第10回 ボディーガード
檻の中を見つめる少女に、気付いていたフォンだが文句を言われると思い、何も言わずに少女に背を向け寝たフリをする。そのフォンに少女が可愛らしい声で言う。
「ちょっと! あなた獣人なの?」
「……」
その問いに答えず、寝たフリを続けるフォンに向って、少女は石を投げつけた。石は見事にフォンの頭に直撃し、石が当ると同時にフォンは体を起き上がらせて怒鳴る。
「イッタイな! 何するんだ!」
「あなたが人の話を聞かないからでしょ!」
「だからって、石ぶつけるなよ! 大体、まだ話なんてしてないだろ!」
「何? 私に口答え?」
少女はそう言うとフォンの事を睨み付ける。妙な圧力を感じたフォンは、少女の話を黙って聞くことにした。スカートを右手で押えながら、檻の前に正座して座る少女に、フォンも正座して話を聞く。
「私はミーファ=クロスト。一応、学生なんだよ。今は休みでこの港町を観光にきたんだけど、女の子の一人旅って危ないじゃない。それに――」
更に言葉を続けるミーファに、フォンは呆れて声を出すのを忘れる。暫し、ミーファの長話が続き、フォンは欠伸をしながらその長話を聞いていた。
「――ってなわけで、休みの間のボディーガードを頼みたいわけ」
「ファ〜ッ。んっ? 話終った?」
欠伸をしながらフォンはミーファの方を見る。それに激怒したミーファは足元にある石をフォンに目掛けて投げつけた。フォンは小さな檻の中を身軽に動き回り、飛んで来る石をかわしながら言う。
「わ〜っ! 止めろ! 物を投げ入れるなって書いてあるだろ!」
「そんな事書いてないわよ」
「話はちゃんと聞いてたよ! だ、だから石は!?」
フォンの額の切傷に鋭い石が直撃し、血が噴水の様に噴き出る。血を流しながらフォンは仰向けにレンガの道の上に倒れ動かなくなった。ミーファは驚きのあまり、声も出ない。暫くして、フォンの額の血は止まりようやく一段落ついくが、フォンの顔は額から流れた血で、真っ赤になっている。その血をタオルで拭いながらフォンは言う。
「ボディーガードするのは構わないけど、オイラここから出られないから……」
「だから、私が出してあげるって言ってるじゃない」
「その話は、初めて聞いたぞ。もっと先にその話をするべきだと思うな」
「でも、一つ条件があるわけ」
「オイラの話は無視か……。って、言うか条件ってボディーガードじゃないの?」
不満そうな顔のフォンに、ミーファが何が不満なのと言わんばかりの表情で、フォンを睨む。苦笑いを浮かべながらフォンは、ため息交じりにミーファに聞く。
「それで、条件って?」
「さっき話してた人も一緒じゃないと、駄目」
「さっき話してた人って……。ティル!?」
「そう。彼も一緒じゃないと出してあげない」
がっくりと肩を落とすフォンは、大きくため息を吐き首を横に振った後、その場に横になった。その行動が何を意味するか分からず、ミーファは首を傾げながら問う。
「何? その態度は。出たいんじゃないの?」
「出たいけど、あいつが一緒にボディーガードする訳ないし、諦めるよ」
「何よそれ!」
寝そべるフォンに向ってミーファが怒鳴るが、フォンは欠伸をしながらそれに答える。
「あいつは、冷たい氷のハートだ。だから、ボディーガードなんてする訳ないし、人の為に命張るなんてありえないよ」
「そんなの分からないわよ!」
「分かるんだって。まぁ、行けば分かるよ」
「分かった。行って来るわよ」
そう言ってミーファはその場を後にする。全く期待など持たずにフォンはミーファを見送った。
その後、ミーファは何処から調べたのか、ティルの宿泊する宿の前に着ていた。流石に子供っぽいフォンと違い、大人びたティルに会うのに緊張するミーファ。息を吐き心の準備をする。まるで告白する前の様な気分になっている。
そして、意を決してミーファは宿に入っていく。
早いものでクロスワールドも、第10回を過ぎました。これまで、愛読してくださる皆さん、ありがとうございます。
まだまだ続くこの物語を気長によろしくお願いします。
もっと沢山の人に読んで貰える様に頑張って行きたいと思います。
アドバイスや感想などお待ちしてます。