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鬼と龍  作者: 徒花 紅兎
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第11話「動きづらそうだ」

税が重いとは言え、城下は予想外なことに賑わっていた。

確実に城へ仕入れ出来る商人が集められている。

だから、城と街にはお互いを補える構図が出来上がっている。


だが、それは城下だけの話。

その他の近隣の村や町はほとんどがやせ細り、貧しい生活を強いられていた。



「紅鬼、石を売っている店はどこだ?」



振り返り、そう尋ねた。

だが、当の本人は珍しそうに辺りをきょろきょろと見渡している。

力強く声をかけると、慌てて走ってきた。



「店の場所は?」



彼女は首を横にふる。



「………まぁ、散策がてら探せばいいか。


 じゃあ、まずは腹拵えだな。上手い料理屋はどこだ?」



再び、彼女は首を横にふる。



「………服の仕立て屋は?」



やっぱり彼女は首をふる。

しばらく悩んだ揚句、白龍は勇気を振り絞り、手の平を広げた。



「紅鬼、お前が城下に来たのはいつだ?」


[戦で通った時]


「買い物をしたのは?」


[無い。城でもらう。]



黄猿の笑顔の正体はこれだ。

紅鬼は城下に出掛けた事が無い。

そろそろ彼女に慣れてきた白龍ではあったが、やっぱり頭を抱えそうになる。

それでもめげることはしなかった。



「………よし、わかった。ならばお前の気になる所を見てまわろう。」



そう言われ、再びきょろきょろと見渡す。

そして、笑顔で走って行く。

白龍はすかさず、その襟元を後ろから捕まえた。

何故?という表情で見上げる彼女に彼は深いため息をついて言った。



「………一つ、決まりを作ろう。今日の買い物に研石はあっても刃物は無し。」



彼女が行こうとした先は刃物や剣等の武器を扱う店だった。

確かに気に入りそうだが、せっかく二人で出かけているというのに、

色気が無いと心が痛む。

まぁ、紅鬼相手に色気の云々を持ち出す事が、

どれほど馬鹿らしいかは、白龍自身も重々承知しているが、

彼なりのせめてもの抵抗である。


今度は薬を扱う店に行こうとしたので、それも止めた。

結果、困った顔を見せる紅鬼が残った。


白龍は彼女を見つけた服の仕立て屋まで連れて行く。

そして艶やかな色で作られた美しい衣服を手にとって見せる。



「こういう服を見てどう思う?」


[動きづらそうだ。]



予想通りの答えにため息が出る。

無理に着せた所で、すぐに駄目にしそうな気がしたので諦めた。



「紅鬼、この辺りにあるものを全て見るんだ。


 興味が無くても、とりあえず目に入れておく事。


 正体がわからない物を覚えて私に聞くんだ。」


[何故?]


