第68話 私の為に祈って……
新たに参戦した人物達――ルイスとドラゴンの姿のアーリィを見たベルメールは、ケルベロスに首根っこを咥えられながら叫んだ。
「何故お前がここに!? 新聖女の元に行ったのでは!? それにどうやって結界内に入った!?」
その問いにルイスは彼を睨みながら答えた。
「お前の見え透いた罠など効かない。うちの騎士団は上司も含めて優秀で理解がある人達でね。城に現れた魔物は対応済みだ! それに俺が忠誠を誓ったのはこっちの聖女様なんでな。これ以上好きにさせない」
もちろん屋敷のみんなにこの件は伝えてある。ルイスとアーリィは王宮で一仕事したのち、アリサの相棒・リズを本邸から魔境の屋敷に連れて来た。彼女にアリサの保護をお願いしてある。そして、彼等はこの結界内にやって来た。
ベルメールは彼等が来ないと高を括っていたのだろう。心底驚いていた。そんなベルメールに、フローはしれっと言い放つ。
「この結界は『誰も入って来れない』なんて言っていませんよ? この結界は『内部に居る、邪悪な存在を逃がさない』モノです。入ってくるのは自由ですよ?」
「くそっ! こいつら、次から次へと……!!」
宙ぶらりんのベルメールは、恨めしそうにこちらを睨みながらも、自身の足を魔法で治療する。フローもふわりと後方に跳ぶと、ルイスの隣に着地した。ムーナとアーリィ私の後ろに集まる。ルイスはベルメールから視線を外さないまま、私達に話しかける。
「大臣が魔術師団を数名、屋敷に派遣してくれた。アリサはリズと魔術師団で保護する流れになっている。もうそろそろ合流できるだろう」
「魔術師団まで!?……よかった……」
それを聞いて大きく息を吐いた。安心して思わず膝の力が抜けそうになるが、ぐっと力を入れた。まだ白い歯を見せてはならない。
作戦ではベルメールとケルベロスを鎮圧。そしてケルベロス達を三匹とも魔界に返したら、ムーナも魔界に帰ることになっている。ムーナと私の二人で魔界の扉を閉めてから、先ほど抜いた結界杭で結界を張り直す。その為にも、この後の魔力の使い方は間違えられない。
「ルイス。私はフローのサポートに集中していいかな?」
「ああ、メルは祈りに集中してくれ。ケルベロスはアーリィとムーナで。ベルメールは僕が……」
「いえ、このまま私が請け負います。ルイスはメルを守ってください」
ルイスは真剣な顔でフローに問いかける。
「出来るのか?」
同じくフロー答えも真剣そのものだった。
「ええ、メルと一緒なら出来ます。メル、こんな事に捲き込んでごめんなさい。私の為に祈ってくれますか?」
最後の問いは悲しそうに、自信なさげに紫色の眼差しで私を見つめる。
子供の頃からずっと一緒に育ったフロー。嬉しい時間も悲しい時間も一緒に共有した親友。彼女が死んだと聞いた時は、私の魂も半分欠けてしまったと思うほどの喪失感だった。私は笑いかけて彼女の問いに答える。
「もちろん、頼まれなくてもフローの為に祈るよ。魂の片割れみたいな存在なんだもの」
「……メル、ありがとう。たとえ何が有ろうとも私は永遠に貴女と一緒です」
フローは私の組んだ手をそっと包み込む様に握り締めた。彼女の肌の感触は感じられないが、温かさを感じた気がした。フローと目が合うと微笑あい、大きく頷いた。――彼女の為にもみんなの為にも、何より自分の為に絶対にあきらめないし負けない。
「さぁ、みんな!気張れよ!! 」
ルイスの言葉に私達はそれぞれ返事をして構えた。




