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『いもモー裏話』.....おねーたんたちの秘密、知りたいでち?  作者: 未知(いまだ・とも)


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14/19

【外伝】 もうひとつの「いつもの。」〜エリアスサイド〜

先日公開した番外編「いつもの。〜バルガンとエリアスの出会い編〜」を、別の角度から描いてみました。

——そう、あの夜の出来事を「エリアスの目線」で。


豪快に語るバルガンの裏で、エリアスは何を見て、何を感じていたのか。

彼の静かな決意や、心の奥の揺らぎを覗いていただければと思います。


本編を読んでくださった方はもちろん、これだけでも楽しめるように仕立てました。

どうぞ、もう一つの「いつもの。」をお楽しみください!

※この話は、先日公開した『いつもの。〜バルガンとエリアスの出会い編〜』を、エリアス視点から描いたものです。


。*❅┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅*。


ギルドの食堂は、いつものように賑やかだった。


煮込んだシチューの香り、焼き立てのパンの温もり、鹿肉のグリルの香ばしい匂い。

仲間たちの笑い声が弾ける中で、私は静かにパンを口に運んでいた。


「そういえばさ、バルガンとエリアスって、どうやって出会ったの?」

不意にまきぽんが問いかける。


……やれやれ。

彼はあの時のことを語り出すのだろうと、容易に予想できた。

そして案の定——


「ダーッハッハッ! よくぞ聞いてくれた! 教えてやろうじゃねえか!」


……嫌な予感しかしない。

やはり彼は、その時の話を「十倍面白く」語るという。

放っておいては誤解が生じかねない。

私は苦笑しつつ、エールを一口流し込んだ。


——少しだけ、本当のことを補足しておきましょうか。


。*❅┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅*。


あの日、私は王都リアンナハから地方視察に出ていた。

村々を巡り、飢饉や魔物被害の状況を見極めることは、国を守るドルイドとしての大切な務めだった。


ある村の酒場で、私は食事をとっていた。

そこに村人が血相を変えて駆け込んできた。


「ケルピーが湖から現れた!」


酒場の空気が一瞬にして凍りつく。


討伐の要請に、誰も名乗りを上げないが……

それも無理もない。

水辺の悪霊と呼ばれるケルピーは、並の腕では太刀打ちできぬ相手だ。


私は討伐を引き受けようとした。

それが力を持つものの責務だから。


だが——私よりも早く立ち上がった者がいた。

大きな体を揺らし、豪快に笑いながら。


「ダーッハッハッ! いいぜ、俺が行ってやる!」


初めて出会ったときの彼——バルガンは、あまりにも豪放磊落で、そして無鉄砲に見えた。

正直に言えば、死に急いでいるのではないかと危惧したほどだ。


だから、私は言った。

「私もご一緒します」

見捨てるわけにはいかないと思ったから。


彼はあっさりと頷いた。

「勝手についてこい!」


……こうして、私たちは討伐に赴くことになった。


。*❅┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅*。


私たちは武器を整え、夜の村を抜けて湖畔へと向かった。

歩きながらも、私は彼の背中から放たれる強い自信に圧倒されていた。


「ここか……」


湖畔に足を踏み入れた瞬間、ぞわりと悪寒が背筋を走った。

黒々とした水面からは、鼻をつく瘴気が漂い出している。


(……嫌な気配だ)


次の瞬間、水面が激しく泡立った。

闇を凝縮したかのように現れたのは、赤い瞳をぎらつかせた青白い馬の悪霊。

水面を割って飛び出すと同時に、激しい殺気が私たちを襲う。


息が詰まりそうなほどの圧力——。

それでも、私なら倒せない相手ではないはずだ。


そう思った矢先。

「うおおおおっ!!」

バルガンが躊躇なく斧を振りかざし、怪物へ突っ込んでいった。


……無茶だ!

