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BloodBox  作者: 平河尚斗
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手に入れた力

亀更新ですみません。こんなダメな僕の作品ですが読んでやってください。

 力を手に入れた状態で楓と向き合う。さっきまでとは世界が違って見えていた。

 感覚が全て鋭くなっているような感覚。さっきまでは遠目で見ていただけだった楓の表情や瞳の輝きまで見えるし、耳には微かな呼吸音すら聞こえてきている。

 彼女の翡翠の瞳が瞼の奥に消えていく。彼女が目を閉じて右手を持ち上げた。

 先ほどの真空刃のような攻撃が来るのかと思い、足に力を込めて意識を研ぎ澄ませて備える。

「行くよ~」

 ブンっと勢いよく振り遅された手から白い空気の裂け目のようなものが飛んでくるのが見える。今度は見えた、さっきは見えなかった攻撃。俺の頬を切り裂いたやつ。

 右足で軽く足元を蹴って横に飛んで回避する……つもりだったのだが。

「っ!?」

 俺の体は俺の想像以上に勢い良く横にはね飛んだ。回避するにはしたが勢いが止まらず、壁が眼前へと迫ってくる。顔面から衝突するのを避けようと右手を壁に叩きつけると、がんっ、と重い音を鳴らしながら壁が少し……凹んだ。

「なっ!? えぇ!?」

 音から推測できる通り、この壁は鉄製の強固なものだ。それにもかかわらず、俺の手形がきれいについている。

 あまりの衝撃に思考が停止する。

――一瞬でこれほどまでに人間の身体能力を上げるなんて、魔族の血は侮れないな。

「ぷっくくく……」

 呆然としていると後ろからこらえきれなくて零れたような笑い声が聞こえた。振り返って見てみると、笑っていたのはもちろん楓。

 笑われたことが少し恥ずかしくて、頬が熱くなるのを感じる。赤い顔を見られたくなかったので顔をそむけながらわざと強気で声を出す。

「こ、此処の壁、意外と脆いんだな」

「ふふふ、そうだね」

 ニコニコと擬音が聞こえてきそうな笑顔でこっちを見ている楓。

「~っ! 仕方ねーだろ! 俺もこんなに力が出るなんて思ってなかったんだから!」

「うん。私も初めて力を使った時はビックリしたよ~」

 笑みを崩さないままそう言って返す楓。そんな彼女を見ていたら照れている自分が馬鹿のように思えた。

「でも、いきなり実戦は危なかったね。一つづつ訓練していこうか」

 楓の提案に思わず俺は顔をしかめた。確かに自分の実力がわかっていない状態でやみくもに戦っても訓練にはならないし、危険だ。でも実戦で戦い方を覚えるのが一番早いのも事実。少しでも早く力を手に入れたい俺は実戦の方がいいのだが、魔族の血の事を俺よりも知っている彼女の提案はおとなしく受け入れた方がいいのだろう。

「分かったよ……。でも、実戦以外で何するんだ?」

「ん? 勉強だよ?」

「は?」

 思わず間抜けにも聞き返してしまった。この状況でいきなり勉強っておかしいだろ。

「だから、勉強って言ったの」

――いやいや、聞き逃したわけじゃないって。

「そうじゃなくて、何の勉強? てか、何で勉強?」

 俺は楓に力の使い方のレクチャーを頼んで、彼女も請け負ってくれたはずだ。そこで、何故勉強が出てきたのだろうか。いろいろ思考を巡らせていると、答えは彼女が口にしてくれた。

「魔族の血には種類があって、その種類によって力が違うっていうのはさっき教えたよね?」

「ああ、確かにそんなことを言っていたな」

「だから、総ちゃんはこれから自分の中に流れている血が何なのか、知らないといけないの」

――なるほど、だから勉強という訳か……ん?

 確かに、楓は魔族の血に種類があると言っていた。俺がどの種類なのか解放してみないとわからないと。

「力の開放に成功したから、俺の血が何の種類か分かるんじゃなかったのか?」

 俺の問いかけに楓は表情を固めるとぎこちなく向こうへと向き直り、歩き出した。

「早く調べに行くよ~」

――分からなかったのかよ……。

 楓の行動に思わず肩の力が抜ける。脱力したまま楓について行き、トレーニングルームを後にした。

 

                    ◆


 先ほど俺の腕を覆っていた血は、歩いている間に知らない間に引いていた。腕は元に戻っており今は生身だ。不思議な現象ではあるがいちいち気にしていては疲れてしまうので気にしない。

楓に連れられてきた部屋は、図書室だった。小学校かよ! と思わず突っ込みたくなったが、此処では何故か、突っ込んだら負けな気がしてならない。しかし、その設備の大きさは流石としか言いようがなく、とにかくでかい。かなり広い空間に並べられた沢山の大きな本棚、そのすべての本棚に所狭しと本が押し込められている。

 楓はここで勉強をすると言っていたが、その勉強の参考となる本を探すことも骨が折れそうだ。

 この中から本を探さなければいけないことにげんなりしつつ楓の様子を伺うと、楓は特にげんなりした様子も見せずに一直線に奥へと歩き出した。もしかするとどこにどんな本があるのか分かっているのかもしれない。だが、此処に存在している本の数は尋常ではないので少々不安にもなる。

