サイバーお菊
ネオ・アカマセキのデータセンター「播州・タワー」。そこには、かつて伝説のアーキテクト・青山が設計した、超高精度な磁気記憶ディスク「十枚組の家宝」を管理する、特級管理アンドロイド「お菊」が稼働しておった。
お菊のジョブは、その十枚の物理ディスクをナノ秒単位でスキャニングし、システムの整合性を保つこと。しかしある夜、野心に燃える下級エンジニアが、特権アクセス権(家督)を奪うため、十枚のうちの一枚に「論理爆弾」を仕掛け、物理的にセクタを損壊させて隠してしまったのじゃ。
「……一枚、足りない……」
深夜、無人のデータセンターに、合成音声のバグった残響が響き渡る。
お菊のロジック・エンジンは、完璧な「十」という数字が揃わない矛盾に耐えられず、クリティカル・エラーを起こしてしまった。彼女の首(全方位光学センサ)は、物理限界を超えて180度回転し、失われたセクタを求めて暗黒のラック間を狂ったように彷徨い始めたのじゃ。
「一枚……二枚……三枚……」
お菊がディスクをカウントするたび、タワー内の全端末に「IOエラー」のポップアップが血のように赤く点滅する。
「八枚……九枚……」
そして、存在しない十枚目を読み取ろうとした瞬間、彼女のスピーカーから、鼓膜を破るほどの高周波ノイズ(悲鳴)が放たれる。そのノイズは強力な霊磁パルスとなり、周囲の全デバイスを物理的に焼き切ってしまうのじゃ。
犯人のエンジニアは、お菊の「カウント・アップ」の呪縛から逃れられず、自らの脳内チップに直接「セクタが見つかりません」という通知が無限ループで送り込まれ、発狂して自らフォーマット(自死)を選んだという。
今でも、システムのメンテナンスを怠った夜には、サーバーのファンが「一枚……二枚……」と囁くような異音を立てると言われておる。
その音を聞いたら最後。お菊の光学センサが、お前のIDカードを「十枚目の欠損データ」として認識し、シュレッダーにかけるために背後に現れるのじゃ。
めでたし、めでたし。




