第16回 因縁
静まり返った夜の街中を、街灯を頼りに駆け抜けるフォンとティル二人の影。昼間と打って違い、人は無くとても広く感じる。その為、フォンとティルは全力で街中を駆け抜ける。
そんな中、フォンが腕を組みながら身を震わせ言う。
「ううっ……。寒いよぉ〜。着る物を……」
「あるわけ無いだろ。荷物は全部宿に置いてあるからな」
「う〜っ。右手も痛くなってきた」
「馬鹿みたくコンクリートの堅い床を素手で思いっきり殴ったんだ。痛くて当然だろ」
フォンを馬鹿にする様にティルは首を横に振る。その言葉に不満そうな表情を浮かべながら、フォンはティルを見て言う。
「だってさ。あれしか脅かす方法がなかったじゃないか」
「お前はやっぱり馬鹿だ」
「誰が馬鹿だ!」
夜なので少し小さな声で怒鳴るフォンに、ティルがため息交じりの声で更に言葉を続ける。
「お前、近くに木箱があるのに、気付かなかったのか?」
「木箱……!? オッ、そう言えば、あったな木箱が」
「それを、軽く破壊するだけでよかったんだよ」
「ムムッ。なぜ、それを先に言わん」
フォンのこの言葉にティルは更に呆れた様子で、首を横に振る。この態度に、何やら馬鹿にされている様な気持ちになったフォンだが、そこは何とか怒りを堪えた。
そのフォンにティルが低い声で言い放つ。
「お前に、それを教えたらあいつを脅かせないだろ」
「確かにそうだな」
納得して首を大きく縦に振るフォンの喉に、ティルの左腕が掛かる。大きくフォンの体は宙に浮き、そのまま背中から地面に落ちる。冷たい路地に倒れるフォンの所に、ゆっくりとした足取りでティルがやってきて、フォンを見下す。
「ゲホッ、ゲホッ…。いきなり、何すんだ!」
喉を押さえながら噎せるフォンに、ティルが屈み込み声を掛ける。
「あそこに見える大きな屋敷にミーファが居る」
ティルの指差す先には大きな鉄柵の門があり、その奥に豪勢な屋敷が建っている。一階は明かりの灯る部屋があるが、二、三階は完全に明かりが消えている。多分、一階にミーファが捕まっているのだろう。
苦しそうに屋敷を見るフォンに、深刻そうな表情でティルは言う。
「お前には悪いが、あそこに行くのは俺一人だ」
そのティルの言葉に驚き振り向くフォンの顔面に、鋭く棍を振り抜かれる。一瞬の事でフォンは反応する事が出来ず、棍が顔面を直撃しフォンはそのまま意識を失う。
フォンが気を失ったのを確認したティルは、お金の入った鞄を取り立ち上がり、屋敷の方を見て呟く。
「何の因縁だ全く……」
ゆっくりと歩みだすティルは、棍をボックスの形に戻すと剣に変える。そして、ティルは今までとは違う雰囲気を漂わせゆっくりと歩みだした。
屋敷の一階の一つの部屋でロープで縛られたミーファの姿があった。そして、その部屋にはもう一人男が居た。背丈は高く、ツンツン頭の赤髪の男。耳には幾つかのピアスがつけてあり、鋭い目付きがとても恐ろしい。服装は少し変わっているが、雰囲気はピリピリしている。
「フフフフッ。もうじき、奴の首を……」
男はそう呟きながら窓の外を見る。ミーファはその男に恐怖を感じていた。そんなミーファを見た男はゆっくりと言う。
「お前には悪いと思うが、こうでもしないと、あいつは俺から逃げるからな」
「あ……あいつって……」
恐る恐る口を開くミーファに、男は腰にぶら下げた片刃の剣を鞘から少し抜き、刃を煌かせると静かに答える。
「ティル=ウォース。あいつは、仲間の仇だ」
「エッ!?」
「お前は奴との決着がつけば開放してやる」
「でも、あの人はそんな事する様には……」
「人は見た目で判断するな」
男はそう言って部屋を出て行く。静まり返った部屋で、ミーファは一人ティルの事を考えていた。