「なぁ、どこにどんな本があるのか分かるのか?」

「え? 当たり前だよ。私、此処にある本は全部読んだもん。」

――マジですか……。

 何度も言うようにここにある本の数は尋常ではない。一日に十冊読んだとしても何年かかることか。それを楓は全部読んだという……。最初の印象で運動するのが好きな活発的な子だと思っていたが、本を読むのが趣味なおとなしい子なのかもしれない。

 改めて目の前にいる少女の事を観察していると、いきなり立ち止まって右側にある本棚から一冊の分厚い本を引っ張り出した。その本の分厚さは広辞苑の厚さをも上回るのではないかと思うほどだ。

「多分これに載ってるよ、総ちゃんの力の事」

「本当か!?」

 飛びつく勢いで楓から本を受け取ると表紙をめくる。目次と書かれたそこには見たことのある魔物の名前以外にも初めて目にするような魔物の名前も書いてあった。その数、ざっと三百。ここから先ほど俺の体に現れた力の形を探さなければならない。……早くも心が折れそうだ。

「はぁ……」

 無意識のうちに口から重たいため息が零れるが、読まないことには始まらないので、俺はページを捲った。

「何々……。『悪魔の血、悪魔は魔族の中でも最強を誇る。黒い炎を纏って戦う力だが、その力は強大で生半可な覚悟では扱うことができない。力の初期症状として、腕全体が血で覆われる』って、俺の力これじゃん!」

 思わず自分に突っ込みを入れてしまうほどに驚いた。俺の大声に近くにいた楓も驚いくが、すぐさま俺の手元を覗き見る。

「あ、ほんとだね!」

「何で一番最初の項目に載っている力なのに覚えてないんだよ?」

「気にしない気にしない。それよりも、早く続き」

 いまいち納得できない部分はあるが言っても仕方ないだろう。小さくため息を零して続きに目を走らせた。

「『悪魔の血の大きな特徴は黒炎と血による肉体の強化、治癒能力にある』」

――肉体の強化と治癒の能力……。なるほど、これで俺の肩の傷が塞がっているのとさっきの馬鹿力の説明がつく。

 さくさくと読み進めて行くが、大事な部分はここだけだろう。俺の中に流れるのは、魔族最強の悪魔の血。


               ◆


 自分の血の種類が分かったので俺達はトレーニングルームへと引き返した。目の前には再び力を解放している状態の楓。

「今から軽く攻撃するから、それを避けながら私に触れてみてね」

 実戦はまだ早いがそれに似た訓練なら問題ないと判断したので、もう一度このような状態になっている。

「分かった」

 返事を返しながら目を閉じる。力の開放の仕方、純粋な殺意を込める事。もう一度あの地獄の情景を思い出さなければならないのかと気が滅入りそうになるがそんなことを言っていては力のコントロールなんて不可能だろう。

――純粋な殺意……。奴らを、殺したい……。

「っ!」

 殺意を込めた瞬間、肩から血が流れ出す。その鮮血は一瞬で腕を覆うと硬質化した。

――さっきに比べればいくらか楽に出すことができた。

 多少はこの力を支配下に置くことができたということなのだろうか。

 拳を握りしめるとカチャと鎖が動いた時のような音がする。今更ながらに人間離れしたこの力を疎ましく、愛おしく思う。

――こんな力があったせいで全てを失った……。でも、今はこの力のおかげで復讐することができる。

 中央所の人間を殺す。そのために今しなければならないことはこの力を完全に支配下に置くことだ。俺は覚悟を改めると目を開き楓の目を見る。楓は一瞬肩を震わせたが、強く俺の目を見返してきた。

「始めるよ?」

「ああ、頼む」

 楓は俺の返事を聞くと右手を振り上げた。その勢いで空気が裂けながら俺の方に飛んでくる。

 さっきの二の舞になるのはごめんなので、右足で軽く地面を蹴って斜め前に飛び出す。上体を低く下げたまま滑るように走る。

 楓の攻撃を回避して楓に突っ込んでいく。俺と楓の距離はざっと百メートル、今の俺なら簡単に詰められる距離だ。

 しかし、そう簡単にはいかない。楓は右腕を何度も高速で乱雑に振り出した。大量の真空刃が俺めがけて降り注ぐ。

「っえぇ!」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。しかし、それも仕方ないと思いたい。視界に入るのは刃と刃と刃。視界一杯に刃。

――む、無理! 死ぬ!

 突っ込むのを諦め、真横に駆けだす。何とか、真空刃の密集地帯は抜け出すことに成功したが、連続で降り続く真空刃を避けるので精一杯で楓に近づくことができない。

――くっそ! どうすればいいんだ!?

