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鬼と龍  作者: 徒花 紅兎
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第31話「それのどこに命の違いがございましょう」


「国に名は知られて無いですが、


 ここら一帯じゃあ、知れた医者様です。


 先生にかかれば、慢性の腰痛も赤子のようなものですわ!」



案内人は自慢げにそう言った。

白龍達は医者を探して、ここまで来たのだ。

わずかな情報ではあったものの、ここに恐ろしいほど腕の立つ医者がいると聞いたのだ。

どうやら評判は本当のようで、小屋の外には順番を待つ数名の人がいた。

幼い子供から老人まで、様々な人が待っている。


すると、一人の大人が小屋から出てきた。

その後を小さな男の子が着いてきて、薬のようなものを渡して言った。



「飲むのは一日に一度だけです!


 それを間違うと毒になってしまいますので、お気をつけください!」


「有難うね。」



子供の頭を一撫ですると大人は帰って行ったようだ。

すると案内人が近づきながら声を出す。



「おぉい!天坊(てんぼう)!」


「あ!おじさん!」



男の子は笑顔で走ってきた。



「どこか悪いのですか?


 またお腰が痛くなったのですか!?


 それともお怪我でもなさいましたか!?」


「落ち着け、落ち着け。


 今日は人を案内して来たんだよ。


 先生は中かい?すぐに会わせたい方がいるんだ。」



天坊と呼ばれた男の子は、じっと白龍達を見つめた。

まだ本当に幼い子供のはずなのに、見た目とは裏腹に丁寧な喋り方をする。

そんな様子に二人は内心驚いていた。



「いけません!」


「え!?」


「治療を待っている人がまだおられます!あちらの方々が先でございます!」


「だがな、天坊。


 こちらの方々は国のお偉い人達なんだぞ?


 お待たせしてしまっては失礼にあたる!」



それでも彼はきりっと鋭い目つきで、はっきりと答えた。







「病傷に優先順位があれど、命に優先順位などありません!!


 立場がどこにあれ、私達は同じ地上に立つ人間でございます!!


 それのどこに命の違いがございましょう!?」






大の大人が、腰ぐらいまでしかない子供に呆気に取られる。

返す言葉すら出てこない。とても子供に思えない。

大人でもここまでしっかりはっきり答える人間はあまり見ない。


だが、ここでふっと笑みを浮かべた人間がいる。



「それは失礼な事を申したな、すまない。」



固まる黄猿と案内人をよそに、

将王ともあろう白龍が詫び、頭を下げた。

案内人は血の気がさっと引いたが、

白龍は構わず視線を合わせるためにしゃがみ込み、話を続けた。



「そなたの言う通り、命に順序などつけてはならない。


 私達は医者様に聞きたいことがあるのだ、


 出来れば、今日中には話をしたいのだが、


 ここら辺りで待たせてもらってもよいだろうか?」


「あと三人ほどで終わりますから、


 それまでお待ち頂けるのであれば、先生にお話をいたします。」


「あぁ、それならばお願いしよう。」


「では、ここで少々お待ちください!」



そう言って彼は全力で走って行った。

黄猿はぽつりと呟く。



「面白いものを見つけたと思ったでしょ?」


「大人を言い負かす子供は初めて見た。実に見事だな。」



ちらりと見た白龍の表情が、久しぶりに明るくなった気がした。

そういえば、元来“子供”好きな人間だったと思い出した。


近くの椅子に腰掛けていると、ようやく天坊が戻ってきた。

彼の手には三つの椀があった。



「診察が終わりましたらお呼びいたしますので、こちらを飲んでお待ちください!」



渡された椀には煎れたばかりのお茶が入っていた。

一つ一つ手渡して説明をする。



「おじさんは疲労回復のお茶です。」



次に黄猿に手渡す。



「貴方様は二日酔いに効くお茶です。


 飲み過ぎは体に毒です。少しお控えください。」



受け取った黄猿が固まる。

近頃、毎晩のように飲んでいたのだ。


最後に白龍に手渡される。

受け取ると、先手をとった。



「いい香りだ、これはどんな効果があるのだ?」



椀を渡して身軽になった天坊は、

手を揃え、お辞儀をしながら答えた。



「緊張をほぐし、疲れを癒して、不眠を解消します。」


「………何故、私に?」


「無意識に拳を握られるのは、


 考えに追われ、休めていない証拠でございます。


 どうか、肩の力をお抜きくださいませ。」



ふと、手を見た。拳を作っていた。

確かに無意識だった。

ゆっくりと手を開き、天坊の顔を見つめた。

そして、茶を一口ゆっくりと飲む。



「有難う、美味い茶だ。」



再び、彼はお辞儀をし、小屋のほうへ走って行った。



「ずいぶんな洞察力を持った坊主だな。」


「恐ろしいほどの洞察力と、ついでに、恐ろしいほどの理解力も持っているな。」



関心する黄猿に、白龍は茶をすすりながら言った。



「私が一番位が高い人間だと気づきながら、


 わざと茶を手渡すのを最後にした。」


「…普通は位が高い順だろ?何でわざわざそんな事を。」


「礼をするためだ。」



この国ではその場にいる中で最も位や階級が高い人間一人だけに礼をする習慣がある。

彼は手が塞がった状態で現れた。

だからこそ、白龍を最後にまわし、

身軽になった所できちんとお辞儀をしたのだ。



「あの坊主は一体何者だ………?」


「いやぁ、昔っから先生についてまわっておりまして。


 物心つく頃からあんな性格なんですわぁ。」


「それにしたって、子供にゃ思えねぇぞ。」


「さぞかし、素晴らしい両親なのだろう。


 もしくは、医者がただ者じゃない。」



白龍は益々面白くなった。

どんな人間か見たくて仕方なかったのだ。


しばらくすると天坊は一人のおばあさんと小屋から出てきた。

そして大声で叫ぶ。



「診察は終りましたのでー!!こちらにどうぞー!!!」



三人はゆっくりと腰を上げ、小屋に近づいた。



「それではお見送りに行って参ります!」



小屋の中に向かって、彼はそう言い、おばあさんに着いていく。

少し離れた所で振り返り手を振る。

すると小屋から一人の人物が手を振り返して姿を現した。













呼吸が止まる。














服装も雰囲気も変わった。

幼さは消え失せ、ずっと大人びた姿。

別人のようだったが、見間違えでは無い。

見間違えるはずがない。
























「紅輝………?」



















思わず彼女の名前を呟いた。




続く


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