表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
最終章 死んだ聖女は天使と共に戦う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/76

第70話 聖女と天使の終焉(後編)

「嘘……ですよね?……」


 ベルメールは魔法を放つ為に構えた右手が、目の前から忽然と消えたことに驚く。そして他のパーツを動かそうとしても動かない。

 彼はルイスから肉体の右腕をねられ、後方からは肉体を操る本体をフローに貫かれた。


「「メルは渡さない。お前の負けだ!」」


 ベルメールは文字通り、糸の切れた操り人形のように地面に倒れ込んだ。背後にいた影も、彼の中に吸い込まれていく。


 ケルベロスと戦っている二人から、ひときわ大きな声が上がった。


「割れろぉぉぉ!!」

「うあああぁぁぁぁ!!!」


 ――バリン!


 向こうも決着がついたようだ。


 ぼふん!っと音が鳴ると、視界の端でアーリィが人型になって倒れるのが見えた。そしてムーナが、元の愛らしい姿に戻ったケルベロスをそっと抱き上げると魔界に還した。


「はは……ケルベロスまで。まさか、あなたはそんな姿になっても、祈り続けたというのですか? はっ……つくづくその恐ろしい人だ……」


 地面に倒れたベルメールが憎々しげに私を睨んだ。体のあらゆる場所から魔晶石が生え、魔晶石だらけの私と目が合う。口は魔晶石で塞がれて喋れない。静かに彼を見下ろし睨んだ。

 

 傷ついたフローはいつもの姿に戻ると、涙を流しながら私を抱きしめた。


「メル……よくやりました。でもこんな姿にして、ごめんなさい……」


 私はゆっくり首を振る。ベルメールを討つために私が選んだことだ。フローはそっと私の頬に触るとふわりと微笑んだ。


「メルは私の自慢の親友です。いままでありがとう……」


(ちょっと……何を言ってるの?)


 それは、まるで別れの言葉に聞こえた。


「私はここまで見たいです……最後の仕事、頼みましたよ」


 フローの姿が崩れ白い光となって月夜に吸い込まれた。突然の事に、その場に居た全員が絶句する。


(ねぇ……嘘でしょ?)


 ルイスは悔しそうに唇を噛み、目を伏せた。私も理解が追い付かず、ぺたんと座り込んでしまう。

 だけど現実は悲しむ時間もくれなかった。

 魔界の扉が騒がしくなったのだ。さっきよりも激しく表面がボコボコと波打つ。


「うっ!!」


 ムーナがお腹を押さえてうずくまると同時に、扉から黒い触手が勢いよく伸びてきた。こちらの世界でも、あちらの世界でも一番弱いと判断された者から餌になってしまう。


 黒い触手は、倒れていたベルメールの左脚に巻きつくと、ずるずると扉の中へ手繰たぐり寄せる


「いやだ! お願いです!! どうか助けてください!!」


 ベルメールが引きずられる度に、血の筋が出来きる。彼が持っていた道具入れも、主人から離れ荷物が点々と落ちる。恐怖に顔を歪めながら彼は命乞いをした。


「お願いです! 助けてください!! 魔界は! 魔物の餌だけは!!――ああああ!!」


 彼は悲鳴と共に漆黒の世界に飲み込まれた。私達は呆然とそれを見ている事しかできなかった。ただ一人を除いては。ムーナが私の元に結界杭を持って駆け寄ってきた。


「こら! 返せッ! もう!!――すまないのじゃ。ベルメールは魔物に取られてしまった……それに、わらわも本体も体力の限界じゃ……メル、大丈夫? それにフローも……扉に結界は張れるかえ?」


 そうだ、私は重要な仕事を任されている。魔界の扉を閉じて結界を張る事だ。そして、ここでムーナとはお別れになってしまう。


 ムーナとの別れは、昨日みんなで話し合っていた。頭では理解していた……しかし、いざその時を迎えると胸が痛い。


 私は頷き、こわばる手で結界杭を受け取る。魔晶石が生成されて重い脚を引きずりながら歩いていると、バランスを崩しそうになる。転びそうな私にルイスが肩を貸してくれた。動くたびに、魔晶石が生えた部分が痛むはずなのに、体よりも心が痛かった。


 扉の前に立つと魔物達の動きが更に活発になった。


「二人とも、それ以上近づくと魔物達が興奮して本体わらわも抑えきれない」

「メル、本当に大丈夫なのか?」


 ルイスの不安そうな問いに、私は大きく頷いた。体も心も痛いけど、この杭を再発動させる力は残っていた。ムーナは静かに頷くと、重い扉を力込めて押すとゆっくりと扉が締り始める。彼女は小走りで扉の真ん前に立った。


「じゃあ、妾も帰る。二人ともありがとう……こっちでの生活は楽しかった。アーリィも目が覚めたらよろしくなのじゃ。あと……勇……ううん、なんでもない」


 彼女は『にぱっ』と笑うけど、涙が頬を伝う。じわじわと扉は閉ってゆく。口が封じられている私は、彼女の言葉に泣きながら頷く事しかできなかった。私の代わりにルイスが言葉を贈ってくれる。


「ムーナ。短い間だが、ありがとう。アーリィには伝える。魔界でも達者に暮らすんだぞ」

「うむ! じゃあメル、そろそろ」


 彼女の言葉に頷き、力を込めて結界杭を握った。涙で霞む視界は彼女の笑顔も見えない。渾身の力を込めて結界杭を地面に打ち込んだ。杭が発動し、杭から光が地面を這うように扉に向かって伸びてゆく……が。


「ちょっと! 本体!? 待つのじゃ!! 何をして!! ギャン!!!」


――べちん!!


 ムーナ叫び声と、何かが地面に叩きつけられる音が聞こえた。涙を拭って視界を取り戻そうとしても、手からは魔晶石がいたるところから飛び出ているので、目元に触れない。ぼやける視界の中、必死に目を凝らすと、黒い闇が私に迫っていた。


「ムーナこれは!? やめろ!! メルを離せ!! うあぁ!!」


 ルイスの叫びの後、一気に視界が黒に染まる。そして体ががくんと揺れて宙に浮いた。息苦しい……思う様に体が動かせない私は、気を失ってしまった。ふと、以前クラウス様から聞いた、女神の神託を思い出した。


 ああ、これの事か……フローに逢えるといいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