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鬼と龍  作者: 徒花 紅兎
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第16話「大丈夫、次で終わらせる」

白龍は白桃をその場に残し、先に陣地へ戻って来ていた。

黄猿が迎えをよこしたのだ。

それにより、紅鬼は白桃と共に帰還出来た。


並べられる二つの首。

蛇黒は嫌な笑みを浮かべ言う。



「三つとはいかぬか。まだまだよの。」



この男の何がいいのか。

越えられない壁に、白龍は顔をしかめる。


もう一人、しかめっつらの人間がいる。

それは蒼犬だ。

蛇黒の信頼は、紅鬼に注がれているという事を思い知らされたのだ。


紅鬼は蛇黒の剣を返す。

だが血糊が酷いので、自らの服で拭き取る。

益々、白龍が眉間にしわを寄せたのだが、

彼女の衣服は返り血で汚れているため、中々思うように汚れがとれない。


その姿に少しだけ蛇黒が驚いた表情を見せたが、

すぐに真顔に戻り、手を差し出す。

紅鬼は少し戸惑いながらも、怖ず怖ずと剣を手渡した。

彼は受け取ると、用意していた新しい布にそれを巻いた。


その時だった、城下町から幾人かの悲鳴が聞こえた。

紅鬼はすぐに白桃を呼ぶと、蛇黒に挨拶をして向かった。

白龍も慌ててその後を追った。


蛇黒はゆったりと城へ戻る支度を始めた。

彼の姿に、蒼犬はより一層顔をしかめ、呟く。



「一体、どうされたのだ……。」



蛇黒が珍しくもあんな表情を見せた事が引っ掛かって仕方ない。

そこに黄猿が答えを出す。



「汚れなんざ気にしない紅鬼が、拭き取ろうとした事に驚いたんだよ。」



そう言われ、蒼犬もその事実に少なからず驚く。



「鬼子も変化するってことかね……。」



ここにも壁を感じはじめる男がいた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



紅鬼が街へ着くと、そこには3人ほどの怪しい男たちが、略奪行為をしていた。

彼女は迷わず刀を振り上げた。



「紅鬼!待て!」



少し遅れて白龍が制止をしたが、遅い。

すでに振り下ろされ、二人分の頭と胴体が離された。

残りの一人が逃げ出す。

すぐに紅鬼が追おうとしたが、今度こそ白龍が止めた。


彼は自らの剣を鞘から抜くこと無く、男の足元をはらい、こけさせた。

すぐに、今度は首元へ一撃を入れ、気絶させる。

紅鬼の不思議そうな表情に、白龍は



「狼銀軍の者かも知れない。こういう場合は殺さず、生け捕れ。」



と、答えた。なるほどと紅鬼は頷く。

そして白龍が男の身柄を兵士に引き渡す頃、紅鬼はふと金魚の店を見た。

店主も娘も無事そうで、何となく近づいた。



「ひぃっ!」



だが、二人とも怯えた表情で小さな悲鳴をあげる。

がたがたと震えている、恐ろしいものを見ているように。

そして急いで店の奥へ消えてしまった。


紅鬼は自分の体を眺めた。

たくさんの返り血を浴びて、真っ赤に染まった、己の体がそこにあった。


その様子に白龍は声をかけようとしたのだが、

紅鬼は白桃の背に乗り、あっという間に走り去った。



「あんたに声かけず行っちまうたぁ、久しぶりに見たな。」



振り返ると黄猿が居た。どうやら、ここの処理を命じられたようだ。



「馬を借りるぞ。」


「そこの店の娘じゃなくていいのか?


 今なら弱い心に付け込めるぞ?」



嫌味ったらしい笑顔で挑発する黄猿に、

にっと口の端を上げ、白龍ははっきりと答えた。



「弱い女は好かん。」



去って行く白龍を見送り、黄猿はやれやれと頭をかいた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



その頃、狼銀軍の陣営では、大将である狼銀の天幕へ橙狐が報告にきた。

そして地面に寝そべっている主の姿に怒りを覚える。



「狼銀………休むならちゃんと寝台に入って休め!」


「ここのが落ち着くんだよ~」



寝そべったまま、狼銀は返事をする。

呆れ果てた橙狐は報告書を彼の頭にばしっと叩き付けた。

うぅ、と小さい唸りをあげたが、

体勢をいっこうに変えることなく、報告書に目を通す。



「ふぅん、一人捕まったんだ?」


「それはすでに処理はした。」


「お利口さんだね。」


「これで罪人は全て使い切ったぞ? 灰蛍も緑猫も失ってどうする気だ?」



ごろんと寝転がり、ようやく橙狐と目を合わせた。

するとそこへ紫鳥が入ってくる。



「狼銀!あんたの言う通り、二人を同じ場所に弔ったわよ!」


「ご苦労さん、紫鳥。」



にっこりと労うと、ようやく体を起こした。



「想い合うなら側に居ればいい。


 本当なら二人で寄り添って静かに暮らして欲しかったけど


 ………そうもいかせないのは私怨のせい。


 怒りや憎しみは命を奪う事しかしないからね。」



灰蛍と緑猫は結婚をせず、ただ復讐のために生きていた。

二人の同じ傷が二人を惹き合わせた。

悔しくも、先代紅鬼が二人を繋ぎ、次代紅鬼が二人を殺めたのだ。



「………だから、これからどうすんだって話なんだろ。」



そろそろ橙狐の我慢も限界そうだ。

だが、狼銀は柔らかく微笑みを浮かべる。



「俺には橙狐と紫鳥がいてくれればいい。」



狼銀の言葉に二人は固まる。が、彼の話はまだ続いた。



「彼女の強さの理由がようやくわかった。


 理由さえわかれば崩すのはたやすい事。」



彼が真顔になる時は本気の時ということを理解している。



「大丈夫、次で終わらせる。」



今までにない強気な大将に、二人は心を踊らせたのだ。



続く

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