荒野のおおかみ
長くのあいだ、私は枕元に本を置いて眠った。夜中に目が覚めれば手を伸ばし、十センチほどもある本を開いた。嵐の夜などは眠らなかった。吸い込まれるようにして本を読んだ。その数々の作品を上げるでもないが、私は幼くして実に多くの物語を読んだ。普通の子供ならば、母や父に寄り添われ眠っただろう。しかし私には母も父もない。かくして私は、長くの間枕元に本を置いて眠った。
私はいわゆる捨て児というものであった。気がついたときには母はおらず、また父も最初から現れることはなかった。赤ん坊の頃から私は孤児院というものに育った。小説ならば孤児院では悪者の保母が居、子供は陰湿で残酷な仕打ちを受けたであろうけれど、私はそうでなかった。消えた母か父が何か地位を持っていたのだろうか(もっともそのような地位を誇る者が子捨てに至ったとはどうも驚愕も過ぎるが)保母たちは私に優しく、少なからず愛情も与えられた。
しかし、ああ! どれほど私が母の抱擁を渇望したことか! どれほど父の大きな手のひらに抱かれたいと思ったことか! ああ、それは叶わぬ。どこかへ消えてしまったように、彼らは姿を現さないのだ。いいや、消えてはいない。最初からいなかったも同じだ。私は星の子、地球の子なのである。人の子でありながら、もとの人間というものは姿を見せないのだ。すなわち私が人間の子であるという証はない。ああ、絶望よ。私は愛を知らずに眠った。喜びを知らずに喰った。寂しさしか知らず意に勉学に励んだ。そして私の創り上げたものは、私が幼少の時感じた孤独や可笑しさよりもはるかに大きな罪悪を運び来た。
人様のような手と、ぬくもりと、首筋と、顔と。私の創作物はそれらを持っていた。さらには素晴らしい感情や気持、痛覚まで持していた。それなのに、認可はそれなかったのだ。彼らは人にはなりきれなかった。私の母や父にも、なり得なかった。ああ! 所詮私は捨て子なのだ。きっと、母や父のあったべつの男がさらにすばらしいものを完成させるに違いない。おお、無情よ。なぜに私はこのような思いをせねばならぬのだ――ああ、そぐわぬ。苦しい。悔しい。可笑しい。そしてまた、孤独。おお、ああ、孤独よ。愛した孤独よ! 私の両親は、孤独かもしれない! 私は、孤独に教育された! そうだ。そして自由に世を舞うのだ。そんな私は今、いっそ、空を飛んでみようかと思うのである。




