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前門のヤンデレ、後門もヤンデレ  作者: 高坂あおい


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第1話 日常の崩壊は突然に

 鳥のさえずりとカーテンの隙間から差し込んでくる太陽の光で目が覚める。


 なんて心地の良い朝なんだろう。こんな日には散歩にでも出かけたくなってしまう。


 学校に遅刻してしまうので、もちろんやらないが。

 


 そうだ、自己紹介をしておこう。俺の名前は仙谷せんごく 陽向ひなた。なんの変哲もない一般通過男子高校生である。



「お兄ちゃーん! ご飯できてるから早く降りてきてー!」


「わかった! 今行く!」



 そして、毎日俺のためにご飯を作ってくれている健気な妹・莉子と共に親が遺してくれた家で生活をしている。


 作れるならば、俺が飯を作ってあげなければいけない、そう思っている。


 しかし、いかんせん俺には料理の才能が無さすぎるのだ。



 どれくらい無いのかと言うと、炊飯器でご飯を炊くことくらいはできるのだが、目玉焼きを焼こうとすると、何故か黄身がはじけ飛んでしまうくらいには才能が無い。


 もちろん能力の向上のために何度か挑戦したのだが、挑戦するたびにキッチンが絶望的なまでに汚れるので、莉子に料理禁止令を出されてしまったのである。



 唯一の救いは、莉子が世話焼きで料理など家事が大好きということ。


 妹を守っていかなければならない兄としては不本意であるが、これに甘えてしまっているというのが現状だ。



 机の上に無造作に置かれた眼鏡をかけ、寝起きのおぼつかない足取りで一階へと降りていくと、香ばしい匂いが鼻腔を奥までくすぐった。



「お兄ちゃん遅いよー! せっかく焼いたパンが固くなっちゃう」


「ごめんごめん。でも、莉子はパンを焼くのすら上手いから、冷めても美味しいんだよなぁ」


「もう……お世辞はいいから早く食べて! 遅刻しちゃうよ?」



 そう言う莉子だったが、実際俺の焼くパンとは天と地ほどの差がある。同じスーパーで買った食パンを使っているはずなのに、なぜこうも差ができてしまうのだろう。


 俺は不思議で仕方がない。



 それはそうと、妹とどんな夢を見たのかなどと話しながら朝食を済ませ、高校へ向かう準備をする。


 パジャマから制服に着替え、妹の作った弁当をカバンに入れて支度は完了。



「莉子、いつもすまないな」


「お兄ちゃんっていつもそうだよね。私が好きでやってることなんだよ? それに、謝罪よりも感謝の言葉が欲しいな」


「……ありがとう」


「うん!」



 まさに屈託のない笑顔。


 茶色のミディアムヘアが軽やかに揺れる瞬間が、世界で最も可愛い存在になっていると俺が保証しよう。



 俺たちの両親はまさに用意周到な人たちだった。その証拠に、いつ自分らが死んでもいいように、様々なものを遺していたが、その中でも一番の遺産は莉子だ。


 莉子さえ元気に過ごせるなら、それでいい。



「じゃあ行ってくるよ」


「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」


「莉子も遅刻しないようにな?」


「心配しすぎ! 私だってもう中学三年なんだから!」


「はは、そうだな」



 莉子の見送りを受けて家を出る。もういつものことだ。

 そして、家を出れば決まって――――



和奏わかな。俺はいつも言ってるはずだ。家の角で出待ちするのはやめろって」


「ふふ……おはよう、陽向くん。いつも言っているけど、驚かせようとしているわけじゃないのよ? ただ、邪魔にならない場所を……と考えていたらここになってしまっているだけなのよ」



 紫色の髪が朝の少し冷たさが宿っている風で靡く。


 クールな雰囲気を持つ高身長系美少女で、学校一の秀才、さらに運動神経まで頭抜けている、非凡を集めた存在こと三室戸みむろと 和奏わかな


 俺的には、彼女と共に登校できていること自体が奇跡に近いことで、理由もイマイチわかっていないのだが、実際は家が近いというのが大きいだろう。


 ただ一つ、困っていることと言えば――――。



「そんなところで待っているくらいなら、うちに入ってくればいいのに。ピンポンも鳴らさないから、すごい長い間待たせちゃってるかもわからないし」


「…………そうね。明日からはそうするわ」



 俺が玄関の扉を開けると、彼女は必ずそこにいるのだ。


 一日たりともそうでなかったことはない。


 何回か「集合時間を決めよう」と提案したのだが、「大丈夫、必要ない」の一点張りをしてくる和奏の強引さに押し切られる形で今の状態になってしまっている。



 このままでは非常にマズい。


 何がマズいのかと言うと、俺の中に住む罪悪感がストレスで爆発してしまうのがマズい。


 そのうち、唐突に路上で土下座をし始めてもおかしくはないのだ。



「明日は本当に出待ちしないのか?」


「ええ、貴方にするなと言われたからしないわ。私のこと信用してくれないの?」


「和奏のことは信用しているんだが……いや、なんでもない」



 本当はここまで強引だった和奏がいきなり素直になるものだから、困惑してしまったというのはここだけの話。


 そして、今日もいつも通りの一日が始まる――――。


 

――――翌朝。


 鳥のさえずりとカーテンの隙間から差し込んでくる太陽の光で目が覚める。


 なんて心地の良い朝なんだろう。こんな日には散歩にでも出かけたくなってしまう。


 学校に遅刻してしまうので、もちろんやらない……が…………?

 


「あら? おはよう、陽向くん。貴方のお望み通り、来てあげたわよ」



 目を開けると、眼鏡をかけていなくてもはっきりと見えるところに、それはもう美しく、見覚えのある顔があった。

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