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第1回 厚着の男

 周りを緑溢れる木々に囲まれる小さな村。村の入り口に伸びる道は、多少荒れているが歩く分には問題はない。周辺には他に町など無く、完全に孤立しているこの村には、滅多に人など訪れない。

 数軒の木で造られた家が建ち並ぶこの村の中心には井戸があり、その井戸を皆飲み水として共有している。店など無いため、どの家も畑を耕している。そして、村の奥には他の家に比べて多少大きな家の屋根が顔を見せている。そこが、この村の村長の家だ。

 数人の若い男達が畑で汗を流し、井戸の周りでは若い女達が集まり立ち話をしている。井戸野側の広場では、幼い子供たちがワイワイと、じゃれ遊んでいる。

 その子供達の一人が村の出入口の方に、人影を発見する。立ち止まりジッとその人影を見つめる子供は、ゆっくりと母親に言う。


「ママー。誰か来たよ」


 子供の声に女達は出入口の方に目をやる。

 そこには、春だと言うのに分厚いフード付きのコートを着た人が立っていた。フードを深く被り顔が確認出来ない為、男なのか女なのか分からないが、身長は随分低い。160cm後半と言った所だろう。それから、何が入っているか分からないが、背中には大きな鞄を背負って、その鞄も随分と使い古しているようだ。頭に被ったフードから見える茶色の髪が風で揺れるが、人間なのかも確認できずにいる。

 一歩一歩確実に、村の中に入ってくる謎の人影。警戒する女達のもとに男達が駆け寄り、その手に持ったクワなど様々な道具を構える。謎の人影はそれに気付き、立ち止まりゆっくりと頭に被るフードを取った。

 その下から現われた顔は可愛らしく、髪は茶色く艶だっている。まるで女の子のような顔だが、それが男である事はすぐに分かった。


「怪しい者じゃないんです。オイラ、フォンっていいます。旅をしていて今晩泊めて頂こうと……」


 幼い声のフォンに村人たちは暫し呆気に取られている。先程の雰囲気と随分とギャップがあるせいだろう。その時、一人の男がある事に気付き、怯えた様子の声で言い放つ。


「き…黄色い瞳!? こいつ、獣人だ!」

「じゅ、獣人!?」


 男の言葉に村人達はざわめき始める。フォンは暫く村人達の話を聞いていた。何となくこうなる様な気がしていたため、あんまり驚いてはいない。獣人が人間に嫌われていると、随分昔から分かっていたからだ。

 暫くして手前にいる男が、フォンに言い放つ。


「出て行け! 獣人などこの村に泊められるか! 今すぐ出て行け、呪われた血筋の化物め!」


 男の言葉に続くように「出てけ、出てけ」と村人達が、合唱するかのように叫ぶ。フォンは仕方なく村を出て行き、すぐ側の大木に腰を下ろす。そして、鞄を下ろしてゆっくりと息を吐く。


「今日も野宿か……。まぁ、雨が降らなきゃそれでいいけど……」


 物々と独り言を口走りながら、フードを被りなおし、瞼を閉じてゆっくりと流れる風を、肌に感じているフォン。随分、空も黒く染まりいたるところに星が輝く。その時、フォンのお腹が鳴り響く。


「う〜っ。腹減った……。最近、何も食べてないな。そろそろ、お肉でも食べたいな……」


 今にも力尽きそうな弱々しい声で、そう呟くがお腹の音は鳴り止まない。何とかお腹の音を止めようと努力するが、それも無駄に終る。フォンは空腹に力尽きその場で気を失なった。



 日は暮れて村も静まり返り、家々には明かりが灯っている。村の一番奥にある他の家より少しばかり大きな家では、数人の男達が怖い顔をして談話する。


「クッ! あの獣人め! 一体何しに来たんだ!」


 体格の良い男がそう言い、テーブルを両手で激しく叩く。その振動でテーブルに置いてあるランプの火が、揺らぎ火の粉を舞い散らす。


「まさか、この村を偵察に来たんじゃ!」

「そうだとしたら、近い内に大勢の仲間を連れて!」

「そうなる前に、奴を始末しなければ……」


 男達は互いに顔を見合わせ頷く。そして、体格の良い男が、壁に立て掛けられている鉄の斧を手に取り、ゆっくりと静かな足取りでフォンのいる所に向う。

 月明かりが足元を薄らと照らすため、男達は音を起てずにフォンのもとに移動する事が出来た。空腹で気を失い、動かないフォンを村の男達が取り囲んだ。


「都合よく眠ってやがる」

「さっさとやるぞ!」


 男達は獣人フォンが寝ているのを確認し、体格の良い男が力一杯斧を振り上げた。その刃が月明かりで一瞬煌く。その瞬間、何処からとも無く不気味な遠吠えが響き渡る。その遠吠えに続くように、他の至る場所から様々な声の遠吠えが響く。


「う、ウワアアアアッ! もう駄目だ!」


 獣人を囲んでいた男達は一目散に村へ戻ると、家の明かりを全て消した。

 一瞬にして静まり返った村は、まるで誰も居なくなったかのようだった。

 数分後、その村に数体の化物がいた。怖ろしい眼球に、鋭く太くて長い牙、背中には鶏冠とさかの様な物が立っている。鋭い爪は地面を確りと踏みしめ、牙からはドロドロとした液体を滴らせていた。

今回のタイトルは『CROSS WORLD ―クロスワールド―』と、言う事ですが……。

自分なりに様々な種族が交わる世界と言う意味でこういう風にしました。

面白くなるかはわかりませんが、面白くなるように努力いたします。

これから、宜しくお願いします。感想やアドバイスなどお待ちしております。

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