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第18回 ティルの敗北

 屋敷の庭には冷たい夜風に吹かれるティルと真っ赤な髪の男の姿があった。真っ赤な髪の男の持つ片刃の剣は、電灯の光りを浴び不気味に輝きを放つ。ティルは剣を低く構えたまま、真っ赤な髪の男が動き出すのを待つ。

 息が詰まりそうな睨み合いが続き、両者の気迫だけがぶつかり合う。長い間沈黙が続いていたが、ついにその均衡は破られた。ほぼ同時に飛び出すティルと真っ赤な髪の男は激しく剣をぶつけ合う。その瞬間に凄まじい風が起き、地面に落ちる微量の土埃を舞い上がらせる。刃と刃のぶつかり合う音は屋敷内にも聞こえてくる。それは、屋敷の中が静かなためだろう。


「ティルの奴、大丈夫かな?」


 フォンはそう呟きながら一階の部屋を片っ端から見て回っている。

 何度もぶつかり合うティルと真っ赤な髪の男の剣は、未だに相手を傷つけることは出来ない。だが、連戦で疲れの見えるティルはすでに息があがり、手に持つ剣がいつも以上に重く感じる。


「ハァ…ハァ……」

「息が荒いな。流石に連戦は辛いか?」

「だ…黙れ」

「そうか。それじゃあ、すぐに終らせようか」


 剣を逆手に持ち替えると、腰を落としてからティルを睨み付ける。この構えをティルは何度も防いで来たが、今回は防げる気がしなかった。それは、疲れもあるがそれ以上に、男の気迫がいつもと違う気がしたからだ。


「今日の俺は乗りに乗ってるぜ」

「フッ…。毎回……そのセリフを言ってるぞ……」

「このセリフを聞くのは、今日で最後だ」

「そ…それも、毎回…聞いてるぞ……」


 いつに無く強気に笑みを浮べながらティルはそう言う。逆手に持つ剣の刃が、数回石畳の地面に触れる。透通る様な鉄の音がティルの頭の中に響き、その音が響くたびにティルの視点はブレ、目の前の真っ赤な髪の男が何人にも見える。首を横に振り視点を合わせようとするティルに、真っ赤な髪の男がゆっくりと口を開く。


「どうした。フラフラしてるぞ」

「黙れ……。やるならさっさとやれ……」

「そうだな。お前をさっさと地獄に送ってやるぜ」


 石畳の地面に剣の刃を付けたまま、ティルに向って真っ赤な髪の男は走り出す。地面に擦れる剣の刃の音がティルに近付く。ブレる視点で必死に男を探すが、結局男を見つける事は出来なかった。地面を引き摺る剣の刃を勢いよく振り上げると、火の粉が舞い刃と共にティルに襲い掛かる。

 右下から突き上げられた刃が、ティルの体を激しく切りつけ舞い上がる火の粉が服を燃やす。深々と斬り付けられたティルの体からは血が吹き出て、そのまま後方に力無く吹き飛ぶ。冷たい石畳の道に倒れるティルの胸の刃傷にんじょうから溢れる血は止まらず、辺りを真っ赤な湖と化す。

 殆ど虫の息で横たわるティルに、真っ赤な髪の男が歩み寄り剣の刃を向ける。霞む視線に移る真っ赤な髪の男の剣に、薄らと笑みを浮べる。それが、真っ赤な髪の男には耐え切れない程の嫌味に感じる。


「何故、命乞いをしない! 何故、この状況で笑える!」

「……」


 その問いにティルは答えない。と、言うよりもう声を出す力すら残っていないのだろう。そのティルに向って真っ赤な髪の男は剣を突き立てた。だが、剣は空振り石畳の地面に突き刺さる。驚く男の耳に幼い男の声と可愛らしい女の声が聞こえた。


「ギリギリセーフだ……」

「フォン! 安心しないで逃げるのよ!」

「二人も担いで逃げ切れるか! それに、オイラは鞄も持つんだぞ!」

「じゃあ、どうするのよ!」


 怒鳴るミーファに傷ついたティルの体を預け、真っ赤な髪の男の方に体を向けるフォン。地面から剣を抜いた男はフォンの目を見て、小さく呟く。


「お前、獣人か」

「ミーファ。早くティルを病院に! オイラがここは凌ぐ」


 男の言葉など聞こえていないのか、フォンはミーファにそう言う。ミーファはそれにはっきりとした口調で答える。


「わかったわ。気をつけてね」

「おう」


 フォンはそう言って男の方を見る。ミーファは胸から血を流すティルの足を引き摺りながら屋敷を出て行った。

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