第15回 逆襲
フォンとティルと対峙する男達の表情はやけに引きつっている。それもそのはず、鎖で吊るされていたフォンとティルがどうやって抜け出したのか分からないからだ。
そんな中、フォンは一人の男を捜す。自分を殴り飛ばした大きな金槌の様な物を振り回していた男を。一方のティルは棍で次々と男を指していく。
「こいつに……こいつ。それから、お前とお前。俺を殴った分は倍にして返してやるからな」
そう、ティルが棍で指していたのは自分を殴った奴らだったのだ。ターゲットが決まった所で、フォンとティルは同時に言う。
「行くぞ!」
瞬発力を爆発させ、フォンは一気に金槌を持つ男に迫る。ティルもフォン程の瞬発力は無いが、棍を振り回しながら男達に迫る。
「クッ! お前等、もう一度痛めつけろ!」
その言葉と同時に大きな音を起てて、金槌を持った男が床に崩れ落ちる。その男の脇には軽く右腕を回すフォンの姿があった。男達は一瞬で顔色を変えざわめき逃げ様とするが、それをティルが棍でなぎ倒していく。フォンもティルに負けじと次々に男達を殴り飛ばす。
「フォン! 早いとこ片付けてミーファを助けに行くぞ!」
「おう。そんじゃまぁ、オイラも本気でいくぜ!」
軽い口調でそう言ったフォンは落ちている大きな金槌を軽々と拾い上げ、それを一気に振り抜く。空気を切る音と共に金槌の柄を握るフォンの手には、ずっしりと重い手ごたえを感じ、大勢の男達がその金槌でなぎ倒されていく。
そして、いつしか大勢いた男達も、あのイヤラシイ男一人になっている。フォンは金槌を投げ捨てて、ゆっくりと男の方に歩み寄る。投げ捨てられた金槌は大きな音を起てコンクリートの床に突き刺さる。床は砕かれ金槌が減り込み柄の部分が天井を指している。男は怯える様に後退っていくが、その後ろでは棍を振り回す音が聞こえてくる。
「どこに行く気だ?」
「まさか、自分だけ逃げないよね」
怯える表情の男をフォンとティルが挟み撃ちにする。男はナイフを取り出して、フォンに刃を向けるが、フォンは表情を変えずに男の後ろにいるティルを見る。呆れた様子のティルは、無防備な男の脹脛を棍で突く。
男は脹脛を突かれて、床に膝を落としその瞬間にフォンが男の持っていたナイフを蹴り飛ばす。ナイフは回転しながら壁際にある木箱に突き刺さる。
「さて、聞かせてもらおうか?」
「な、何をだ」
笑顔で質問するフォンに、男は声を震わせながら答える。その男に対し、棍を振り回しているティルが低い声で問いただす。
「ミーファは何処だ?」
「お、俺は、し、知らねぇ!」
「へ〜ッ。シラをきるのかぁ〜」
怯える表情の男にフォンが少々呆れた様子の声でそう言って、男の後ろに立つティルを見る。ティルも呆れた様子で首を横に振り何やら合図を送る。あまりにも、男がシラをきるのでフォンとティルは男を少々痛めつけることにしたのだ。
「フォン。手加減しろよ」
「手加減はするけど、どの位手加減すればいいんだろう?」
「気失わない程度にな」
「難しいな。こんなもんで良いのか?」
フォンが右手で床を思いっきり殴ると、轟々しい音と共に床が砕け岩が突起する。男はそのパワーを目の当たりにして、ビビリ足をガクガクと振るわせる。その男の後ろで、ティルは何やらフォンを馬鹿にする様な表情をしている。
男は唇を震わせて、怯える様な声で言う。
「わ、わわわかった。お、教える。だ、だから、命だけは」
「よし、それじゃあ、教えろ」
右手を左手で押さえながらフォンは力強く言う。フォンとティルをゆっくりと、交互に見る男にティルが棍を地面に激しく突きつけて怒鳴る。
「早く言え! 手遅れになったらどうなるかわかってるな」
「ヒィーッ。あ、あああの女はこの町の北の屋敷の男に売り渡した」
「北の屋敷か……」
複雑そうな表情でティルは考え込む。そのティルに代わって、フォンが満面の笑みを浮べて男に問う。
「それで、そのお金は何処にあるの?」
「そ、そそのお金はあの鞄に……」
男は倉庫の扉の側に置いてある皮の鞄を指差す。ゆっくり立ち上がったフォンは、扉の側の皮の鞄を開き中を見る。中には大量の札束が詰め込まれている。その札束に驚きで目を丸くするフォンに、ティルが低い声で言う。
「急ぐぞフォン。ミーファに何かあってからじゃ、遅いからな」
「オッ。そうでした。このお金もってさっさと行きますか」
皮の鞄を持ち上げたフォンは、不意に振り返る。倉庫を出ようとしたティルは、扉を開けたままフォンの事を見た。腰を抜かし座り込む男の前に、フォンは屈み込み笑顔で男の顔を見る。一方の男は震えながらフォンの顔を見上げている。その男にフォンは優しく微笑みながら言う。
「色々と教えてもらって悪いんだけど、こいつはミーファを傷つけたお返しな!」
そう言いながらフォンは男の頬を右手で殴り飛ばす。男の体は軽々と吹き飛び、倉庫の壁に叩きつけられ、そのまま気を失う。呆れた様なため息を吐くティルに構わず、フォンは自分の鞄とお金の入った鞄を持ち倉庫を後にした。