが、フォンに考えを纏めている時間は無かった。

 赤髪の男は鬼の様な形相でフォンに向って行くと、素早く刃を振り下ろす。とっさに地を蹴り後方に跳んだフォンの茶色い髪が、パラパラと宙を揺れ落ちる。刃が前髪を掠ったのだろう。

 赤髪の男はすぐさま剣を構え直し、真っ直ぐフォンを睨みつけながら口を開く。


「流石は獣人と言った所か。人並み外れた瞬発力だ」

「ふざけるな! いきなり襲い掛かるなんて卑怯だぞ!」

「卑怯? フハハハハッ。面白いことを言うな。真剣勝負に卑怯などあるか」


 再びフォンに向って剣を振り抜く赤髪の男。剣を持つ手には全く手ごたえは無く、刃が空を切った。剣を振り抜いたままの赤髪の男は、刃をかわして距離をとっているフォンをその眼で確りと捕らえている。

 その後も、気迫の篭る赤髪の男の剣技に逃げる事しか出来ないフォンだが、次第に疲れが見え始めていた。

 大分、時間が経ち赤髪の男は苛立ち奥歯を強く噛み締める。距離をとるフォンを睨み付け赤髪の男は剣を逆手に持ち返す。ティルが斬られる瞬間を見ていたフォンは、赤髪の男がどんな攻撃をするのか、すでに分かりきっていた。


「お前も、これで終わりにしてやるぜ」

「……」


 赤髪の男に聞こえない位小さな声でブツブツと何かを言いながらフォンは、腰を落とし左足を引き全身の力を軽く抜く。すでに怒りでフォンの行動など目に入っていない赤髪の男は、剣の刃で石畳の道を引き摺りながら走り出す。石畳の道に擦れる刃は火花を散らせながらフォンに向って行く。その瞬間にフォンは瞬発力を爆発させ、一瞬で赤髪の男の前に現われた。

 意表を突かれた赤髪の男はすぐに剣を振り上げ様としたが、一瞬で視界が真っ暗になり頭部に激しい痛みを感じると同時に意識が吹き飛んだ。フォンは石畳の上で動かなくなった赤髪の男の顔から右手を放す。赤髪の男の頭部は石畳を砕き、少しめり込んでいる。そんな赤髪の男を見下ろしながらフォンは悲しげな瞳で言う。


「人間同士で傷つけあうなんて、虚しすぎるぞ」


 気を失う赤髪の男にその言葉は届いてはいないが、フォンは何となくすっきりした気持ちになった。

 そして、道に垂れる血痕を辿って走り出す。暫く走るとティルを必死に引き摺りながらも歩くミーファの後姿が見えた。その後、フォンがティルの体を背負い病院まで運んだが、医者がその傷の深さに驚いていた。医者の懸命な処置のおかげで、ティルは一命を取り留めた。

 ついでに、ティルの医療費はあの屋敷に置いて来た筈のお金の入った鞄から支払われたのだ。なぜ、あのお金から払われたかと言うと、実はあの時、ミーファがドサクサに紛れて鞄を取って来たのだ。


「お前って、結構確りしてるな。チャッカリって言うのか? こう言う場合」

「まぁね。これでも、色々苦労してるんだから」

「でも、お金は返した方が良いんじゃないのか? 元々、オイラ達のお金じゃないし……」

「嫌よ。私だって怖い思いしたんだから、是位貰っても罰は当らないわよ」


 胸を張ってそう言うミーファに、多少呆れつつもその度胸に感心するフォンは、新しいフード付きで藍色の厚手のコートを着て背中を丸めている。そんなフォンの姿に不思議そうな顔をしながら言う。


「ねぇ、暑くないの? もうすぐ夏だって言うのにそんなコート着て」

「オイラは、極度の寒がりなんだ。だからさ、コート着てないと辛いんだよね。流石に真夏には着ないけどね」

「そうなんだ。もしかして、獣人は皆寒がりなの?」

「違うと思うぞ。オイラは皆より変わってるみたいだから」


 そう言って笑うフォンに、なぜかミーファも笑いが込上げて来る。笑いながら人ごみを歩む二人は少々周りから冷たい視線で見られたが、そんな事気にせずティルの入院する病院に行く。

 二人が病院に入ると看護婦が何やら慌しく廊下を走り抜けていく。何と無くその原因に心当たりのあるフォンとミーファはため息を吐き、足取り重くその部屋に向う。


「もう、大丈夫だ。傷は治った」

「そんな訳無いでしょ! あんなに深い傷だったんですよ! 三日で治る訳ないでしょ!」

「大丈夫だ。自分の体は自分がよく分かっている!」

「駄目です! あんまりワガママ言うと、麻酔打ち込みますよ!」


 看護婦がそう言って大きな注射器を見せる。その注射器の注射針の先端が鋭く光りその瞬間に、ティルの顔色が真っ青になり急に大人しくなった。その現場を目撃したフォンとミーファは、看護婦のティルの扱いに苦笑いを浮べるしかなかった。


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