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影と少年。
何かの気配に振り返ると、そこには一つの影がいた。
影はみるみるうちに膨れて人の形をして、ぼくの足元から、プツリ、と切れた。
「ぼくはだれ」
「きみはかげ」
「ぼくのかげ」
「きみがかげ」
「きみのかげ」
「ぼくのかげ」
ふむ、ふむ、と何度も頷く影は、次にこう言った。
「なら、交換しよう」
「きみと、ぼく?」
「きみと、ぼくを」
「かまわないよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうに」
面白そうだから、と、彼は言った。
ああ、ああ。
これではどちらが影で
どちらが本物なのか。
分からない、分からない。
けれどもそこには、また、同じように少年と影が佇んでいた。