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鬼と龍  作者: 徒花 紅兎
34/57

第34話「私はまだ紅輝を理解出来ていないのかも知れないですね」


結局、夕食は藍猪に招かれた形になった。

あの後しばらくして彼は紅輝を迎えに来たのだが、



「食事の用意は出来てありますので。」



と、有無を言わさず、白龍達を連れてきたのだ。

考えておくと言った黄猿の言葉は何処へ行ったのか。

完全に一緒に食べる事にされていた。

あと、宿もまだでしょうと、きっちり寝床も準備されているのだから、

流石に断る術が見つからない。

そんなわけで、全員で食事をとっているわけだが、


紅輝を動かすのが一番大変だった。

日誌にかじりついて微動だにしない。

最終的に紅天が再び彼女を叱り付け、しょぼんと落ち込んだ所を連れてきた。


そして今は食事を少しずつ口に運ぶものの、

一時、動きが止まったり、首を傾げたり、

とにかく、食事や他の事に上の空だ。



「すみません、考え事を始めると、解決するまでずっとあんな調子なんです。」



藍猪が彼女に代わり、笑顔で詫びた。

叱ってやりたい気持ちの白龍だったが、流石に堪えていた。



「そういえば、まだお名前を伺っておりませんでしたね?」


「おう、俺は黄猿だ。」



がたりと近くに控えていた家人達が音をたてた。

藍猪も目を丸くして固まる。



「お、黄猿将軍…?」


「あぁ、そうだ。 んで、こっちは白雪将王だ。」



再び、家人達が音をたてる。

益々、藍猪の目が丸くなり、



「皇帝陛下の弟君の………?」


「そうだ。」



彼は慌てて、座り方を正し、家人共々頭を下げた。



「大変失礼いたしました!!


 礼もせず、このような場所にお招きを!!


 どうかお許しくださいませ!!」


「あー…、そう固いのはよしてくれ。


 あんまりそういう柄じゃねぇんだ。


 普通にしてくれたほうが気楽で嬉しいんだが。」


「しかし…、」



藍猪はちらりと白龍を見る。

白雪将王の名は、驚くほど広まっている。

白龍と名乗っていた頃の比では無い。

皇帝と殆ど扱いが変わらないのでは無いかというほどだ。


だが、そんな事を気にする白龍では無い。

どちらかと言えば、礼儀は必要とすれど、

このような場所までかたっくるしいのは御免だった。



「公務で来ているわけでは無い。


 そのように畏まられては、食事も固い気がして頂けぬ。」



すると、藍猪は涙目になった。

白龍と黄猿の頭に嫌な予感が過ぎったが、彼は予想通りに熱い男を見せる。



「そんな、名高いお二方が、我らのような身分の者に、


 お優しい言葉をかけてくださるとは!!


 感激で、今宵は眠れそうもございませぬ!!」


『『頼むから黙って寝てくれ。』』



彼に合わせて家人も涙を流す様を見て、

黄猿も白龍も食事が味気無いように感じた。



「…しかし、何故そのような方々と、紅輝はお知り合いで?」



油断した隙を突かれた気分だった。

ちらりと紅輝を見ても、ずっと思案中で、話など一切聞いていなかった。



「あの子からは何も?」


「あ、はい。あまり自分のことを話してはくれませんので・・・・・・。」



確かに説明などしにくい。

あの悪帝の娘で、たくさんの兵を斬っていたなど。










「ならば、私から話すことは出来ぬ。」










白龍の言葉に藍猪はきょとんとした。



「貴殿に話していないのは何かしら理由あっての事だろう。


 それを勝手に私が教えては、彼女を侮辱するも同じ事だ。」



散々酷い目にあわせた自分が言うのもなんだと思ったが、

彼女の生活まで壊したいなどとは思わない。

せめてもの、白龍なりの償いだった。



「しかし、藍猪殿は何故、紅輝と?」



だが、白龍も気になるものは仕方ない。

黄猿が呆れるのはわかったが、聞いてみた。



「いやぁ、数年前に崖から落ちまして。


 怪我で動けなかった私を助けてくれたのです。


 薬草で簡単に止血されたのも驚きましたが、


 小柄なのに、私を支えて運んだ時は度肝を抜かれました。」



容易に想像が出来た。見捨てて置けなかったのだろう。



「村まで運ばれて、彼女のほうが深い傷を負っている事に気がつきまして。


 それに行く宛てもなさそうだったので、我が家で養生してもらったのです。」



恐らく、あの後から間もない頃だ。

見た目からして、死んでもおかしくない傷だったのだから。



「それから、あの山小屋を見つけて、


 あそこに住みたいと言い出されてしまい…。


 流石に危険だからと、夜にはこちらに連れて帰るようにしてるのです。


 本当にどうしてあそこに住みたがるのか・・・。」


「薬草のよく育つ場所だからだ。」


「え?薬草?」


「周りで薬草を育てていたようだった。


 あの場所は人気が無く、荒らされる心配も無い。


 それに土壌もいい案配なのだろう。


 だから、あそこに住み着きたがるんだ。」


「あぁ、なるほど。それは思ってもみませんでした。」



いつの間にそこまで観察していたのか。

黄猿は恐ろしい彼の観察力に、驚きを通り越し、半ば呆れていた。



「………だから、結婚してもらえないのかな。」



ぽつりと藍猪が呟いた。

白龍が驚いて彼を見つめていると、苦笑するように話した。



「彼女に惚れているのです。」



真っ直ぐな言葉に白龍は息が止まった。



「子供も産まれた事だし、


 きちんとした形で彼女を守りたいのです。


 でも、何度想いを告げても、受け入れてもらえなくて………。


 私はまだ紅輝を理解出来ていないのかも知れないですね、あなたのように。」



さびしそうな瞳で彼は紅輝を見つめた。


その事実に白龍も黄猿も、心が苦しくなった。

せめて幸せであって欲しかったものを、

彼女も蒼犬と同じように拒絶するのだ。

それほど、心の傷は深い。


藍猪を慰めるわけでは無かったが、



「貴殿より、昔を知っているだけだ。」



と白龍は言葉を返したのだった。



続く


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