【外伝】「サンタガールズとホワイトナイツ 〜ティルナノで過ごすクリスマス〜」
これは、クリスマスの夜が見せた幻——
ifの物語と思って、楽しんでいただけたら幸いです。
ティルナノの世界にも、クリスマスがやってきた。
外は雪。
白銀の角笛団のギルドハウスでは、女子メンバーたちが集まって、わいわいと賑やかにクリスマスツリーの飾り付けをしていた。
「——ノエル、その飾りを一つこっちにもくれないか」
「いいわね、そこに飾るとちょうどバランス良くなりそう」
「二人ともセンスいいよ! ……あれ、ここにあったベルの飾り、どこいったの?」
——ガランガランガランガラン!!
その時、ホールに突然大きなベルの音が響き渡った。
「きゃっ!? 何の音?」
「ちょ、みきぽん、ベル振りすぎ!
カランカランっていうレベルじゃなくてガランガランだから!」
赤いサンタドレスにケープ、三角帽子。
普段のローブを脱ぎ、完全に『聖夜仕様』になったまきぽんが、同じくサンタドレス姿のみきぽんからベルを取り上げる。
「えー、カランカラン、おもちろいでち」
「ふふ、みきぽんちゃんにとっては、楽しいおもちゃなのよね〜」
ノエルは微笑みながらツリーに綿を乗せている。
白いもふもふの縁取りのついた赤いマントは、いつもの癒し系ローブよりも、彼女を華やかに見せている。
「みなさん似合ってますね。リゼさんも、とても……」
「……その『とても』の続きを言うな」
壁際では、リゼがツリー横の脚立を押さえたまま、真っ赤な顔でうつむいていた。
いつもはいかつい鎧姿の彼女も、今日は膝上丈のサンタワンピースに身を包んでいる。
タイツを履いているとはいえ、短いスカートが恥ずかしいらしい。
「動くと裾がスースーする……これ、本当に防御力ゼロだな……」
「イベント装備だからね。物理防御より可愛さが優先されるやつだよ」
まきぽんがさらっと説明する。
解説系配信者の性で、イベント装備の数値はすでに頭に入っていた。
「それに、リゼのそういう姿、街の人たち絶対喜ぶって!」
「そ、そうか?」
「ほら、いつも助けてくれるカッコいいお姉さんが、サンタさんの正体だとわかったら、子どもたちのテンション爆上がりだよ?」
「……うぅ。そういうものなのか……」
リゼが頬を赤めて照れている横で、花瓶に花を生けていたフィオナが微笑んだ。
彼女だけは、サンタマントの下にいつもの巫女風の白いローブを着ている。
金糸の刺繍と赤のケープが妙に似合っていて、やたらと『聖夜感』がある。
「ていうか……女王陛下ではありませんか! 何故このような場に!?」
リゼにとってフィオナは、会社でいえば社長のようなものだ。
それが自分たちの家に突然現れたら、当然、緊張するだろう。
「畏まらなくて結構です。今日はお忍びで参りました」
「で、ですが……」
「今日だけは『女王フィオナ』ではなく、あなたの友人として接してほしいのです」
「……しょ、承知いたしました」
「ほら、その口調ですよ」
フィオナはクスリと笑った。
「さてと……あとは、ツリーの一番上の星を点灯させれば準備完了かな」
まきぽんは天井近くの星形オーナメントを見上げる。
この星は今年のクリスマスイベントで手に入る特別製の魔道具で、点灯すると天井一面に雪の結晶形の光が広がる……
広がる……はず……なのだが。
「……点かないね?」
「スイッチ、これで合ってるわよね?」
ノエルが台座のレバーをガチャガチャとさせるが、星はうんともすんとも言わない。
「こわれちゃったでちか?」
「うーん、中の魔導回路の配線が、切れちゃってるみたいだね……」
「はっ」
リゼがサッと青ざめる。
「……すまん、さっき歩いていて気づかずに、思いっきり蹴ってしまった」
「犯人自白した!」
まきぽんが即座にツッコむが、パーティ開始の時間は刻一刻と近づいている。
このままでは、せっかくのツリーが光らないまま、パーティーが始まってしまう。
「どうしよう、みんな来ちゃうよ……」
まきぽんがぽつりと呟いた、その頃——。
* * *
リアンナハの大通りを、白いスーツ姿の男たちが歩いていた。
「うーむ……こうして並んで歩くと、さすがに目立つな」
そう言って顎ひげを撫でたのは、銀髪の大柄な男——バルガンだ。
いつもは革のエプロン姿に身を包んだ料理人(一応戦士)だが、今日は黒シャツの上に白のダブルのジャケット。
片腕には大きな花束、もう片腕に料理が入った巨大な袋を抱えている。
「目立つどころか、完全にパレードですね。
さっきから、街の人たちの視線が……」