「お前は蛇黒が作った国も知らずにいるつもりか?」



白龍の言葉に紅鬼は目を見開いた。



「お前が蛇黒を守る理由がどうであれ、


 この場所は少なからず奴が作った場所だ。


 何のためにあいつがここを作り、


 何の理由で動かしているのか。


 お前は何も知らないのであろう?」



紅鬼はゆっくりと景色を眺めた。そして素直に頷いた。



「守るなら、ちゃんと理解を示せ、


 あいつが何を守ろうとしているのか。


 お前自身があいつの為を思わねば、守り抜くなど、程遠い夢の話だ。」



今度は力強く頷いた。

彼女の素直さに少し笑みがこぼれる。

気合いを入れたように、紅鬼は探索へと走って行った。


ひたすらに物を見て回る紅鬼の姿を眺める。

本当にあどけない少女だ。

実年齢を聞いたが、どうも童顔のようで、かなり驚いた。

体格の小ささは生まれついてのものらしい。


そんな体の至る所に傷が残っているのを見た。

戦で深手を負っても、自らで傷口を縫っている姿も見た。

猿轡をくわえ、痛みにたえながら縫っていく様は、はたから見てて心が痛かった。


人に還せるものなら、還してやりたい。

だが、どうも最大の壁は蛇黒だ。

あの男を越える術が見つからない限り、それはとても不可能に感じた。

気に入ってはいるが嫌な男だとつくづく思った。


ふと、近くに軽食屋を見つけ、そこで休むことにした。

すると出てきたのは店主の娘と思われる女だった。

白龍も十分嫌な男である。


すかさず、彼女との距離を縮め、近くに立つ。

見目麗しい男に距離をつめられては、一介の娘など一たまりもない。



「ここには初めて来たのだけれど…この店の“売り”はなんだい?」



気がつけば、娘は壁際まで追い詰められ、息がかかりそうな近さだった。

彼女は胸を高鳴らせながら答える。



「う、うちでは“金魚”をすすめております。」


「あぁ、金魚かそれはいいね。好物だ。何か特別なのかい?」


「中に白餡を使っておりまして…」


「へぇ、白餡かぁ。」



娘の白い手に優しく触れ、顔近くまで引き寄せ、唇に触れそうな所で甘く囁く。



「この“白”と、どっちが美味しいのかな?」



顔を真っ赤に染める娘だったが、その視線が不意に違う方向へ“困惑”を向けた。

気配を察知した白龍がため息をつきながら振り返る。


そこには物珍しそうに二人を見つめる紅鬼の姿があった。

白龍は手で向こうへ行け、と合図を送る。

紅鬼は素直に後ろを向いた。


安心し、娘に向き直り、口説きを再開する。



「ところで、今日はいつまで仕事なんだい?」


「え、あ、あの………。」



再び、困惑の視線が送られる。

もう一度ため息をついて振り返るが、

彼の動きに合わせて、紅鬼も後ろを向く。

白龍が娘に向けば、紅鬼も娘に向く。

幾度かそれを繰り返して、ようやく諦めた白龍が、



「………金魚を頼む。」



と、注文をし、娘は苦笑いで奥へと行った。

白龍は店の長椅子に腰掛ける。

気まずいのか辺りに視線を向ける紅鬼に、隣へ座らせた。

座らせても落ち着きの無い紅鬼。

ちらちらと白龍を見るところから、

どうも自分が悪い事をしたのではないかと考えているように見てとれた。

白龍はそんな彼女の様子に、可笑しくなって笑いを堪えた。


しばらくして、噂の“金魚”が運ばれてきた。

それは金魚の形に似せて作られた伝統的なお菓子だった。

地方によって中身が違ったり、色がつけられたりする。

ここの店ではうっすら赤い着色がされていた。



「お前も食べていいぞ。」



そう白龍にすすめられる紅鬼だが、一つ掴むと、まじまじと金魚を眺める。



「………知らないのか?」



頷く彼女に「金魚だぞ?」と言った瞬間。

紅鬼は慌てて、お菓子と一緒に出されたお茶の中にそれを入れた。



「何してるんだ!?もったいない!!」



白龍はお茶の中からそれをすくいあげ、自分の口へ放り込んだ。

そんな彼の行動に、紅鬼は驚愕の眼差しを送る。



「お菓子だよ!お・菓・子!」



意図がわかり、白龍は金魚を割って中身を見せた。

紅鬼はようやく理解した。本物の魚の金魚では無い事を。

割った金魚を紅鬼の口に突っ込んでやる。

彼女は美味しそうに笑顔で味わった。

やはり甘い物が好きなのだ。


すると白龍はお茶を新しくいれてくれた娘に再び声をかける。



「君はここの店主の娘さんかい?」


「えぇ、そうです。」


「こんな可愛いらしくて頑張り屋さんな娘さんが居て、お父上は自慢だね。」


「い、いえ、そんな………。」



そんな楽しい会話に白龍が夢中になっている間、紅鬼は金魚に夢中になっていた。

そして、ふと白龍が振り返ると、すでに金魚は一匹もおらず。

紅鬼も気になるものを見つけ、支払いをせず走り出した。


城の外にも限らず、白龍の怒声が響いたのである。



続く


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