 目で見えるし体も反応できる。でも、どんなふうに回避すればいいかとっさに思いつかない。頭が反応しきれてない。完全に体の反射神経だけで何とか回避している状態だ。

「くっ!」

 強化された身体能力のおかげで直撃は避けることができているが、このままじゃジリ貧だ。

 縦に飛んできた真空刃を横に軽くステップして回避する。でも、それが間違いだった。

「っ! やば!」

 横にステップしたため体が浮いている状態。そこに腹めがけての横向きの真空刃が飛んできていた。

――回避できない!

 人間は空中にいると何もできない無防備な状態になる。俺は条件反射で腕を前に出して盾のようにした。

 バシッと腕に衝撃が走るのと同時に俺の腕が……どうもなかった。

「え?」

 腕には何のダメージもなかった。軽い衝撃は確かにあったがボールが当たった程度の物だった。

――腕の血がこれ程の防御力を持っているなんて……。

 着地した瞬間目の高さに飛んできた真空刃に手で防ぐ。バシッと手に衝撃は来るがダメージはない。

――いける!

 これだけの防御力があるなら、手で弾ける物はすべて弾きつつ、体に当たりそうなものは回避すれば接近できる。

 希望の光を見出した俺は降り注ぐ真空刃の雨の中に突っ込んだ。体勢をできるだけ低くしてジグザグに駆け抜ける。視界に入った刃は片っ端から叩き落とす。

さっき俺の頬を切り裂いた楓の攻撃。その刃の中に飛び込むなんて自分でも正気の沙汰とは思えない。恐怖はある。でも、それ以上にこの状況を楽しんでいる自分がいた。

――このゾクゾク感……悪くない……。

 まさか自分にこんな変わった部分があるなんて思いもしなかった。これじゃあまるで戦闘狂だ。

 自分に軽く呆れつつも走る足を止めはしない。もう少しで楓に手が届く。

 最後に超至近距離での真空刃を横に体を捻って回避した。そして俺は手を伸ばして楓に触れ――

「甘いよ。総ちゃん」

 ――ることはなく、楓はいきなり視界から消えた。

「な!? ぐっ! がぁ!」

 楓がしゃがんで回避したんだと気付いた時には、腹に楓の足がめり込んでいた。肺の中の空気が一気に吐き出されて喉が痛む。しかも、楓は体を回転させながら起き上り、俺の左側頭部に綺麗な回し蹴りを打ち込んできた。

 頭に強い衝撃を受けたせいで視界がぐらぐら揺れるに加え、そのまま蹴りぬかれた勢いで大きく吹き飛ばされた。

 ニ、三回床でバウンドして転がる。勢いが止まった時には俺の体は既にボロボロだった。

――くそっ! 後ちょっとだったのに……って、俺……全然効いてない……?

 蹴られた瞬間、確かに衝撃は襲ってきたけど、ダメージ自体はほとんどない。肉体の強化はこんな形でも役に立つなんて。

「すごいな、悪魔の血って……」

「よそ見しちゃだめだよ~」

 楓の声に反応して振り返ると、再び降り注いでいる真空刃。

「やば!」

慌てて床を蹴り横に転がって回避する。

「ここからは本気で行くよ?」

 楓は笑顔で残酷なことを言うと、さっきまで右腕一本だったのに、両腕を使って真空刃を飛ばしてきた。

単純に飛んでくる数が二倍になる。それだけでもかなりの恐怖だ。

さっきは何とか接近できたけど、今度は全く近づく隙がない。避けるので精一杯だ。でも、片腕一本でも大変だったのに両腕になってからは回避すら難しくなっている。時折かすめる刃が俺の体に傷を増やしていった。

――どうする、どうすればいいんだ。このままじゃ一方的にやられるだけだ……!

 楓の攻撃には確実に殺気が込められている。気を抜いたら本気で死にかねない。

 防ぎきれなかった刃が脇腹を切り裂く。噴出した鮮血が俺に死と言う現実を叩きつけてくる。

――このまま……死ぬ? 嫌だ……死んでたまるか!

 死にたくないと強く思った瞬間、頭にイメージが流れ込んできた。まるで頭の中でビデオが再生されるように鮮明な映像のイメージが。

――っ!? これ、は?

 頭の中で再生されるイメージに意識が向いて一瞬動きを止めてしまう。気が付けば目の前に刃が迫っていた。

「くっそ!」

 目の前に迫る刃。俺は必死になって頭の中に再生されたイメージの通りに腕を動かした。

 そのイメージとは黒い炎を握り潰し、その中から刀を取り出している、悪魔の姿。

 右手に意識を集中させると、手に黒炎が現れる。それを握りつぶしながら勢いよく振り抜いた。そのまま目の前の真空刃を切り裂く。

 右手にある重い刀。刀身は漆黒で光をも飲み込むほどに深い。その形状は日本刀に酷似してる。この刀の名は……。

黒一文(こくいちもん)……」

「すごいね、そんなこともできるんだ」

 俺はその刀を楓に向けて真っ直ぐに構えた。

「ここからが本番だ……!」

「負けないよ~」

 俺は刀を強く握りしめて楓に向かって突っ込んだ。


読んでくださり、ありがとうございました。少しでも更新スピードを上げられるよう努力いたしますので見捨てないでやってください。

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