彼の隣で白いスーツの襟を直しながら、エリアスが苦笑した。
純白のジャケット、そして花束にプレゼントの大きな箱。
男四人で歩くと、ちょっとホストクラブ味すらある。
「にしてもさ」
先頭を歩いていたポニーテールの青年が、振り返りざまにニヤっと笑った。
彼はティルナノのバトル担当開発者、新堂直希だ。
今日は個人用のアカウント『Naokid』としてログインしている。
「俺らの格好、ちょっとずつデザイン違うんスよね。
グラフィック班のみんな、頑張ってくれたなー」
「新堂さんがどうしても複数パターン作れっていうから、
徹夜で仕上げたって、愚痴ってましたね」
エリアスが苦笑しながら言った。
「だってほら、いくらイベント衣装だからって、
みんな同じ格好じゃピク◯ンみたいじゃないっすか」
さすがゲーム関係者。
例えもゲームだし、それで全員に即通じる。
「いろんなデザインあった方が、ユーザーさんも喜ぶし、
絵的にも映えるでしょ。
SNSに上げてもらった時の、スクショ映えって大事っスよ」
「やっぱり絵面優先か……」
瑛士は、目の下にクマを作りながら奮闘していた、モデリング担当の顔を思い浮かべて軽くため息をついた。
とはいえ、まきぽんたちが喜んでくれるなら、それでいいか、とも思う。
「つか……あんた、誰?」
新堂はじっと隣の青年を見た。
ブリーチしすぎたようなパサパサの金髪に、釣り上がった目つき。
いもモー本編、北の洞窟戦に出てくる対戦相手だが、新堂は初対面だった。
「は? ヨーチューバーのリヒトだけど? 知らねーの?」
「ごめん、知らない」
リヒトはその一言にブチ切れた。元々短気な性格らしい。
「はぁ? てゆーか俺はユーザーなんだよ!
お・きゃ・く・さ・ま!
オメーらスタッフだろ? もっともてなせ……あててて!」
「おら、そこまでにしとけ!」
バルガンにヘッドロックをかまされて、リヒトはやっと黙った。
「……見てろよ、オメーらボコって、俺の配信で無様なとこを晒してやるからな!」
「ん? PvP? やる?」
リヒトの挑発を受けて、新堂の瞳がキラーンと光る。
獲物を見つけた獣の目つきだ。
「ガードキャンセルからの確定反撃、10連コンボで沈めてやんよ」
新堂は八重歯を見せてニヤッと笑った。
「……え、あんた……もしかして、
あの『ナオキッド』……さん?」
キャラの頭上に表示された名前を見て、サッとリヒトの顔色が変わる。
「お、あんた、俺のゲーセンランカー常連時代のこと、知ってんの?」
「(マジかよ、レジェンドじゃん……)
はい……ナマ言ってすみませんでした……」
リヒトは嘘のように大人しくなった。
「あ、そうそう。ティルナノ公式もさ、今度オフィシャル生放送やろうと思ってたとこなんよ」
「いいですね、PvPの公開対戦相手、第一号はリヒトくんにお願いしましょうか」
エリアスも乗ってきた。
「ひっ……マジで勘弁してください!!」
「ダーッハッハッ! いいねぇ、楽しみだ!」
バルガンが腕に抱えたオードブルの詰まったバッグを軽く持ち上げる。
「……とにかく」
エリアスは咳払いをして気持ちを切り替える。
「今年は、みんなが無事に笑って終われるイベントにしましょう。
そのために、私たちもいろいろ準備してきたのですから——」
「はいはい、そういう真面目なとこ、嫌いじゃないっスよ」
新堂が軽く手をひらひらさせる。
「じゃ、行きますか。今年のクリスマスパーティー会場へ!」
* * *
「あーん! 点かない、どうしよう!」
ギルドのホールでは、まきぽんがツリーの前で頭を抱えていた。
「エリアスたちが頑張って作った、今年の目玉ギミックなのに、……点灯できなかったらガッカリ感半端ないよ!」
「落ち着け、まきぽん」
リゼが脚立の上から呟く。
「配線——じゃなくて魔力線だな。
ここから星までの間で、どこかが切れてる」
「まかせるでち、みきぽんがモーニングスターでどっかんして、なおすでち——」
「待って待って! それ直すどころか、ギルドハウスごと吹っ飛ぶやつだから!」
まきぽんが全力で制止する。
「この寒空に、野営か……」
リゼの冷静なツッコミが入った、そのとき。
ギルドハウスの扉が、勢いよく開いた。
* * *
「おう! おめーら早速賑やかだな!」
白いジャケットに雪を積もらせたバルガンが、笑い声とともに入ってくる。
「バルガン! どうしよう、星のランプ壊れちゃった!」
まきぽんが叫ぶと、バルガンの後ろからエリアスたちも姿を現した。
白いジャケットに身を包んだ四人を見て、
女性陣は一瞬固まり、そして次の瞬間口を揃えて——。