この男、やはり頭で考えるより体が先に動くタイプか。


仕方なく、私は防御術で彼の援護に回った。

魔法陣で奔流を防ぎ、雷撃で相手の動きを鈍らせる。


けれど、ケルピーは想像以上にしぶとかった。

何度切りつけられても立ち上がり、水に潜っては再び現れる。

どうやらこの魔物は、水に浸かることで傷を癒し、無限に体力を回復させることができるようだ。


このままでは、埒が開かない。

『湖そのもの』から消し去ってしまわなくては……。


ここで、私は覚悟を決めた。

——自らの身を顧みずに、全力を出すしかない。


「もし、私が動けなくなってしまったら……村まで運んでいただけますか?」


彼にそう頼んだとき、正直に言えば怖かった。

あの魔法を使えば、私は立っていることもできなくなるとわかっていたから。


彼は最初ぽかんとした顔をしたが、すぐに笑って答えた。

「おーし、任せとけ!」


……なぜだろう。

会ったばかりだが、彼なら信頼してもいいと思えた。


「……では、いきます!」


深呼吸し、意識を一点に集中させる。

私は全身全霊をかけて、天候を操る上級魔法の詠唱に入った。

長い詠唱の間は完全に無防備になるし、膨大な魔力の奔流は、私の魔力と体力を根こそぎ奪い取る。


「沈黙せし大地よ 眠りより目覚めよ

 荒ぶる雲よ 雷を抱きて集え……」


……もう引き返すことはできない。

言葉を紡ぐごとに、意識が削られていくのを感じた。


「水よ、風よ、空よ、我が呼び声に応えよ

 雷の刃となりて 我が敵を撃て——!」


湖水が渦を巻き、雲となって天に昇る。

暗雲が瞬く間に広がり、夜空を覆った。


黒雲の中を稲光が走ると、大気が震え、髪が逆立つほどの電気が走った。

この一撃で、必ず終わらせる……!


「——《嵐天招雷テンペスト・カリドゥム》!」


天空を裂いて落ちた雷光が、ケルピーを直撃した。

轟音が大地を揺らし、世界が一瞬で真昼のように明るくなった。


悪霊の断末魔が聞こえたが、同時に、私はすでに限界を迎えていた。


……不意に、激しい雨が降り出した。

空へと上った膨大な量の水蒸気は、飽和し、やがて冷たい滴となって頬を打つ。

まるで、この世界の熱を沈めていくように。


「これで……村は……」


視界がフッと暗くなり、私は力尽きて倒れ込んだ。


だが次の瞬間、力強い腕に抱き上げられる。

「ったく、あんた……魔法はクソ強えーくせに、身体はひょろひょろだな!」


……くっ、人が気にしてることを……。

いや、確かにその通りだが……!


でも、この男を信じてよかった。


バルガンは、私を軽々と背負って村まで歩き始めた。

広い背中は、不思議と私に安堵を与えてくれた。

やがて雨は止み、心地よい温もりに包まれながら、まぶたが重くなる。


「……あなたがいてくれて、よかった」


最後にそう呟いたとき、夜空には、無数の星が降るように瞬いていた。


——思えば、この夜こそが。

私たちの長い旅路の、本当の始まりだったのだ。


。*❅┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅*。


私はそこまで思い返し、杯を置いた。

ちょうどそのとき、隣でバルガンが声を張り上げた。


「……てなワケで!」

バルガンはドンと私の肩を叩き、豪快に笑い声を上げた。

「ダーッハッハッ! 結局、こいつは俺の背中におぶさって村まで帰ったんだよ!」


食堂は一瞬静まり返り、すぐに大きな笑い声に包まれる。


【エリアス、内心ツッコミ多すぎるの草】

【思ったよりバルガン、話盛ってなかった】

【……やっぱ角笛団、最高の組み合わせだよな】

【エリアスもっと野菜食えwww】

【静かに照れてるの可愛いんだがw】


挿絵(By みてみん)


……やはり、こうなるのか。

私は小さくため息を吐き、パンをひとかけ口に運んだ。


「……あの時は、本当に助かりました。改めて感謝しています」


言葉にすると少し気恥ずかしいが、嘘ではない。

むしろ、ようやく口にできた本心だった。


「ダーッハッハッ! 気にすんな!

 ま、出会っちまったのも何かの縁だ……だろ?」


——まったく、この人は……。

軽いようでいて、心を揺さぶることを言う。


ノエルは口元に手を当てて微笑み、リゼはジョッキを傾けながら肩を揺らしている。

まきぽんは、

「なるほどね……それが『いつもの』ってやつだったんだ!」

としみじみ頷き、みきぽんは口をもぐもぐさせながら、

「みきぽんも、おねーたんがたおれたら、おんぶしてあげまち!」

と、無邪気に笑っていた。


笑い声が部屋中に弾け、暖炉の火がぱちぱちと燃え続ける。

その温かさの中で、私は静かに杯を傾けた。

——あの夜に芽生えた縁は、こうして今も続いているのだ。


(……ふむ。悪くはないですね)


心の中で呟いたその言葉は、麦酒(エール)の泡と共に消えていった。

いかがでしたでしょうか。

バルガン視点では、自らが主人公の豪快な冒険譚でしたが、エリアスサイドになると少し雰囲気が変わりますね。

彼の理知的な目線、そしてあの時ほんの少しの不安と、それを預けた安心感。

それが『今も続く信頼の原点』だったのだと思います。


本編、バルガンの語り口、そしてエリアスの語り口……、少しずつ文章の書き方を変えてみたのも感じていただけたら嬉しいです。


こうして両方の視点を並べて読むと、二人の関係性が立体的に見えてきます。

どちらの語りも『本物』で、互いに補い合っているからこそ、角笛団の絆は深いのでしょう。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

この『裏の物語』も皆さんの心に残ってくれたら嬉しいです。

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