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鬼と龍  作者: 徒花 紅兎
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第4話「尽くすことが生き甲斐よ」

早朝、白龍は二階から外を眺めていた。

与えられた一室を出た廊下から、それは微かに見える。

見れば見るほど噂とは掛け離れたその姿に、疑問を覚える。



「のぞき見とはずいぶん趣味が悪い。」



声の主は蒼犬だった。

朝も早くから相変わらず無愛想な表情だ。



「たまたま見つけただけだ。


 何をしているのかと気になってな。


 しかし…彼女は庭いじりが好きなのか?」



視線の先には、庭園と思われる場所で、

雑草を引き抜く紅鬼の姿があった。

手慣れている様からして、毎朝行っているように見える。



「あの植物が何かご存知か?」



指で示され、見覚えが無かったため、素直に首を横に振った。



「あれの根は猛毒で、体内に入れば二度と助からぬ。」



しれっと話す蒼犬に対し、白龍はぞくりと首筋が冷えた。



「あっちの植物は麻痺の効果があり、大の大人がものの数分で動けなくなる。


 あちらは、死にはしないが体に痛みを残し、治す方法は無い。あれに至っては…」


「もういい。そんな酷な話は朝から聞きたくない。」



ついに白龍が根をあげた。

つまりは彼女が育てているものは一般的に毒と呼ばれるもので、

恐らく戦に使われるものだ。



「あの一族はやたらと毒に詳しく、それの育て方も熟知している。


 まぁ、全ては戦うためだがな。」



戦い、勝利のためにありとあらゆる手段を使う。

自ら必要とすれば毒すらも育てる。


小柄な少女の見た目から、ずいぶんと冷酷な一面が見て取れる。

それでも植物が何かわからなければ、食事の準備をする健気な乙女に見えるのに。



「そういえば、蒼犬殿もずいぶんと毒植物に詳しいようだが?」



いやらしい笑みを彼女に向けたが、蒼犬はかえって自信の笑みを浮かべて答える。



「蛇黒様の懐で素性の知れぬ毒を勝手に育てさせるわけにはいかないのでな!」



嬉しそうだ。

そうだ、彼女もまた軍の中でも有名な蛇黒“信者”だ。


紅鬼にしても蒼犬にしても蛇黒の何がそんなに魅力的なのか。

先にそちらを解明したほうが、たやすい気がしてきた。



「そんなに蛇黒が好きか?」


「あの方にお仕え出来ることが私の誇りであり、尽くすことが生き甲斐よ。


 貴殿には理解出来ぬであろうがな。」



白龍自身、蛇黒を気に入っている。

だからこうして面白ついでに訪問したのだ。


だが、彼の臣下になりたいとも、力を貸したいとも思ったことは無い。

蛇黒の残虐で非道な政治はとうに知っている。

知ってはいても、旧知の仲であることに変わりはしないし、

手助けしないことも互いに理解しあえている。


だからこそ、対等な立場で会話が交わせられるのだ。

よく知っているからこそ、理解出来ない。

何故、彼に仕えることが出来るのか。



『女心とは、真に理解しがたい。』



ため息をつきながら、再び庭いじりをする紅鬼に視線を移した。


その時、


カーンカーンカーン 鐘が鳴らされ、城内が騒がしくなる。

音が聞こえた瞬間に紅鬼は口笛をならした。

すると一頭の白馬が突然現れ、彼女はしなやかに跨がると走り去った。



「何事だ…?」


「戦の合図だ。狼銀軍が攻めてきたのであろう。」


「ずいぶん呑気だな。


 軍師ともあろう蒼犬将軍が、そんな大事な時にこんな場所で油を売っててもよいのか?」


「私の出番では無いからな。」


「?」



疑問の表情を見せた白龍に蒼犬は余裕の笑みを見せる。



「ついてくるとよい。


 何故、鬼娘が紅鬼と呼ばれるのか、その目で確認させてやる。」



大人しく彼女のあとについて行く。

やがて到着したのは、城下の先の大門の先にある高台。

大門の向こうでは蛇黒軍と狼銀軍が対峙していた。


ここは戦場を一望出来る、蛇黒軍が本拠地として使っている場所だった。

一足先に蛇黒と黄猿は到着していたようで、軽く挨拶をした。



「黄猿将軍もここに居る気か?」


「俺の出番じゃ無いんでね。」



益々、疑問を浮かべる白龍。

蛇黒はまだ静かな戦場を見つめる。

その視線の先にはゆっくりと進んでくる狼銀軍の大群。

こちら側の蛇黒の軍は並んでいるだけであって、なんの動きも無い。


大丈夫なのか?と心配になるが、蛇黒の表情は口許に笑みを浮かべていた。


その時、ドン・ドン・ドンと太鼓の音が鳴りはじめた。

すると真っ黒な蛇黒軍に一筋の道があけられた。

その道を真っ直ぐにかけていく姿が見えた。


真っ白な馬に跨がり、赤みを帯びた大刀を構え、迷うことなくかけていく。

それは見紛うことなき、紅鬼の姿であった。



続く



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