「「「「「うわ、なんかホストクラb……」」」」」
「そこまでです」
エリアスが慌てて手を上げた。
「新堂さんのアイディアですからね。私の趣味じゃないです」
「えー、みんな似合ってるじゃん」
まきぽんはまじまじと男性陣たちを見て回った。
「エリアスも大丈夫、ちゃんと『イケメン枠』だよ?」
まきぽんが素直に感想を述べると、エリアスは小さく咳払いをした。
「……と、ともかく。星が点かないのですか?」
「うん。レバーが反応しなくて」
「見せてください」
エリアスが機材に手をかざすと、淡い光が指先から広がり、内部の魔導回路の状態が彼の脳内に流れ込んでくる。
「なるほど。ここですね」
彼が指を軽く弾くと、どこかで「カチッ」という小さな音がした。
次の瞬間——。
ツリーのてっぺんにある星が強く輝き出し、天井一面に、雪の結晶のような光がふわりと舞い散った。
そして光は、雪のようにゆっくりと降りながらホールを照らし出した。
「わぁ……!」
ノエルは思わず両手を胸の前で組み、
リゼもその横で、
「これは……すごいな」
と呟いた。
みきぽんはキラキラした目で、星とエリアスを交互に見上げていた。
「しゅごいでち……まほーでち!」
「確かに、これは物理ではありません(笑)」
エリアスが苦笑したところで、新堂が手を叩いた。
「はいはいはーい! それじゃ、全員集合ー。
無事にツリーも点灯したところで、
第一回ティルナノ・クリスマス記念撮影いきまーす!」
「お、出たなイベント運営担当!」
バルガンが笑いながら花束と料理をツリーの根元に置く。
「おし、ちっこいのは一番前な」
みきぽんはバルガンに抱っこされて、いちばん前にちょこんと置かれた。
その横に、もふもふの帽子をかぶったノエルやまきぽんも並ぶ。
「じゃ、女の子チームは中央で固まって〜。
後ろに俺とサカキさんとリヒト、それからバルガンさん」
「ん、じゃあ誰がシャッターを押すんだ?」
「へへっ、ちゃんとカメラにスクリプト仕込んであるんで、遠隔でいけますって」
「おお〜、さすが開発者だね!」
まきぽんに感心されて、新堂は嬉しそうに鼻を鳴らした。
遠慮気味に端っこに立つリヒトを見て、バルガンはガッと肩を組んだ。
「ちょ、オッサン! やめろよ!」
「あんだよ、今日はおめーも『仲間』だろ?」
そんなやり取りを経て、ツリーの前で全員がなんとか整列した。
「はい、みんなー」
新堂がスイッチを構え、にやりと笑う。
「『メリークリスマス』って言ったらシャッター切るからね。
3、2、1——」
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
全員の声が、綺麗に揃った。
星の光が降り注ぐ中、シャッターの音が響く。
——だがその瞬間、みきぽんが全力でベルを鳴らした。
ガランガランガランガラン!!
「うおっ、うるせぇっ!」
「ちょ、なんでこのタイミングで急に振り出すのよ!」
みきぽんはみんなをびっくりさせたことを喜び、きゃっきゃっとはしゃいでいる。
まきぽんのツッコミと、皆の笑い声が重なる。
出来上がった写真は、みんなが慌てた瞬間になってしまったけど……
でもそこには、溢れんばかりの笑顔が満ちていた。
サンタコスの少女たちと、純白のスーツの男たち。
ツリーの光と雪の結晶に包まれながら、
仲間たちが過ごした大切な時間は、確かにそこに刻まれていた。
* * *
そして後日、エリアス——瑛士は、その写真を職場のサブモニターの片隅に表示させて、心の中で静かに思う。
(——ああ、こういう思い出に繋がるなら、どんなに残業が続いても悪くはないな)
こうしてティルナノの、ちょっと騒がしくて温かいクリスマスは静かに幕を閉じたのだった。
.꒰ঌ .°ʚ _END_ ɞ°. ໒꒱
【用語解説】
◆PvP (ピーブイピー)
Player vs Player の略。プレイヤー同士で戦う対人戦のこと。
新堂の得意分野。
チーターや素行の悪いプレイヤーに「わからせ」でお灸を据えるのも、新堂の大事な仕事の一つである。
◆レジェンド
伝説の有名プレイヤーのこと
かつて、新堂はゲームセンターの大会やランキングでは常連の、有名な強豪プレイヤーだった。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!
角笛団のメンバーに、女王様に、リヒトに、新堂さん。
私の作品に登場するキャラたち、
みんな仲良しの、こんな世界線があったらいいなと思って書きました。
皆さんも、素敵なクリスマスをお過ごしください♪




