第12回 窓からの突撃
宿の部屋で武器の手入れをしているティルは、妙な胸騒ぎを感じた。その為、武器をすぐにボックスに戻すと腰にぶら下げて、部屋を後にする。その胸騒ぎが何なのか分からないが、なぜか足はある場所に向って進む。
中央広場の側まで来て、中央の檻の様子がおかしいのに気付いたティルは駆け出した。檻の中央ではボロボロの姿でフォンが倒れている。
「オイ! ここで何があった!」
「ウウッ……。見りゃ分かるだろ……」
痛みで顔を歪めながら体を起き上がらせる。厚手のコートは裂けて中の綿が溢れ出ていて、顔も傷だらけで所々血が出ている。ゆっくり立ち上がったフォンは、苦しそうに呼吸をし、着ていたコートを脱ぎ、鞄の上に落とし檻を手で掴む。そして、腕に力を入れて檻を引き裂こうとするが、傷が痛み力が入らない。
「ウオオオオッ! 壊れろ!」
腕の血管が浮き出して、今にも切れそうな程になっている。顔を真っ赤にするが檻はビクともしない。その様子に、ティルがゆっくりと口を開く。
「離れろ」
「何言ってんだ! オイラは、ここから出るんだ!」
「黙って離れろ! お前も斬られたいのか!」
気迫の篭ったティルの声にフォンはその場から少し離れる。腰にぶら下げたボックスの形を変えるティル。少々時間が掛かったが、ボックスは鋭い刃を持つ剣に変わる。
それを、構えたティルがゆっくりと息を吐き出しながら剣を振り下ろすと、鉄格子が一太刀で切り裂かれた。
「出してやるんだ、何があったか詳しく教えてもらうぞ」
「それは、移動しながらだ」
「いいだろう」
取り合えず、鞄とコートを持ちフォンは走り出す。ティルもそれに続くように走り出した。
薄暗く埃っぽい倉庫にロープで手足を縛られたミーファが居た。その周りには大勢の男たちがイヤラシイ目付きでミーファを見ている。ミーファの服は刃物で切られた様に引き裂かれ、白い肌が露にされている。
「グヘへへへッ。ここなら、助けに来る奴は居ないぜ」
男の一人がナイフをミーファの頬に当てて言う。声は倉庫の壁に当たり響き渡り、大勢の男たちが不適に笑い出す。怯えた目で男を見るミーファに、男は更に不気味に笑いながら言う。
「ゲヘヘヘヘッ。この目が好きだぜ。俺を楽しませてくれよ」
男がそう言った時、倉庫の二階の窓ガラスが大きな音をたてて割れ、同時に二人の男が飛び込んできた。ガラスが床に散らばり、その上に大きな鞄を片手に持った幼い顔の男と、茶色いコートを羽織った切れ目の男が綺麗に着地する。床に散らばったガラスは、窓から差し込む光を浴びて煌く。
「な、何だ貴様ら!」
ミーファにナイフを当てていた男が叫ぶと、大きな鞄を持った幼い顔の男が足元のガラスを踏み鳴らしながら、体の向きを変えて幼い声で言う。
「ほら、オイラの言った通りここに居たぞ、ティル」
ティルと呼ばれた切れ目の男も、ガラスを足で踏み鳴らしながら体の向きを変え、低い声で言い返す。
「ふざけるな! 何で窓から入る必要があるんだ! お前は馬鹿かフォン!」
幼い顔のフォンは顔を顰めながら、ティルの方を見る。ティルの米神には血管が浮き出ていて、相当怒っている事がフォンにもわかった。だから、フォンは「まぁまぁ」と、笑いながら言って、ティルを和ませようとしていた。
そんな二人を大勢の男たちが取り囲んでいき、持っている武器をゆっくりと構える。そんな状況でも、ティルはフォンに不満の声を上げる。
「大体、お前は考えると言うのを知らんのか!」
「落ち着けよ。オイラだって、考えてだな」
「考えて行動して、どうやったら窓から突っ込むって方法になるんだ!」
「窓からの方が早いと、オイラの考えが……」
「早い遅いの問題じゃないんだ! こんな目立つ入り方したら相手に囲まれるだろ!」
反省しながらティルの話を聞いていたフォンは、自分達の今の状況に苦笑いを浮べた。そのフォンの表情にティルは我に返り周りを見回す。完全に逃げ場は無く、大勢の武器を持った男達に囲まれ、流石のティルも是には苦笑いを浮べるしかなかった。