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鬼と龍  作者: 徒花 紅兎
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第14話「その目に焼き付けるがいい」

紅鬼は攻めあぐねていた。

相手にしたことのない武器と人間。


男なのに、仕草や口調は女。


それと、母親に対する絶対的な憎悪。

これほど手練れな武人を相手にするのは、今までほとんど無く。

まるで黄猿や蒼犬と手合わせしている気分だった。


だが、彼らより重みを感じる。

どんなに攻めても、鎖が絡み付いてうまく刃が届かない。



「ほらほらどうしたの?いつもの威勢が無いじゃない。」



紫鳥は楽しそうに紅鬼の攻撃を流す。

しかし、その瞳は獲物から離したりしない。

一瞬でも油断すれば、すぐにでも命が奪われるだろう。


しばらくすると、狼銀軍の太鼓が再び鳴り出す。

何事かと警戒を強める紅鬼に、紫鳥はにっこりと笑顔を見せて言う。



「あんたも一人でよくやるものね 確か狙いは“武将”でしょう?


 せっかくだから、あたしからご褒美をあげるわ。」



ひゅん、と音が聞こえ、咄嗟に避ける。

地面に槍が刺さるのが見えたかと思ったら、次は一筋の刃で切り掛かられる。

それも軽やかに避け、少し離れた場所で体勢を立て直す。


目に入ったのは、紫鳥の両脇に現れた二人の武将。

片方は地面に刺さった槍を引き抜き、

もう片方はトンファーのような、腕にそった形の刃を持ち直し、構える。


二人に共通しているのは、“片腕”が無い事。

そして、紫鳥と同じくして感じる憎悪。



「槍の名手“灰蛍(かいけい)”に、流刃の女武将、“緑猫(りょくびょう)


 ………こりゃまた代物を引っ張り出してきたなぁ、敵さんも。」



彼らもまた、先代の紅鬼に体の一部を奪われた武将達だった。

この二人は紫鳥よりも若い人間だが、

まだ少年少女の頃に戦に立ち、皮肉にも鬼に遭遇したのである。


先代の紅鬼が戦場を引退してから、

ひっそりと別の軍で生活していたのを狼銀が呼んだのだ。

もちろん、先代の娘とは言え、その名は紅鬼。

長年の恨みを晴らすべく、この時を待っていた。


黄猿と蒼犬は援軍に出るべく、身支度を整えた。



「さてと、久しぶりに戦場へ行きますかね。」


「援軍は出さぬ」



蛇黒の制止に、誰もが驚いた。



「蛇黒、お前何を馬鹿な事を!


 あの三人は今までの武将とは格が違う!


 それを紅鬼一人で戦わせるつもりか!?」


「そのつもりだ。」



さらりと蛇黒は返答し、酒を嗜む。

流石に、黄猿も蒼犬もその答えを鵜呑みに出来なかった。

だが、皇帝は顔色一つ変えない。



「黄猿、蒼犬。貴様らは先代の戦を見たことはあるか?」


「………無いですぜ。俺が軍に入った時はすでに引退されてましたからなぁ。」



蒼犬も黄猿と同じ時期に軍に入ったため、先代紅鬼の戦は見たことが無い。



「ならば、その目に焼き付けるがいい。“紅鬼”の名の元における戦を。」



蛇黒の言葉を理解出来る者は誰もいなかった。意味がわからなかったのだ。


その時、紅鬼の口笛が二つ鳴る。

蒼犬は眉間にしわをよせ、「何の合図だ?」と黄猿に視線を向けるが、

彼もわからなかった。

もちろん、白龍も知らない。



すると、一頭の白馬が目の前に現れた。



「白と、う…?」



紅鬼の愛馬が何故こんな所に?と誰もが疑問を浮かべた。

白桃の主は今だ戦場の真っ只中だ。

だが、白桃は白龍を通り過ぎ、蛇黒の前で立ち止まった。

蛇黒はやれやれとため息をつき、椅子の背後から布に包まれた、謎の長物を取り出す。



「これをその馬にくくりつけてやれ。」



彼の言葉に、蒼犬が不思議な想いにかられながらも、

指示に従うため手をのばした。


だが、先にその長物を取ったのは白龍だった。



「これを紅鬼に渡せばいいんだな?」



怒りを含んでいる風にも見える。

戦の手伝いはしないはず。



「お前では無く、紅鬼のためだ。」



蛇黒の心を読み取ったのか、白龍はそう告げると、颯爽と白桃に跨がる。

白桃は紅鬼以外を乗せたりしない。

黄猿が慌ててかけよったが、白桃は暴れない。



「主の危機をわかっているんだな…。利口な馬だね、お前は。


 すまないが、紅鬼まで私を連れていってくれ。」



馬を撫でながら話かけた。

途端に白桃は走り出す。

黄猿たちは驚いたが、その後ろ姿を見つめた。



やがて白龍は戦場に近づく。

少し離れているが、声を張り上げる。



「紅鬼!!!」



その声に彼女は敵から距離を取った。

勿論、彼らは逃がしまいとしたが、紅鬼は器用にも身軽に離れる。

白桃に乗る白龍の姿に一瞬驚きはしたものの、

彼の手にあるものを見て、走る速度を上げる。



「受け取れ!!」



彼が投げたものを、見事に手に掴む。

同時に、その布が外れ、風に飛ばされ敵兵の視界が隠れた。

紫鳥の一斬で布は裂かれ、紅鬼の姿が見えた。

彼女の手には愛刀ともう一つの剣。



「あれは………。」



少し離れた場所から見る白龍は、それに見覚えがあった。

何年も前から変わらないその剣。

本来の持ち主の顔を見る。


顔色一つ変わらない蛇黒の顔がそこにある。



誰もが知っていた。

黄猿も蒼犬も驚き、動揺している。


紅鬼が持つのは蛇黒の愛刀だからだ。


彼女は二つの獲物を持ち直し、ゆっくりと構える。



「………まさか、あんた、双剣使いってわけ?」



紫鳥は背筋が冷えた。

初めて見た紅鬼の笑みに恐れを感じたのだ。



続く


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